英紙「ガーディアン」東京特派員のマッカリー氏も大相撲のファンだったが、ある相撲部屋の朝稽古を見学に行った際に目撃したショッキングな光景が今でも忘れられないという

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横綱日馬富士が貴乃花部屋の貴ノ岩に重傷を負わせた暴行事件は連日、世間を騒がせ、ついに日馬富士が引退に追い込まれた。

当事者・関係者の証言には食い違いが見られ、真相究明には時間がかかりそうだが、またしても起こった相撲界の不祥事を海外メディアの記者はどう見ているのか?

「週プレ外国人記者クラブ」第100回は、英紙「ガーディアン」東京特派員、ジャスティン・マッカリー氏に話を聞いた――。

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─ここ2週間ほど日本のメディアは「横綱日馬富士の暴行事件」一色という感じになっています。ある意味、「過剰」にも思えるメディアや社会の反応をどのように見ていますか?

マッカリー 今のところ、詳しい事実関係が明らかになっていませんし、関係者の発言にもそれぞれ食い違っている点が多いので、あくまでもその前提でお話ししますが、日馬富士が貴ノ岩に暴力をふるいケガを負わせたことは間違いない。日本のメディアや社会が「相撲界の暴力」について大きな関心を寄せていることは良いことだと思います。

今回の事件で僕が驚いたのは、これまで相撲界は多くの同様の不祥事を経験しているのに、実際には「何も変わっていなかった」ということです。2007年、時津風部屋に新弟子として入門したばかりの17歳の少年が親方や先輩力士からビール瓶で殴られるなど、相撲界で「かわいがり」と呼ばれる暴行を受けて死亡した事件は今でもよく覚えています。2010年には元横綱の朝青龍が泥酔して一般男性に暴力をふるい、引退に追い込まれた。相撲界の暴力事件はこれまでも何回か大きな問題になってきました。

それ以外にも、八百長疑惑など数多くのスキャンダルがあり、そうした問題が起きるたびに日本相撲協会は「問題の再発を防ぐために体質を改める」などと約束してきました。でも、現実には今でも相撲界という閉じた社会の中に「暴力」を許容する空気が残っていた。だからこそ、今回のような事件が起きたのだと考えるべきでしょう。

─つまり、今回の暴行事件は「氷山の一角」に過ぎないのではないかと?

マッカリー そうですね。今回の事件は決して「偶然」ではないし、「モンゴル人力士だったから」という問題でもない。これはいわば、「相撲界全体の問題」であって、それがたまたま目に見える形で露呈しただけだ…という捉(とら)え方をしない限り、結局はまた同じことが繰り返されるのではないかと思います。

─ちなみに、マッカリーさんご自身は相撲ファンだったりするのですか?

マッカリー 大相撲はイギリスでもかなり前からTV中継を観ることができて、一部には熱心なファンも多かったと思います。僕自身も来日した頃は個人的に好きな力士が何人かいて、結構、真剣に観ていた時期もありました。ただ、最近はあまり興味がなくなってしまいましたね。20年前と違って、今ではインターネットで世界中の様々なスポーツを気軽に見られるようになって、単に選択肢が増えたということかもしれませんけれど。

まだ僕が日本に来て間もない90年代前半、ひとりの相撲ファンとして、ある相撲部屋の朝稽古を見学に行ったことがありました。その時、まだ髷(まげ)も結えていない若い力士が何かの理由で先輩力士たちに怒られて、何度も土俵の土に顔を押し付けられながら「かわいがられている」のを見て、本当にショックだったのを今でも覚えています。

相撲界の中には昔から、そうした暴力やイジメのようなものが「かわいがり」という名の下で許容される雰囲気があったのだと思います。

─相撲界はそうした体質を未だに根絶できていないのかもしれない。そして、日馬富士は結局、「引退」を決意しました。

マッカリー 日馬富士がこのような形でキャリアを終えるのは残念ですが、彼が他の力士を暴行し頭部に重大なケガを負わせたという事実がある以上、引退以外の選択肢はなかったでしょう。あとは警察の捜査を待つしかないですが、警察が最終的な捜査結果を明らかにした時点で、相撲協会は早急に、未だ相撲界に蔓延(はびこ)る暴力やイジメという文化をどのように根絶していくか、明確な説明をするべきです。

もし大相撲が「スポーツ」として認知されたいのなら、未だにこうした暴力が根絶できないというのは「あってはならないこと」だということを、関係者はこの機会にもう一度、ハッキリ自覚するべきだと思います。もちろん、どんなスポーツでも暴力に関する問題が起きることはあります。問題は相撲界がそうした問題を何度も経験しながら、未だに変われていないということです。

今の大相撲にはモンゴルをはじめとした海外出身の力士も多く、国際化が進んでいます。また、日本相撲協会は文部科学省スポーツ庁の下で「公益財団法人」の指定を受け、公的な援助や優遇措置を受けている団体です。その大相撲が2007年の新弟子死亡事件から10年経っても暴力を排除できていない。

繰り返しますが、それは絶対に許されないことです。事件の背後には相撲協会内の政治的な対立が見えるし、関係者の証言も食い違っている。しかし、「誰が嘘をついているのか」という「推理ゲーム」を面白がるのではなく、まずはこの点を重視すべきです。

それにも関わらず、相変わらず相撲協会の動きが鈍いのは、今の協会の幹部たちも、かつて現役の力士時代にはそうした暴力を許容する空気の中で育ってきた人たちだからなのかもしれませんね。その意味では、依然として閉鎖的に感じる相撲界に、より多くの「外部の声」を入れていくといったことも必要なのではないかと思います。

(取材・文/川喜田 研 撮影/長尾 迪)

●ジャスティン・マッカリー ロンドン大学東洋アフリカ研究学院で修士号を取得し、1992年に来日。英紙「ガーディアン」「オブザーバー」の日本・韓国特派員を務めるほかTVやラジオでも活躍