はせがわは今年10月イオンタウンおゆみ野に出店した。従来店にない敷居の低さが特徴だ(記者撮影)

仏壇はこれからショッピングセンター(SC)で買う時代かもしれない。千葉市にあるイオンタウンおゆみ野。ユニクロの隣に今年10月、仏壇・仏具最大手のはせがわが新店をオープンさせた。

明るめの照明。商品を見て歩くスペースもゆったりと確保した。入り口には線香やろうそくのギフト商品などを配置し、仏壇は側面や後方に陳列。目立つ場所にはカリモク家具と共同開発した家具調の仏壇をディスプレーし、伝統的な仏壇は一番奥に並べている。一般的な仏壇店のイメージを大きく覆す店舗づくりだ。

敷居の低い店づくりにこだわる


イオンタウンおゆみ野店にはカリモク家具と共同開発した仏壇が並ぶ。植田和善店長は敷居の低い店づくりにこだわっているという(記者撮影)

「開店以来、商品の購入に加えて、供養に関する質問や相談に来るお客様がとても多い」と、植田和善店長は話す。入りやすい店の雰囲気もさることながら、普段の買い物で使うSC内の店舗だからこそ、気軽に立ち寄るのだろう。

敷居の低い店を目指し、接客方法にも気を使う。「いらっしゃいませ」など声掛けはするが、来店客にすぐ近づいて、つきっきりにはならない。服装もあまり堅苦しくならないようにと、植田店長はノーネクタイで店に出ることもある。

「線香1つ、ろうそく1つを気軽に買われる。少し考えたいといってお店を後にし、30分後に再び来店して仏壇を買っていただいたお客様もいる。従来の店舗ではほとんどなかったこと」(植田店長)。SC内という立地が、顧客の新たな購買行動を引き出している。

「おててのしわとしわを合せてしあわせ なーむ」と少女が唱えるテレビCMで知名度を上げたはせがわ。2代目社長の長谷川裕一氏が業容拡大に舵を切った。九州・山口県を足掛かりに関東、東海にも進出して店舗網を張り巡らせ、業界最大手の地位を確立した。売上高は200億円台前半から半ばをおおむね維持してきたが、消費増税駆け込み需要の反動減で193億円に落ち込んだ2015年3月期以降、200億円台を回復できないままでいる。

売り上げが伸び悩んでいる背景には何があるのか。和室のないマンションが増加しているなどの住宅事情や、供養に対する考え方の変化に伴って多様化した顧客ニーズに十分に対応できていないとみられる。

新型店舗で仏壇店のイメージを覆す

打開策の1つが新たな店舗スタイルの開発だ。従来はロードサイド店が中心。家族が亡くなるという非日常的な出来事が起こったとき、明確な購入意思をもって来店する顧客を念頭においていた。だが、こうした「待ちの姿勢」だけでは限界がある。「供養や祈り、願いを日常生活に取り入れ、より身近なものにしていただくために新しい店舗づくりに取り組んだ」と、江崎徹社長は語る。ロードサイド店よりも小さい商圏で店舗も小規模ながら、高い収益性が得られるスタイルを確立したいとの狙いもあった。


イオンタウンおゆみ野に出店したはせがわの店頭。カラフルなろうそくなど、手に取って見たくなるような商品が並ぶ(記者撮影)

そこで打ち出したのが「リビングスタイル店」だ。駅に近く便利な立地、供養や祈り、願いをより日常的にするような商品提案、そして従来の仏壇店のイメージを覆す明るさと入りやすさを追求した店舗となっている。2015年に第1号店を東京都内に出店、現在は関東を中心に6店舗を展開する。「幸いにもお客様に受け入れられ、既存店に比べて収益化するまでの期間が短い」(江崎社長)。

先述したイオンタウンおゆみ野店も、リビングスタイル店の1つだ。駅近の立地でスタートした新型店舗だが、「日常性」を追求する中で、SCへの出店にも取り組んでいる。2017年11月には、愛知県日進市に新規開業したセブン&アイ・ホールディングス運営のプライムツリー赤池にも出店した。「当初はSCに仏壇店はそぐわないという意見も頂戴したが、多様な年齢層のニーズに応えるというSC側の事情もあり、最近では理解も得られるようになった」と江崎社長は話す。


はせがわがカリモク家具と共同開発した家具調の仏壇はフローリングのリビングにもなじむ(写真:はせがわ)

SCへの出店展開の中で生まれたのが、国内最大手家具メーカーのカリモク家具と共同開発した家具調の仏壇だ。仏間に置く伝統的な仏壇ではなく、フローリングのリビングにも調和するようにデザイン性を追求した。2015年に第1弾の「ソリッドボード」を発売。その後も商品を追加し、現在は4シリーズとなっている。

 SC出店の際、メインターゲットに想定したのが、年配女性とその娘、つまり女性顧客だ。女性に支持されるための商品作りという発想から、家具メーカーとの共同開発に行き着いた。実際の商品開発では「横に広がってスペースをとる扉が邪魔」「仏具を片付けないと扉を閉められない」といった利用者の声を反映。扉の開け閉めがしやすい仏壇やガラス扉の仏壇も開発した。フローリングに合わせたカラーバリエーションも取りそろえた。

SCで売れる価格設定を追求


はせがわがカリモク家具と共同開発した家具調の仏壇。一見すると仏壇とはわからない(写真:はせがわ)

SCで売る仏壇にふさわしい価格設定もこだわった。一般的な仏壇の価格は、仏具と合わせて平均30万円くらいといわれるが、実際には大きさや素材によって10万円を切る仏壇から100万円を超えるものまで、価格の幅が広い。「冷蔵庫や大型テレビといった家電などを参考にして、まずは20万円が顧客に受け入れられる価格だと想定した」(江崎社長)。

そこで第1弾のソリッドボードでは仏壇を20万円台、仏壇を置く台を10万円台に設定。第2弾以降は顧客ニーズを見極めながら、その上下の価格帯の商品も投入している。

カリモクとのコラボ仏壇は販売が好調で、既存店でも取り扱いを開始。さらに他の家具メーカーとも共同開発を進める。リビングに合うデザイン性の高い家具調仏壇のラインナップを拡充し、統一したブランドイメージで顧客に訴求していく戦略も構想中だ。


埼玉県久喜市のSC「モラージュ菖蒲」に出店したはせがわの新型店舗「こころのアトリエ」。縁起物や和雑貨を取り扱う(写真:はせがわ)

さらなる挑戦的な試みも始めている。「アイ・ラブ・ユーは、かたちにできる」をキャッチフレーズに縁起物や和雑貨を取り扱う、はせがわとしてはまったく新しい店舗「こころのアトリエ」だ。現在は、横浜市港北区のトレッサ横浜と埼玉県久喜市のモラージュ菖蒲と、いずれもSCに2店舗を展開している。

「仏壇を置かない」店も作る


はせがわの江崎徹社長は顧客ニーズの多様化を受け、新型店舗の開発を積極的に進めている(写真:尾形文繁)

「今はまだ実験段階なので仏壇も若干ながら置いているが、祈りや願い、感謝をコンセプトにアイテムを充実させ、これまでの仏壇店とは異なる新業態を確立していきたい」と江崎社長は話す。仏壇最大手のはせがわが「仏壇を置かない店」を作ろうとしているのだ。これも時代の変化、顧客ニーズの多様化への対応策といえるだろう。

2016年から現職の江崎社長は、同社初の生え抜き社長だ。その江崎社長は経営のテーマとして「レボリューション」を掲げる。「これまで培ってきたブランド力、顧客からの信頼を守ると同時に、固定観念にとらわれず自由な発想で事業を変革していきたい」と江崎社長の思いは熱い。「仏壇革命」への道を、はせがわは走り始めた。