SNS上で先日、「性犯罪者に遠慮はいらない」という趣旨の投稿が話題となりました。投稿者は「夜道突然ケツ触ってきた男をバッグとヒール放り出して全力で追いかけて引きずり倒して身分証奪ってそいつの家まで連行してから警察呼んで親共々厳重注意して謝罪させ」、相手を「顔面血まみれ」にしたものの、何のペナルティーもなかったとのこと。「性犯罪にあったら(中略)人様には見せられないくらい激昂するわ。だってなんかあったとき、抵抗してない=同意とか中世みたいなこと言ってくるバカがいるんだもん。だったら多少傷害容疑かけられても拒絶した証拠残したい」と訴えかけると、「その手の性犯罪者に情けなど無用です。無用ですが、過剰防衛とか言われないよう気を付けて下さい」「素晴らしい覚悟。見習います」「逃げたら力尽くで捕まえてOK」など、さまざまな声が上がりました。

 こうしたケースで、投稿者のような振る舞いは法的に許容されるのでしょうか。オトナンサー編集部では、グラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞きました。

正当防衛と過剰防衛の線引きは難しい

Q.「夜道で突然ケツを触る」行為には、どのような法的ペナルティーが科されうるでしょうか。

刈谷さん「『夜道で突然ケツを触る』行為は、強制わいせつ罪(刑法176条)に該当します。従来、同罪の成立には性的意図が必要とされていましたが、最高裁が平成29年11月29日、性的意図は不要との判断を下しました。同罪は『暴行又は脅迫を用いて』行うことが必要とされていますが、ここでいう『暴行』はかなり広く解釈されているので、被害者の隙をついて臀部や股間に手を差し入れる行為も広く暴行に該当するとされます。強制わいせつ罪に該当する場合、行為者には『6月以上10年以下の懲役』が刑罰として科されます。また、民事上の不法行為が成立するので、被害者は行為者に対して、その行為によって被った損害(慰謝料)を請求できます。損害額はケース・バイ・ケースですが、すれ違いざまに臀部を触るという態様であれば、高くても30万〜50万円となることが多いように思われます」

Q.今回のケースで、投稿者は男性「引きずり倒して」「顔面血まみれ」にしていますが、この行為は正当な防衛に当たるでしょうか、それとも過剰な防衛でしょうか。

刈谷さん「これは非常に難しい判断ですが、本件の場合、逃げる加害者を追いかけて引きずり倒し、顔面血まみれになるほどの暴行を加えていることから、正当防衛にはならない可能性が高いです。正当防衛(刑法36条1項)と過剰防衛(同2項)のいずれも、身に差し迫った違法な侵害に対して身を守るために、やむをえず反撃する場合を指す概念ですが、反撃の程度が社会的に相当とされる限度を超える場合は過剰防衛、この程度は相当だろうと認められる場合は正当防衛が成立するという関係になっています。そのため、現に襲われ続けており、必死に抵抗した結果、侵害者を『引きずり倒して』『顔面血まみれ』にさせた場合であれば、社会的相当性を逸脱した行為とまでは言えないことから、正当防衛が成立するものと思われます。しかしながら、自分の身を守ることが前提としても、今回のケースのように逃走していく侵害者を捕まえて『引きずり倒して』『顔面血まみれ』にさせる必要まではないでしょうから、正当防衛は成立しない可能性が高いと思われます。ただし、防衛行為としては正当と認められなくても、犯罪者を逃がさないために追いかけて捕まえていることから、現行犯逮捕(刑事訴訟法213条)の正当行為(刑法35条)として許容される余地はあるように思われます。なお、過剰防衛の場合は『情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる』とされているので傷害罪または暴行罪が成立し、事情によって刑罰が科されることになるでしょう。民事上においては、先にわいせつ行為をした側に相当な落ち度が認められることから、損害賠償額の算定にあたり双方の落ち度が考慮されることになります」

「拒絶」が証拠として残りにくい犯罪

Q.「抵抗しないと、同意したと受け取られるので、多少手荒な真似をしても拒絶した証拠を残すべき」という投稿者の意見についてどう思われますか。

刈谷さん「『抵抗しなかったから同意があった』と主張する加害者は、特に顔見知りによる犯行の場合に非常に多いですが、抵抗がなかったからといってただちに同意があったということにはなりません。むしろ、本来的に強制わいせつ罪や強制性交等罪は『暴行や脅迫』を用いて抵抗できないような状態にしてからわいせつ行為に及ぶ犯罪類型ですから、抵抗がなかったということを被害者に不利に認定することは許されないと言うべきです。一方で、目撃者が存在しにくい犯罪類型でもあることから、拒絶の意思を表示することも大事なことですが『拒絶』が証拠として残りにくいとも言えます。相手が逆上して深刻な被害に至るケースも少なくないので、とにかく被害に遭わないよう予防を心がけることや、もしも被害に遭ったら一目散に逃げることが大事だと思います」

(オトナンサー編集部)