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今月はじめ、世間をにぎわせたニュースに、≪48年間サザエさんのスポンサーだった東芝がスポンサーを降板、次は高須クリニックがスポンサーになるべく交渉中≫という話題があった。

以前のコラム、「昭和のサザエさんと平成のみさえさん」で書いたように、もしそうなったら「サザエさんは古典です/昭和のお話です」などのテロップを番組冒頭に入れていただけないかしら、とか「現代日本を反映した脚本にしてはいかがでしょうか?」と高須院長にツイッターでおうかがいをたてるべきだろうか、と勝手にドキドキしている。

「日本の家族の理想像」を確固たるものにした磯野家だが、それは昭和までのお話。
黒電話も、御用聞きのサブちゃんも、和装で家事をする主婦も絶滅した現在の日本において、「サザエさん」は、桃から人が生まれちゃうのと同じ「おとぎ話」なのだ。



■磯野家に2017年のリアルを反映させると……


そこで、いつものママ友と始まったのが、「磯野家に近年のリアルを持ち込んだらどうなるか?」の妄想である。

まずナミヘイはリストラまたは早期退職勧告をされて、マスオさんは非正規雇用になって給料が減り、サザエは専業主婦を返上すべく、タラちゃんの手をひいて、生まれて初めてのハローワークへ。

24歳という若さと、売り手市場が幸いしなんとか職にはありつけそう……あれ、でもタラちゃんは保育園に入れるのかな? サザエは仕事を探している状態&一人っ子のため認可保育園は論外、住居のある世田谷の無認可保育施設たるや保育料がものすごく高くて入れられない……となると、自暴自棄になったサザエは最近手に入れたスマホから「保育園落ちた、日本死ね」とつぶやく。

結局、タラオはフネが面倒を見ることになる。しかし、すべての家事と3歳児の世話を引き受けることになったフネは、数ヵ月後、過労で入院。その後、慣れない仕事と育児と家事と看病に孤軍奮闘するサザエ、たまらずナミヘイに相談すると、「バカモン! わしゃ、家のことはやらんぞ!!(怒)」。

そのとき、中学受験でストレスのたまったカツオがグレて、ワカメは妊娠(そこはやりすぎ?)、タマのエサは日に日に貧しくなっていくのであった……みゃあお。

ママ友と私、何か世の中に鬱屈した思いでもあるのだろうか……?
いや、あくまで今話題の「日本の問題」を磯野家に放り込んだだけで、どんどん話が暗くなっていくのだ。日曜夕方のお茶の間を一瞬で真っ暗にする破壊力。これでは気持ちがすさんでしまうだろう。

となれば見方を変えて、堕ちた磯野家の再生物語としたら、リアルに疲れた現代人に希望が生まれるかもしれない?

以下、私の勝手な妄想脚本、磯野家の絆が再生する「あたらしい船出」という回。
磯野家がちゃぶ台を囲んでいる場面を思い描き、キャラクターの声を脳内で再生させてお楽しみいただきたい。

【妄想サザエさん「あたらしい船出」】

サザエ「父さん、母さん、マスオさん、みんな……話があるの」。

(ちゃぶ台を囲む磯野家のメンバー)

サザエ「母さんが退院できて、本当によかったわ。でも、また前のような生活に戻ったら、また母さんが身体を壊してしまう。だから、みんな、お願い。家事を手伝ってほしいの……このとおりです(サザエ、土下座)」

マスオ「サザエ、何も土下座することはないよ……(サザエを起こす)。ボクも、何か手伝うからさ」

サザエ「手伝う!? マスオさん、手伝うなんてひどいわ、家事と育児はあなたの義務でもあるのに! だいたいマスオさんのお給料じゃ暮らせなくなったから……!」

タラオ「パパ、ママ、やめてくださーい(涙)」

ナミヘイ「バッカモーンッ!! 子どもの前だぞ、サザエ。マスオくんだって大変なんだ。言葉尻をとらえるのは止めなさい。」

ワカメ「姉さん、家事を手伝うって具体的にどうすればいいの?」

サザエ「ワカメ……(感動)。まず、お洗濯だけど夜干しにするわ。じき、タイコさんたちのところを見習って、ドラム式を買おうと思うの。お掃除は各自でお願い。お夕飯は、タラちゃん以外、全員が作れるようになってほしいの。担当は曜日ごとに持ち回りで……」

タラオ「ボクも手伝うです〜」

カツオ「オレ、イヤだね……勉強に支障が出るし」

フネ「カツオ、大変なら中学受験はしなくていいんだよ。」

カツオ「母さん、夕食づくりの方が大事だっていうの!?」

フネ「家の中が落ち着いていないと受験どころじゃないでしょう。悪いけど、今は私たちがどうやって生活していくかを優先に考えておくれ」

ナミヘイ「うぉっほん。母さんの言うとおりだ。」

カツオ「そういう父さんだって、家のことを何もやってないじゃないか!」

ナミヘイ「わしだって、料理のひとつやふたつ、作れるぞ!」

サザエ「父さんがその気になってくれたのね(作れるかどうかは別として)……! ありがとうございます(涙)」

マスオ「お父さん、ボクが不甲斐ないばっかりに申し訳ありません」

ナミヘイ「いいんだ、マスオくん。これからは男も家事をせねばならんからな。新しい時代というやつだ」

フネ「お父さん、新しい時代には、新しい働き方があるみたいですよ。」
(そう言いながら「シルバー人材募集」のチラシを見せるフネ)

ナミヘイ「な、なるほど……将棋の気晴らしに、少し外に出るのもいいかもしれんな」

サザエ「まあ、父さん、無理しちゃって」

一同:あははは(笑)

……妄想サザエさん「あたらしい船出」完

次回の妄想サザエさんは、「ナミヘイ、初めてのおつかい」。

■「子どものお手伝い」から「家事担当者」へ


この妄想脚本を書いて思ったのは、共働き家庭を回すためには大切なことが2つあるということ。

1.メンバー全員の納得
2.子どもも家事の担い手

1は、当たり前で不可欠である。ここではもともと入り婿気質(NOと言えない)のマスオさんはいいとして、難攻不落であろうナミヘイさんを大団円にする話の流れ上、すんなりやる気にしてしまったのだが、現実のハードルは高いだろう。

私の父(65)などは、現代の子育て世代は共働き&共家事が当たり前、との認識はあるようだが、自分には関係ないと思っている。「40年近く家事をしたことがない」ナミヘイ然とした体質が、娘の土下座ひとつで変わるとは……思えない。

2は、いわゆる「お手伝い」から精度と頻度を上げてもらい、「家事の担当者」になってもらうことである。将来に役立つスキルになるだろうから、ぜひ子どもの好奇心をくすぐりつつ、親のうまみのある接点を探りたい。

私の友人は、息子が小学生になってから、自分が一番やりたくない「廊下の水拭き」の担当に任命したそうだ。彼は学校から帰ると毎日水拭きをして、遊びに出かけているようである。5年以上の日課になっているというから、すごい。マネしなくては。

というわけで、『サザエさん』は古典から現代劇へシフトできるポテンシャルがじゅうぶんにある。今回の東芝スポンサー降板劇は「新しい日本の理想の家庭像」に変われるチャンスかもしれない?と思うのだが、いかがだろうか。やっぱり高須院長にお伺いした方がいいかもしれない。

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。