マセラティ「レヴァンテ」のラフロード能力を試す

12月5日、イタリアのスーパーカーメーカー、ランボルギーニがSUV「ウルス」を発表して話題となった。

近年、グローバルに最も成長を果たしている自動車市場はクロスオーバーSUV。使用環境から必要に迫られてラフロードも走れる走破力やタフさを備えるSUVを買うユーザーは昔からいたが、今はラフロードなど走らないという方々が積極的に購入するようになったのがその原動力だ。

求めるのは、SUVフォルムが漂わす力強さ。旅行先などでの突然のラフロード走行でも動じずに済む適応力。高い着座位置からの開放的な視界や運転のしやすさ。もちろん荷物をたくさん積める魅力などもある。いまやそれら魅力を割り切って提供するべく比較的安価な2駆モデルの設定が増えており、それがまた市場拡大の勢いを加速させた。

砂漠での試乗会を開催した理由


アラブ首長国連邦のドバイへ

今回、アラブ首長国連邦のドバイにまで飛び、試乗してきたマセラティ「レヴァンテ」もまた、そんな成長市場でのポジションを獲得するべく2016年に登場したクロスオーバーSUVだ。なぜ今になって、メディアをマセラティは招待したのか? ここにブランド戦略が色濃く見える。

レヴァンテの販売は絶好調で、モデルシェアはマセラティ全体の57%にまで成長している。クロスオーバーSUVマセラティのようなプレミアム・スポーツ・ブランドにおいても有効であることを強く印象つけた。

しかし、そんな成功の陰でマセラティは1つ懸念材料であり、悩みの種を持っていた。それが地中海に吹く心地よい東風を意味する「Levante(レヴァンテ)」の名が付けられたこのモデルを、スタイル重視のナンパなモデルと認識する人が多いことだ。

「スポーティで華麗なデザインも魅力なので、それは仕方ないのでは?」と思うところだが、プレミアム・スポーツ・ブランドにふさわしい硬派な性能を求めて造り上げた当事者からすれば歯がゆいそうだ。

しかもマセラティらしくスポーツSUVの名目で2駆なども設定すれば売れるはずだが、あえて4輪駆動モデルだけで勝負している。タフさや走破力などのラフロード性能を本気で求めて作り上げた自負があるから。だからこそ今回は、本格オフロード性能もあることを世に示すべく、走行が困難とされる砂漠での試乗会を開催したという。

「小さなSUVは考えていない」

ちなみに今はクロスオーバーSUVのなかでもコンパクト系の勢いがすさまじい。親戚関係にあるアルファロメオには、間もなく日本に導入されるコンパクトSUV「ステルヴィオ」があり、そのプラットフォームを使えば「マセラティブランドでもコンパクトSUVが効率よく造れるのでは?」と聞くと、即答で「それはない!」と言っていたのが興味深い。


グランルッソ

あくまでもマセラティはプレミアム・スポーツ・ブランドであり、そのプレミアムには高級も含まれる。高級にはゆとりある室内空間が必須だ。だからこそ小さなSUVは考えていないという。逆をいえば、今あるレヴァンテのプレミアム性を高めることが進むべき王道であり、だからこそよりオーナーのニーズを満たすために試乗した2018年モデルには「グランルッソ」と「グランスポーツ」という、2つのトリム・オプション・モデルが追加されていた。

これはフロントグリルやフロントエンブレムのカラーに始まり、フロントのスキッドプレートやブレーキキャリパーの色、さらにはサイドスカートやルーフトリムの色、さらには内装を変更して、レヴァンテが漂わす雰囲気を変えるというもの。そんな変更では大きくイメージは変わらないと思うだろうが、華麗なボディラインや抑揚のあるボディパネルの作りなど見た目で魅きつけるモデルにおけるそれらの変更効果は大きい。


グランスポーツ

グランルッソはレヴァンテの印象をさらに落ち着いたものにして、スーツというよりタキシードさえ似合う品格をSUVで手にした印象。対してグランスポーツは、スーツが似合う雰囲気は保ちつつも、ブランド物スニーカーなどを履きアクティブに活動したら似合いそうな若干“やんちゃ”な雰囲気を漂わせており、個人的には後者の雰囲気が刺さってきた。

レヴァンテの2018年モデルはそのほかに地味ではあるが、乗り味を大きく変える変更が施されている。パワーステアリングの機構を、ラックピニオンアシスト式の電動タイプにしてきたことだ。ダイレクト感と操作性に定評があり、路面からハンドルを取られそうな入力などがあっても反力を発生させて相殺するなど、ハンドルからの手応えを洗練できるアイテムである。

結果として試乗してみると、タイヤのゴロゴロ感などが少なくなっているし、ハンドルの操作に対する素直さ、意のままに曲がる感覚が強くなっており、走りやすさも気持ちよさも格段に向上していた。肌に直接触れるハンドルからの走行振動が減り、レヴァンテが一段と高級車として意識に深く刻まれた。

砂漠地域を豪快に走れる能力

今回のメインイベントである砂漠地帯を走ってみた。その走行イメージは、足がズブズブと沈んでしまい歩くのも困難な重めの雪が降り積もった新雪を走るようなもの。1度止まったら再スタートが厳しいので、アクセルを踏み続ける必要がある。そのような特殊環境では一般道とクルマに求める要素が変わり、印象が異なってくる。


砂漠地帯を走行

たとえば一般道では、ガソリンエンジンの官能的でありの刺激的な排気音や吹け上がりの鋭さは魅力的だが、やはりディーゼルエンジンが備えるトルクが満ちあふれ、容易に速度変化できる運転のしやすさがより魅力的に感じていた。そして、そのディーゼルの好感触はタフな走行環境となる砂漠では助長すると予想していたが、まったく逆だったのだ。

タイヤが砂をかき分けても一向に下地である地面など出てこない、そんな永遠に砂に覆われた環境では、グリップさせながらクルマを前に進めるなどという一般常識の走りは通じない。豪快に砂を巻き上げながら、アクセルを踏み続けてクルマを前に進める能力が大事。そして、そんな過酷な場面になるほどにレヴァンテが強いとマセラティが主張していた意味がわかった。


豪快に砂を巻き上げながら前に進む

まず最低地上高を決める車高や運動性能が、任意の走行モード選択や速度に応じながら自動で調整可能。これだけでも豪快にアクセルを踏み続ければ“そこそこ”走れるが、絶対にスタックするなど足元を救われないために重宝したのが、ここの砂は “しまって”いるのか“ふかふか”なのかなど、砂漠のなかで微妙に変化する砂の環境変化についてハンドルを通して明確につかめたことだ。これが優れているから走りやすかったのは事実だが、さらにこのような場面になるとガソリンエンジンの特性が圧倒的に適していることも加えておこう。

なぜなら、ディーゼルエンジンは動き出しがいいのだが、回転上限が低く、タイヤをかき続けさせてふかふかの砂のなかでクルマを進める能力が低い。どんなにアクセルを踏み続けても、加速力が急激に細くなる中回転以降の領域では、徐々にタイヤが砂に埋もれ出してしまう。

しかしガソリンエンジンでは、高回転まで鋭く吹け上がり、その高回転でも勢いを保ちタイヤをかき続けさせられるので、砂に埋もれる前にクルマを進めるという砂漠独特の走行を可能にする。しかも、そのアクセルを踏み込んだ際の排気音や高回転までの吹け上がり特性にはオンロードでも感じていた強烈なガソリンモデル特有の刺激と高揚感があり、病みつきになりそうな気持ちよさと楽しさがあった。

ガソリンモデルのよさを再認識


クルマを見る目が少し変わった

今回の体験を通し、タキシードも似合いそうなレヴァンテが、砂を巻き上げながら歩くのも困難な砂漠地域を豪快に走れる能力にも驚いたが、同時にガソリンモデルのよさを再認識できたのが収穫だった。結果、ディーゼルモデルは何度か足を取られて動けなくなるスタック状態になっており、ある程度のタフ環境まではディーゼルも得意だが、極限まで行くと高回転まで鋭く吹け上がる特性はそのままに直噴ターボ化して低回転トルクを太くしたガソリンモデルが優れている。

「これからの時代はディーゼルでしょ!」とレヴァンテでもディーゼル推しだったが、少々クルマを見る目が変わった。レヴァンテはスタイルのよさに加えて、本格的なラフロード能力を持っている。