好調だった4℃ホールディングスの業績が曲がり角にきている(編集部撮影)

販売低迷が続くジュエリー業界にあって、“最後の勝ち組”といわれてきた4℃ホールディングス(ヨンドシーHD、以下4℃)が2008年2月期以来、10年ぶりの営業減益に陥る見通しとなった。

4℃は1月9日、2017年3〜11月期(第3四半期)決算と同時に、今2018年2月期の通期業績見通しを下方修正。6期連続の過去最高を見込んだ従来予想の営業利益68.5億円から、同61.5億円(前期比5.8%減)になると発表した。

下方修正の大きな理由は、年間利益の3〜4割を稼ぐとされる需要期であるクリスマス商戦で苦戦したことだ。

既存店は17カ月連続の前年同月割れ

As-meエステール、ツツミ、ベリテといったライバル各社が何年も前から業績低迷に苦しむ中、4℃は前期まで9期連続の増益を達成し、営業利益や純利益は5期連続で過去最高を更新してきた。同社にいったい、何が起きているのか。

国内ジュエリーの小売市場規模は、長期低落傾向が続いてきた。ピーク時の1991年には3兆円を超えていたが、現在は1兆円を下回る。2008年のリーマンショック以降、1万〜2万円程度以下の低価格品しか売れなくなっていたが、2012年末ごろからはアベノミクスによる株価高騰もあり、富裕層向けに10万円以上の高額品も売れだした。

低価格品が主流ながら一部の高額品も売れ、中価格品はほとんど売れないという市場の二極化が、中価格品を得意としてきたジュエリー小売チェーン各社を直撃する。

そうした状況下、4℃は二極化対策にいち早く取り組み、好業績を続けてきた。2万円程度以下の低価格品と10万円前後の高額品に重点注力。アパレルを源流とする会社らしく商品の"鮮度管理"を徹底してきた。

売れない商品は早めに見切りをつけ、売れ行きのいい商品だけを店頭に並べる。売れない商品でも店頭に並べ続け値下げを繰り返す他社との違いが出て、4℃のおしゃれなデザインが若い女性のハートをつかんだ。

中でも、2014年6月に本格発売した変色にしにくい銀素材を使った「エターナルシルバー」シリーズは、1万〜2万円の低価格商品として、リングやネックレスがヒットした。

だが、4℃にも2016年ごろから変調の兆しが出始める。全国に200店以上展開する既存店の売り上げが、2016年8月から昨年12月まで17カ月連続で前年同月割れとなっているのだ。これだけ長く前年割れが続くのは、百貨店不況だった2000年代後半以来のことだ。

特に、書き入れ時の昨年12月にこの期間中で最大のマイナス11.5%となったことは、今期業績に大きく響いた。

ちなみに、既存店売り上げが低迷しても前2017年2月期に最高益を更新できたのは、併営するアパレル事業で赤字子会社を売却したことが大きい。


4℃は、既存店の売り上げ低迷や昨クリスマス商戦苦戦の理由の1つに、顧客の購買行動の変化を挙げる。インターネットで情報をあらかじめ吟味し、商品を“決め買い”する傾向だ。

「以前は、店舗に来て店員と相談しながら商品を選ぶ顧客が多かったが、最近はネットで商品を決めてから店舗に買いに来る顧客が増えている」(会社側)という。決め買いでは、商品がなければ終わり。店員の接客教育に熱心で、顧客の相談に応じながら商品を販売するスタイルが4℃の強みだが、それが生かせなくなっているのだ。

手っ取り早く、ネットで商品を買う顧客も増えている。

ジュエリーの場合、高額品のネット販売は少ないが、2015年ごろからは低価格品を中心にヤフオク!やメルカリなど売買仲介サイトへの出品が急増。出品されている商品の販売元は多岐にわたるが、若い女性に人気の4℃商品は比較的多い。店舗に行く手間が省け、定価より安く買えるケースも多いので、利用する人が増えているようだ。

ジュエリー大手各社も、数年前から自社サイトでのネット販売には意欲を見せている。4℃でも、ネット販売は前年同月比2ケタ増となる月も多く、店舗を含む全売り上げの数%を占めるようになっている。

ただ、市場全体が停滞する中、売買仲介サイトも含め、急成長するネット販売が実店舗での売り上げを食っている可能性は否定できない。

ブライダル商品の絞り込みが裏目

もう1つ、4℃の店舗販売低迷の要因となっているのが、中核を占めるブライダル関連商品の苦戦だ。

ブライダル関連商品の市場は少子化・非婚化で漸減傾向だが、価格が高く好採算のうえ、需要は年間を通じて安定しているため、各社とも力を入れている。


4℃ホールディングスは二極化にいち早く対応し、業績を伸ばしてきた(写真:4℃ホールディングス)

4℃は、百貨店内店舗と路面型専門店でブライダル関連商品を販売している。両販売ルートとも、売れ筋商品に絞り込んで効率よく販売することを狙いに、2016年5月には、百貨店と専門店で共通の商品を増やすなどアイテム数を減らした。

ところが、これが裏目に出る。「一生に一度の買い物」であるブライダル関連商品の場合は、選びやすさよりも、数多くの選択肢に迷いつつ自分に合う商品を選ぶことを顧客が望む傾向が強く、アイテム数の削減は逆効果となったのだ。

その後、今期にかけては徐々にアイテム数を増やしてきたが、ブライダル関連商品の苦戦は続き、既存店売り上げも低迷からなかなか抜け出せない。

同社は業績予想の下方修正と併せ、3月1日付での社長交代を発表した。2013年3月に就任した鈴木秀典社長に代わり、社内外から次の“本命”と見られていた瀧口昭弘専務が昇格する人事だ。

前期までの好業績を達成した一方で、最近の低迷の一因となったブライダル商品の戦略転換も主導した鈴木社長は取締役相談役に退き、木村祭氏会長が瀧口新社長とともに代表取締役として留任する。

木村・瀧口新体制が、ブライダル関連商品の立て直しを含め、4℃をどうやって増益基調に復帰させるか、大いに注目されそうだ。