1995年に発生した事件の真相はいまだわかっていない(写真はフジテレビ提供)

「この骨壺を抱いて、『今年中に犯人を捕まえる』と誓って下さい」

1995年7月、東京・八王子市のスーパー「ナンペイ」の事務所の中で、女子高生2人を含むアルバイト従業員の女性3人が何者かに射殺された事件は今年で発生から22年が経った。

フジテレビの取材に答えたこの事件の専従捜査員は、無残に命を奪われた被害者の遺族から冒頭の切なる思いを告げられたという。女子高生2人とアルバイト従業員の女性は事件に巻き込まれていなければ、多くのすばらしい人生の瞬間と巡り会うことができたはず。そして愛する人を失った被害者の家族、友人の人生にとっても、大きな悲しみの上に、どれだけの喪失感や虚無感をもたらしたか計り知れない。

日本の安全神話が崩れた年に起きた事件

事件が発生した1995年は地下鉄サリン事件などオウム真理教による事件が次々と発生し、警視庁は全庁を挙げてオウム事件捜査にあたっている最中だった。駅のゴミ箱は次々に撤去され、ひと駅ごとに警察官が毎日警戒にあたっていたが、新宿駅のトイレでは毒ガスが発見されたり、オウム真理教がヘリで毒ガスを散布するXデーが報じられたり(実際Xデー当日に休みになる学校も出たほど)国民はまさに恐怖におびえる日々を送っていた。


住宅地のスーパーで起きた凄惨な事件に日本中が騒然となった(写真はフジテレビ提供)

地下鉄サリン事件、警察庁長官銃撃事件など未曾有の事件が日本中の耳目を集め、日本の安全神話が音を立てて崩れていくような喧騒の中にあったあの年の真夏の夜、スーパー「ナンペイ」殺人事件は起きた。その衝撃はすぐに日本中を震撼させた。

事件から22年にわたり、これまでフジテレビ取材班は多くの捜査員や事件関係者に実際に会い、話を聞いてきた。

取材を重ねてきたものの、まずこの事件がなぜ発生したのか推理することが非常に難しかった。現場は住宅街の真ん中にある小さなスーパーで、トラブルを起こせば隣家にすぐに気づかれてしまうような立地、しかも発生時には夏祭りが開催されており夜間とはいえ、普段より人通りが多かったのだ。犯行は売上金を狙った強盗目的なのか、それとも恨みによる犯行なのか――。

強盗であればなぜ金庫に入っていた多額の現金を奪わなかったのか、大勢で押し入れば金庫ごと運び出すことも不可能ではなかったはずだ。一方、誰かに恨みを持った犯人であればなぜ無抵抗の女性3人全員をまとめて殺害したのだろうか。捕まれば死刑の可能性もある事件なのに、犯人はなぜごく短時間のうちにそれを実行し、逃げることができたのか。

至近距離から撃った?

警視庁はこれまで、強盗、怨恨の両方の線で見えてきたさまざまな糸を手繰ってきた。強盗目的の犯行を疑う線としては、事件当時、都内を中心に拳銃を使って現金輸送車を襲う強盗事件が多発していて、この犯行グループが拳銃を躊躇なく人に向け発射していることから徹底的に捜査が行われていた。


当時の事件現場の様子。同事件の捜査資料を初公開する「報道スクープSP激動!世紀の大事件V」(フジテレビ系)は12月27日(水)よる9時から放送です(写真はフジテレビ提供)

中国人強盗グループによる犯行説も浮上し、中国の大連市に捜査員を派遣したこともあったほどだった。その捜査で事件について事情を知っているとして浮上したカナダ在住の中国人を日本に移送して、取り調べも行われたが、いずれも実を結ぶことはなかった。

フジテレビ系で12月27日(水)よる9時から放送される「報道スクープSP激動!世紀の大事件V」は、事件の捜査資料を初めて公開する。そこから判明したのは事件の“残虐性”である。

当時、事務机の上に金庫の開け方を書いたメモが貼ってあり、当日の売上金がしまわれていた金庫の開け方について、被害者3人のうちの誰かは知っていた可能性は十分にある。


被害者のどこに銃弾が撃ち込まれたのか――同事件の捜査資料を初公開する「報道スクープSP激動!世紀の大事件V」(フジテレビ系)は12月27日(水)よる9時から放送です(写真はフジテレビ提供)

ただ、現場となった事務所の中で犯人は物理的に大きな動きを見せなかった。事務所内のものはほぼ手つかずといっていい状況で、ごく短時間のうちに犯行に及び、犯行後すぐさま逃走したとみられることが改めて明らかになった。

何らかの理由で金庫内の現金はあきらめたにせよ、これだけの犯行に及んでおきながら何も盗らずに逃走するというのはつじつまが合わない。強盗犯による偶発的な犯行だったかもしれないが、はたしてそれだけなのだろうか。

一方で被害者の1人、アルバイト従業員の女性を殺害したときの詳細な状況も判明した。捜査資料をさらに専門家に分析してもらったところ、彼女だけは極めて至近距離から撃たれたことが指摘されたのだ。

犯人が拳銃の扱いに非常に慣れている人物だったこともわかってきた。犯行当時の事務所内の状況を正確に再現してみると、想像よりも非常に狭い空間の中で犯行が行われており、犯人が拳銃の弾の跳弾などを計算した可能性があるという。

被害女性とかかわりも? 謎の男の存在

フジテレビ取材班は犠牲となった47歳のアルバイト店員に恨みを抱いていた人物がいたかもしれないといううわさを聞きつけた。被害女性の当時の生活を知る人物に複数取材すると、見えてきたのが彼女を取り巻く複雑な人間関係。その中に、彼女に何らかの殺意を抱く人物がいたのだろうか――。

さらに、数年前、被害者を縛ったガムテープから検出された指紋と酷似した指紋を持つ日本人男性が浮上した。この男性がカギを握っているかもしれない。

事件から22年。強盗目的か怨恨による報復か。一つひとつ潰していく捜査が延べ19万人の捜査員によって続けられている。一方で今回の取材中多くの証言者・関係者が亡くなっていたのも事実で、時間の経過は事件解決をより困難にしているが、真相にたどり着く捜査の糸はまだあるはずだ。