「面談」や「ジョブマッチング」など、ハードルが低い形で学生を呼び出しているが、実態は「選考面接」だ(写真:葦風 / PIXTA)

就職活動の”作法”は、1990年代前半に形成され、それ以来20数年間続いてきた。自己分析にはじまり、業界研究、企業研究で志望を絞り込み、プレエントリー、ES(エントリーシート)の提出と会社説明会への出席を経て、面接へと辿り着く。

このステップの大枠に変化はないはずだった。が、最近になって採用に直結するのかはっきりしない、面接が増えてきた。

選考面接とは言わずに呼び出す企業


企業は面接と言わずに学生を呼び出しているが、実質的には学生を選考する面接を実行している。偽装する「カモフラージュ面接」、水面下で行う「サブマリン面接」などの言葉が浮かぶものの、まだ定まった用語がない。

そこで、本当は選考面接なのに「面接」と言わずに学生を呼び出す行為を、本稿では「だまし面接」と呼ぶことにする。だまし面接の背景には、経団連の「採用選考に関する指針」によって、採用スケジュールが迷走してきたことがある。指針は採用広報と採用選考のスケジュールを定めており、2012年卒から2015年卒までの選考スタートは4月1日だった。ところが、3年前の2016年卒では、選考スタートが8月1日と大幅に後ろ倒しされた。

この2016年卒採用で登場したのが「面談」である。真夏の8月まで待ちきれないので、かなり多くの企業が学生と面談を実施したのだ。もちろん、それ以前にも面談という言葉はあったが、文字通り単なる面談だった。指針のスケジュールをフライングして学生と早期に接触し、実質的な選考をする「面談」は、2016年卒採用から一気に広まっていった。

指針はすぐに改定されて、昨年の2017年卒採用からは、現在の6月1日選考スタートになっている。しかし、「だまし面接」は、かなり多くの企業の採用手法として、定着しているようだ。その実態をデータから検証してみたい。

HR総研が今年6月に楽天「みん就」と共同で行ったアンケート調査は、2018年卒業予定の就活生を対象にしており、2,513人が回答している。

まず学生が回答した企業の「内定までの面接回数」だが、3回が最も多く、40%以上という数字になっている。2回が30%前後、1回は10%以下と少ない。これは2016年卒、2017年卒、2018年卒でも、同じ傾向だ。企業側に聞いても、9割が1〜3回面接を行っている。

面談、社員懇談会、先輩との交流会・・・


しかしこの傾向を別なデータから検証する必要がある。今年(2018年卒)の就活生に、「他の名目での面接経験」を聞いたところ、「ある」と回答した学生は、文系で63%、理系で64%もいる。

「ある」のは旧帝大クラスに目立ち、文系で86%、理系で80%である。早慶クラスも文系79%、理系68%となっており、難易度の高い大学の就活生の方が比較的多く、「ある」と回答している。学校名など選考条件に合う学生を、企業が別途呼び出す傾向が強いことがうかがえる。

上位校の学生ほど、面接以外の名目で選考に呼び出されており、経団連の指針を気にする大企業を中心に、面接と言う表現を使わない選考が横行していると思われる。内定までの平均面接回数が1回とか2回という企業では、面接という言葉を使わない事前の選考を進めている可能性が高い。

学生を呼び出す名目だが、圧倒的に多いのは「面談」だ。人事との面談だけでなく、「OB・OG面談」「マッチング面談」「リクルーター面談」「社員面談」「人事部長面談」と、会う相手はさまざまである。「役員面談」を行う企業もある。

複数の人間と会うことも多い。「社員懇談会(座談会)」「OB・OG訪問会」「先輩社員との交流会」などがそうだ。社員との懇親会を通じて志望度を上げてもらおうという戦術だろう。同時に学生を見定めるという、”本当の”狙いもある。

学生を誘う言葉はよく似ている。詳しく書いてくれたコメントを見ると、

「『ESを拝見して、ぜひ会ってお話しをする機会を設けたいのですが、いかがでしょう?』と聞かれた」(旧帝大クラス・文系)
「『企業理解を深めるために会ってほしい』と言われた」(上位国公立大・文系)
「是非直接お会いして、お話しする機会をいただきたい」(その他私立大学・文系)
「人事部長があなたのことをもっと知りたいと言っているから来てくれないか」(旧帝大クラス・理系)

といった声があがる。

工場・研究所見学など理系向けイベントも


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懇談会以外に使われている名目として、「キャリアカフェ」「キャリアマッチング」「ジョブマッチング」などがある。ただ回答を見ると、キャリアやジョブを使った名目は早慶クラスや上位私大、中堅私大の学生から多く寄せられているが、旧帝大や上位国公立大の学生からは少ない。実態はわからないが、私立大の学生にはキャリアやジョブで誘い、国公立大には別のアプローチをしているのかもしれない。

また、理系では呼び出す名目が具体的になり、「工場見学」「研究所見学」「研究者懇談会」「研究者討論会」などが行われている。これらのイベントは、理系学生が企業の技術を理解するうえで、大いに有効だろう。裏で選考が行われていなければの話ではあるが。

いずれにせよ、これらの「だまし面接」はどんな表現を使おうが、茶番でしかない。経団連の指針を守れないのであれば、それを宣言したうえで採用スケジュールを開示し、堂々と採用活動を行えばいい。

楽天やヤフー、サイバーエージェント、ファーストリテイリングなど、通年採用を実施している企業では、現にそうしている。だまし面接は、これから社会に出ようとする若者に対して、企業の表と裏を見せているようなものだ。日産自動車やスバルの無資格者による完成車検査、神戸製鋼所の性能検査データの改ざんにも通ずる、と感じるのは私だけであろうか。