歌舞伎『瞼の母』を現代風に解説。探し続けた母と、ばくち打ちの息子の再会はどうなる?

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◆歌舞伎『瞼の母』を現代風に解説。探し続けた母と、ばくち打ちの息子の再会はどうなる?
ばくち打ちの息子が探し続けた母親と再会を果たすが…血縁とは、親子の絆とは。第29回 恋する歌舞伎は、十二月歌舞伎座で上演中の『瞼の母(まぶたのはは)』に注目します! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう…なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

◆恋する歌舞伎 第29回
十二月歌舞伎座で上演中の『瞼の母(まぶたのはは)』に注目します

【1】自分には心配する身内など1人もいない。ふと感じる孤独感
江戸時代末期のこと。
ばくち打ちの身である、番場の忠太郎(ばんばのちゅうたろう)は、幼い頃に生き別れとなった母親を探し、旅を続けている。

ある日、半次郎(はんじろう)という忠太郎の弟分の実家に、いかにも悪そうな男たちが訪ねてきた。
先日、親分を殺害した助五郎という人物を忠太郎が仕返しのために襲ったため、今度は助五郎の身内が仕返しにやってきたのだ。
半次郎の妹・おぬいは「兄は家に戻っていない」と応えると、男は手紙を投げ渡して去って行く。
そこへ姿をあらわす半次郎。
半次郎は手紙を読み、家を出ていこうとするが、それを母・おむらに止められ仕方なく戻る。
そこへ弟分を心配した忠太郎がやってくるが、おぬいもおむらも「半次郎は居ない」と嘘をつく。
自分のことを心配してくれる母や妹がいることに嫉妬をしつつ、忠太郎は2人の気持ちを汲み「堅気(かたぎ)になるように」と半次郎に言い残し、助五郎の件は1人で決着をつけようと出かけるのであった。


【2】探し求めていた母がすぐそこに! 怪しい男が気になるが
1年後。ところ変わってここは柳橋の料理茶屋「水熊」の台所口。
そこに居座っているのは、ならずものの金五郎。
このお男は後家の女将・おはまの婿に入り、店を乗っ取ろうと企んでいるのだ。
ちょうどその近くで、夜鷹のおとらを助けた忠太郎は、おはまが昔、江州に息子を置いてきたという話を聞きだし、おはまが自分の母親ではないかと思い、決死の覚悟で会いに行くことにする。

居間では、おはまと大事に育てられた1人娘のお登世が仲むつまじく話している。
夫の亡き後、女手ひとつでお登世を育て、さらに女将として店を切り盛りしてきたおはま。
そこへ、自分に会って話したいという男がいると聞き「どうせ銭もらいだろう」と、懲らしめるつもりで部屋に入れることにする。


【3】十数年ぶりの母との再会に、心がはずむ。しかし現実はあまりにも酷い
ついに実の母・おはまと対面した忠太郎。
だが自分の身の上を話しても、おはまに信じてもらえず、「確かに息子はいたが9歳のときに死んだ」と言われ相手にされない。
突然息子だと名乗り出てきたのは、金が目当てに違いないとおはまが言うので、忠太郎はもし母が金に困っていたときのために渡そうと貯めてきた金百両を出すが、冷たくあしらわれてしまう。
やがておはまは話を聞くうち、忠太郎が自分の子どもだと悟るが、娘お登世の将来のことを案じてはねのけてしまう。
その態度に忠太郎は絶望し、悲しみながらおはまの元を去る。

様子を見ていたお登世は、忠太郎こそ、以前母が話していた兄だと察し、母のことを薄情だと責める。
それを聞いたおはまは思い直し、忠太郎を呼び戻そうとお登世とともに後を追うのだった。


【4】感動の再会などはじめからなかった。追い求めていた母はここにいる
忠太郎に先に追いついたのは、先ほどのならずものの金五郎。
彼は一部始終を見ており、「この実の息子らしき男に恩を売れば計画がうまく行くのでは」という魂胆で、忠太郎に近づこうとしているのだ。
そこへ息急き切ってやって来た、おはまとお登世。
何度も忠太郎の名前を呼び続けるが、忠太郎はその声に応えることはなく、物陰に隠れてしまう。
そして、自分の“瞼(まぶた)”に映る母親の面影を抱いて、その場を立ち去ろうとするのだった。
と、その隙を狙って襲いかかってきたのは金五郎!
しかし忠太郎はさらりと身をかわす。
そして金五郎に親も子もないことを確かめた上で、斬り捨て、あてもない旅へと出発するのだった。

『瞼の母(まぶたのはは)』のあらすじ
長谷川伸作。昭和五年(1930)、雑誌「騒人」に掲載された戯曲。翌年明治座初演。新聞記者から作家へと転身した長谷川伸の、自身の境遇と重ねた(4歳の頃に実母が実家へと戻され、その後他家へ嫁ぎ音信不通となった)自叙伝的作品。またこの作品の成功により、長谷川は実母と劇的な再会を果たしたという。
監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ