アマゾンプライムはお急ぎ便の無料利用や特選動画の視聴などが可能になる

ジェフ・ベゾスが格安でサービスを提供する理由

AIスピーカー、リアル店舗への進出、宇宙事業――アマゾンに関するニュースが連日流れています。ジェフ・ベゾス率いるECの巨人。アマゾンはこれからどの分野に力を入れようとしているのでしょうか。


近年、充実が目覚ましい取り組みの1つがプライム会員です。恩恵として最もわかりやすいのは、配送料でしょう。3日以内に配送される「お急ぎ便」も「当日お急ぎ便」もプライム会員ならば無料です。

それだけではありません。映画やドラマが見放題の「プライム・ビデオ」、100万曲以上が聞き放題の「プライム・ミュージック」、容量無制限でクラウドに写真を保存できる「プライム・フォト」、一部エリアを対象にした2時間以内の配送サービス「プライム・ナウ」、ワンプッシュで歯磨き粉やシャンプーなどが注文できる「アマゾン・ダッシュ・ボタン」などが加わります。こうしたサービスがすべて、年額3900円の会費のみで受けられるのです。

ベゾスは、2015年の株主向けレターのなかで、「プライム会員サービスの価値を、会員にならないと自分が無責任だと思うような存在にしたい」と語っています。プライムは、ベゾスがそこまで豪語するまでの納得の充実ぶりということです。

一方、拙著『アマゾンが描く2022年の世界』でも詳しく解説しているように、ベゾスは超長期思考。短期的に投資を回収しようとはまったく考えていません。最優先は、プライム会員そのものを増やすことにあります。

プライム会員になると、それまで本やDVDといった限られた商品しか買わなかった顧客が、ほかの商品カテゴリーにまで購買の手を伸ばすといいます。またプライム会員になると購買頻度が増え、また客単価も高くなります。

こうなると顧客も他のECサイトでは買い物をしなくなります。アマゾンから切り替えようにもスイッチングコストが発生してしまうためです。アマゾンによる顧客の囲い込みがこうしてますます進んでいきます。

既存のプライムサービスも進化している

一方では、既存のプライムサービスも進化しています。配達の速さ、対象商品・サービス群の拡大、対応機器の拡大。ここでいう対応機器とは、アマゾン・アレクサやアマゾン・エコーのこと。いずれも、プライム会員でなければ受けられないサービスです。これらの相乗効果によってプライム会員が増え、またプライムサービスの質も向上していきます。

プライム会員が増えれば、さらに大きな波及効果が期待できます。たとえば、プラットフォームそのものが拡大する。プライムサービスの売りの1つは第1に配達の速さであり、その恩恵を受けている顧客は、ほかのセラーに対しても同等の配達速度を求めるようになるでしょう。

すると、より多くのセラーがFBA(フルフィルメント by Amazon)を利用し、お急ぎ便や当日お急ぎ便を無料で提供し始めるはず。これによってさらにプライム会員が増え、プラットフォームが拡大する。より多くの顧客データが集まる。こうした好循環がどこまでも続いていきます。そのきっかけとなるものが、プライム会員の増加。利益度外視でアマゾン・プライムのサービスを拡充させている理由です。

なお、8500万人ものプライム会員を抱えているアメリカの年会費99ドル(約1万1000円)なのに対して、日本での年額はその3分の1強。これは、アマゾン本体の北米事業とAWS事業での利益をアマゾン本体の北米以外の事業への展開に投資しているから可能になっている価格戦略であると考えられます。

プライム会員増から、サービス拡充へ。この動きが加速しているのが、アマゾン・プライム・ビデオです。海外ならNetflix(ネットフリックス)やHulu(フールー)、日本でもdTV(ディーティービー)などが動画配信サービスを展開していますが、それらが月額基本料をとるのに対し、プライム・ビデオはプライム会員であれば無料。コンテンツの充実ぶりも、彼ら単発カテゴリーのプレイヤーに迫ろうとしています。近い将来、単発カテゴリーを展開する競合を無力化するほどの力をアマゾン・プライムは持つようになるかもしれません。

これは、動画配信においてアマゾンが提供できるユーザー・エクスペリエンスの水準が「天の時」を迎えていることを示しています。実は動画の視聴データもアマゾンにとっては「ビッグデータ×AI」の対象。プライム・ビデオもまたビッグデータの集積装置なのです。

動画配信が日本においても「天の時」を迎えているということについては、以下の事実を指摘しておきたいと思います。

・TVを見ない人、TVを持たない人が増加
・スマホの普及率が増加(2017年3月の内閣府経済社会総合研究所「消費動向調査」によると、一般世帯のスマホ普及率は69.7%にまで増加)
・スマホ広告市場が急成長(サイバー・コミュニケーションズ「2016年インターネット広告市場規模推計調査」によると、スマホ広告市場は前年比23・7%増加の8010億円にまで拡大)
・動画配信や動画広告が急成長
・デジタル広告費がTV広告費を2018年に超える(電通による2017年6月予測)

どの動画を視聴したかのみならず、どの場面で興味を失い視聴をやめたか、あるいは動画広告に対する反応などをリアルタイムで把握できます。こうして得たデータを新たな番組制作や広告制作に反映させれば、そのクオリティは一層高まるに違いありません。またこうした魅力的な動画コンテンツが、さらにプライム会員を増加させていきます。

今後起きることとは?


これから新たに起きる動きとしては、「商品の動画化」が考えられます。サイト内での商品説明を動画にする可能性がありそうです。アパレル商品などは静止画よりも動画で紹介したほうがユーザーに対して親切です。大手ファッション通販サイトのゾゾタウンなどはすでに着手していますし、アマゾンも動画制作のノウハウを培っているわけですから本業であるネット通販に生かさない手はありません。

動画単体でも、新たなプラットフォームを構築しています。2016年には「アマゾン・ビデオ・ダイレクト」がスタートしました。これは動画のクリエイターが制作番組を配信するプラットフォーム。米国ではすでに、クリエイターが制作したものはYouTube(ユーチューブ)ではなく、アマゾン・ビデオ・ダイレクトに流し、プライム会員の評判を得る、といった動きがあるようです。

なお、私自身のiPadには、動画アプリとしては、NTTドコモのdTV、GYAO!、AbemaTV、そしてアマゾンのプライム・ビデオを入れてあります。お笑い番組好きの私としては、オリジナル番組含めてお笑いコンテンツが最も充実しているアマゾンのプライム・ビデオを見る機会が圧倒的に増えています。とくに以前にDVDで購入していた芸人さんの作品も数多く見られることは、お笑いファンとしてはたまらない魅力となっています。