DMMホールディングスの亀山敬司会長は11月の東洋経済のインタビューでシェアサイクルへの参入を断念したことを明かした(撮影:梅谷秀司)

自動車、洋服、オフィス、宿泊場所――。さまざまなモノ・コトをムダに“購入・所有”せず、他人と“共有”することでおトクに利用できる「シェアリングサービス」が続々登場している。
特に大きな盛り上がりを見せるのがシェアサイクル(自転車)だ。メッセンジャーアプリのLINEは12月20日、中国最大のシェア自転車サービス「摩拝単車(モバイク)」との業務提携を発表、2018年からサービスを開始する。フリマアプリを展開するメルカリも、同様のサービス「メルチャリ」の展開に向け準備していることを9月に表明している。まさに百花繚乱といった状況だ。
一方ここへ来て、参入の「見送り」を決断する会社が現れた。DMM.comだ。メルカリと同じく、9月にシェアサイクル事業への参入を表明していたが、亀山敬司・DMMホールディングス会長はLINE・モバイクの提携発表を待たず、11月に行った東洋経済のインタビューで、「やっぱりやめます」と明かした。
方針転換の背景にはどんな事情があったのか。亀山会長に聞いた。

放置自転車が出てしまう

――参入に向け検討される中、どのような点がネックになったのでしょう?

自分たちがやるなら、NTTドコモのような(決められたポートに自転車を止めなければならない)サービスではなく、基本は中国で一般化している、どこにでも乗り捨てできる事業モデルでやりたいと考えていた。でも、想像するに、どうしても通行の妨げになるような放置自転車が出てしまう。回収用トラックを走らせたとしても、100%対応するのは難しい。

すると、ワイドショーなんかのカメラが大量に止めてある自転車を映して、街頭インタビューで「DMMのチャリがとても邪魔で、迷惑なんです」なんて言われているのが、もう目に浮かんじゃって(笑)。これではたたかれる。

長い目で見れば、そのうち市民権を得るサービスになっていくかもしれないけど、当面は公害のほうに注目が集まるのではないかと感じる。DMMブランド全体のイメージが悪くなれば、グループ内のほかのサービスにも影響を与える可能性がある。実際、社内のほかの部署からは反対の声も上がった。結局、「今回はメルカリさんに譲るわ」ということになった。

世間の支持を受けられるかが重要


12月20日、メッセンジャーアプリのLINEは2018年からシェア自転車のサービスを開始すると発表した(撮影:今井康一)

――社会的責任を考慮すると、ということでしょうか?

法律的には問題がなくても、世間にどう受け止められるかは気になるところ。かつては「グレーだったら渡れ」という勢いでやっていたけど、今は新規事業全体の考え方として、参入するかどうかを見極めるポイントは、世間の支持をちゃんと受けられる事業であるかということ。いくら儲かりそうな事業でも、世間に支持されなくては長続きしない。

たとえば、以前はユーチューブも法律的にグレーで、テレビ局などと鋭く対立したけど、ユーザーからの強い支持があったから生き残った。民泊のエアビーアンドビーもそう。旅館やホテルの業界は怒っているけど、一般ユーザーからすると「圧倒的に便利だよね」というサービスだから広がっている。

こういった、過去にないダイナミックなサービスが世の中を変えていくのは確かだ。でも、少しでも展開を間違えると、途中で潰されておかしくないビジネスでもある。世間の見方がどうなのかは、かなり大きなポイントだ。

――なぜ9月に「参入に向け検討開始」というリリースを打ったのでしょう?

真剣に検討してたからね(笑)。メルカリの「メルチャリ開始に向け検討を開始します」というリリースを見て、「そうか、検討しているだけでも表明していいのか!」と思って。上場企業だと、安易に発表したり取り下げたりしたら株価に影響が出るけど、うちもメルカリも非上場だし。


亀山敬司(かめやま けいし)/DMMホールディングス会長。石川県加賀市出身。税理士を目指して上京するも、露天商に弟子入りし、商売・経営の世界へ。現在、FX、英会話、ゲーム、太陽光発電、3Dプリンタ、VRシアター、アフリカ事業、スタートアップ支援と多岐にわたる事業を展開するDMMグループを率いる。素顔は公開していない(撮影:梅谷秀司)

最近は「この事業をやります!」というふうに旗を立てると、「協力できますよ」という人とか、会社とかから情報が集まるようになった。以前は、新規事業はこっそりやったほうが賢いかなと思っていたけど、やると宣言したほうがいい面もあるのだなと、考え方が変わった。

――世間の見方を気にするようになったのはいつ頃からですか?

もともと、ずっと以前から気にはしていた。ただ昔の、会社自体なるべく目立たないように、前に出ないように……という経営をしていたところから、状況が変わったのは大きい。いろいろな事業を始めて、社員も増える中で、その家族のこととかも考えると、彼らが社会で“迫害”されないように、「ちゃんと考えている会社ですよ」という発信をしていくほうがいいかなと。

自分が外に発信して変わったこと

――”迫害”というのは?


昔からアダルトコンテンツ以外の事業もやっていたんだけど、やっぱり世間はそこのイメージが強い。そんな影響で、社員が社外の会議室を借りるときにはDMMの社名を隠して別の名前を使っていたし、「近所の人にはDMMで働いているなんて言えない」みたいな。それでは社員がかわいそうじゃないかと。

自分自身がいろいろ外に向けて発信するようになってから、うちを取り巻く環境が本当に変わった。最近は自分のパソコンに社名の入ったシールを堂々と貼っている社員も増えたし、一流大学を出た優秀な人がどんどん入社してくれるようになった。実態がそんなに変わったわけでもないのに、世間のイメージっていうのは適当なもんだよね(笑)。