専業主婦は日本だけの絶滅危惧種?(写真:プラナ / PIXTA)

ある高名な日本人作家が夫婦で海外旅行中に、いろんな国の人たちが集まるパーティに参加したときのことだ。参加者と雑談していたら、「どこから来たの?」「どこを観光したの?」という話題に続いて、「どんな仕事をしてるの?」という質問を受けた。

「私はハウスワイフです」。専業主婦の奥さんがそう答えたら場の空気が凍りついた。

欧米諸国で「専業主婦」は絶滅危惧種

「専業主婦」は、欧米諸国ではもはや絶滅危惧種だ。日常生活で「ハウスワイフ」と出会うことなどまずない。その奥さんは、海外のパーティでこうした体験を繰り返したことにうんざりして、「家でときどきピアノを教えています」と答えるようにしたという。

厚生労働省が2013年に実施した意識調査によると、15〜39歳の独身女性の10人に3人が専業主婦になりたいと希望している。でも、こんな話を聞いたらどう思うだろう?

「専業主婦は2億円をドブに捨てている」

「専業主婦には自由に使えるおカネがない分、自由もない」

「専業主婦が離婚すると最貧困になるリスクが高い」

過激すぎることを承知で書いているが、それほど専業主婦とは過酷で弱い身分である。

拙著『専業主婦は2億円損をする』でも詳しく解説しているが、大卒の女性が60歳まで働くと、平均的な収入の合計は約2億円といわれる。パートに出れば多少は小遣いを稼げるかもしれないが、結婚して仕事を辞めて、家事や子育てに専念するということは、その2億円が稼げなくなるということを意味する。

結婚を考えている男性にしてみれば、自分の給料だけで妻子を養うか、夫婦で働いて自分で稼いだおカネはある程度自由に使えるかの差は大きく、相手を選ぶ条件の1つにもなりうる。自分1人だと生涯に稼ぐおカネは2億〜3億円かもしれないが、夫婦2人なら4億〜5億円にもなりうる。

幸せに暮らすには、もちろんおカネが重要。でも、あればあるほどいいというわけでもなくて、「これ以上収入が増えてもうれしさはそんなに変わらないよ」という金額のラインが、実はある。

アメリカでは、それは7万5000ドル(約800万円)、日本では800万円とされている。日米でその金額は同じだ。ただし、これは、「大人ひとり」の収入だ。子どものいる夫婦の場合は年収1500万円くらいになる。

1人暮らしで年収800万円なら、おしゃれなレストランでデートしても、休日にプチ旅行を楽しんでも、夏休みに思い切って海外に行っても、それなりに貯金ができる。子どものいる家庭で年収1500万円なら、たまに夫婦で外食して、夏と冬に家族旅行をして、バレエでもサッカーでも子どもに好きな習い事をさせても、銀行口座の残高を気にする必要はないだろう。

これは要するに、「人並みの幸福」とされていることを、おカネを気にせずにできる、ということだ。そして、いったんこの水準に達すると、「近所のビストロ」を「ミシュランの星つきレストラン」に変えても、「箱根への家族旅行」を「ハワイ」にしても、幸福感はそれほど変わらない。

世帯年収1500万円はとても難しい

1人暮らしの30代で年収800万円は手の届く目標だとして、子どものいる家庭の目標である世帯年収1500万円はどうだろうか。夫しか働いていないのなら、これがものすごくむずかしいということはすぐにわかる。上場企業でも平均年収1500万円を超えるのはほんの数社だけ。超大手企業で順調に出世すれば実現は可能かもしれないが、それも労働者全体で見れば一握り。おカネのことを気にしなくてもいい生活ができる高収入の男性は、ほんの少ししかいない。

それがわかっているからこそ、専業主婦志向の女性は婚活に必死になる。お金持ちの夫を手に入れるのは、いまや宝くじに当たるようなもの。というか、これは宝くじよりずっと確率の低いギャンブルだ。

高収入の男性はいくらでも若くてかわいい(専業主婦願望の)女性がやって来るから、そもそも1人の女性と結婚する必要などない。そのことがだんだんわかってきたので、いまや婚活は「当たりくじのない宝くじ」のようなものになってしまっている。

「おカネと幸福の法則」から幸福な家庭をつくろうとすると、夫が1人で1500万円稼ぐ「専業主婦モデル」よりも、夫婦が力を合わせて世帯収入1500万円を目指す「共働きモデル」のほうが、ずっと成功確率が高くなっている。

なぜなら、年収1500万円の人より、年収800万円の人のほうがずっと多いからである。これは、1+1=2のような単純な話なのである。

専業主婦には人生の選択肢が少なすぎる

日本では働く女性10人のうち、結婚後も仕事を続ける人は7人。出産を機に退職する人が3人もいる。ところが、専業主婦には人生の選択肢が少なすぎる。ない、といってもいいくらいだ。大学、就職まで男女平等だったのに、仕事をやめて、子どもを産んだ途端に状況は一変してしまう。


もっとも、頑張って、子どもを育てながら働こうとしても、想像を絶する苦労がある。職場での扱いが極端に変わって、メインのコースからはずされることもしばしば。そんなことが積み重なって、やり甲斐を失い、仕方なく専業主婦を選ぶ人もいる。

ただ、日本の社会には圧倒的な男女格差がある一方で、少子化と人口減のため日本経済は空前の人手不足になっていて、これからますます深刻化していく。超高齢社会とは、高齢者の数が(ものすごく)増えて、若者の数が(ものすごく)少ない社会。「若くて働ける」女の子の価値はどんどん上がっていく。

男性が「僕と結婚して専業主婦になって子どもを産んでください」と言ったら、今の働き盛りの女性は次の4つのことを考えるだろう。

(1)自由がなくなる

(2)仕事のキャリアが途切れる

(3)これまでのように友だちと付き合えなくなる

(4)家族とも気軽に会えなくなる

女性のほうだって自由に使えるおカネがなくなって、再び稼げるようになれるかもわからないリスクを抱え、子育てや家事に追われるのもごめんだと思ったとしても無理はない。

だとすれば、憧れの女の子と結婚したい男性は、「仕事だって続けられるし、家事もちゃんと分担するから、結婚や出産で失うものよりも楽しいことのほうが絶対多いよ!」と提案したほうがいいだろう。こういう選択が幸福な家庭をつくっていく。

今の日本の非婚化や少子化とは、社会が「結婚して子どもを産んでもロクなことがない」という強烈なメッセージを、若い女性に送っていることを映していることにほかならない。