「”打倒キタサンブラック”を狙う馬にとっては、今回が最大のチャンス」

 そう語るのは、関西の競馬専門紙記者である。

 先日、陣営から「年内に3戦して引退」と発表されたキタサンブラック(牡5歳)。無論、陣営としてはその3戦、天皇賞・秋(10月29日/東京・芝2000m)、ジャパンカップ(11月26日/東京・芝2400m)、有馬記念(12月24日/中山・芝2500m)の「3つとも勝って、心置きなく引退」という最高の形を目論んでいるはずだ。だが、その最初の一戦、天皇賞・秋こそ「最も負ける可能性が高い」と、専門紙記者は言うのである。


今春の天皇賞・春ではレコード勝ちを飾ったキタサンブラック

 やはり、およそ4カ月前の宝塚記念(6月25日/阪神・芝2200m)惨敗の影響があるのだろうか。

 なにしろ、大阪杯(4月2日/阪神・芝2000m)、天皇賞・春(4月30日/京都・芝3200m)とGIを2連勝した「現役最強馬」が、勝負どころで何の抵抗もできずに馬群に沈んだのだ。単勝1.4倍と断然の1番人気に支持されながら、勝ったサトノクラウン(牡5歳)から1秒以上も離されての9着。これほどの大敗は、それまでに16戦して3歳時の日本ダービーだけである。その影響をそのまま引きずっていたとしても、確かにおかしくない。

 そもそも宝塚記念の敗因は何だったのか。

 さまざまな理由が取り沙汰されていたが、結局のところは、春のGIを連戦してきた疲れがあった、と言われる。とりわけ、長丁場でハードなレースとなった天皇賞・春を戦った疲れが完全に抜け切っていなかったようだ。前出の専門紙記者が語る。

「いつも調教に乗っている騎手が、宝塚記念のレース前に『今回は前回のようにうるさくなくて、妙におとなしい。歳を取って、落ち着いてきたのかなぁ』と言っていたんです。そして、レースが終わると、その騎手は『あの妙におとなしいと感じたのは、やっぱり天皇賞・春の疲れがあった、ということなんでしょうね』と話していました」

 馬にとって、3000mを超える長距離レースというのは、人間の見た目以上に激しく消耗するものだという。振り返ってみれば、昨年もキタサンブラックは、天皇賞・春を勝ったあとの宝塚記念で、今年ほどの大敗ではなかったものの、牝馬のマリアライトに屈して3着に敗れている。

 今年惨敗した宝塚記念については、こんな説もあった。勝ったサトノクラウンの鞍上ミルコ・デムーロ騎手にプレッシャーをかけられ、一時は外からフタをされるような場面があって、それが、そうした経験のないキタサンブラックには堪えたのではないか、というものだ。

 しかしそれこそ、疲れがあった証拠でもある。専門紙記者が言う。

「元気があったら、外からフタをされたときに弾き飛ばしていますよ。それができなかったのは、それだけ馬に元気がなかったということです」

 それから、およそ4カ月の休養を経て、いよいよ秋の大一番を迎えるキタサンブラック。それでも、いまだ春の疲れが癒えていないというのだろうか。

 ある競馬関係者によると、調教では以前のような、好調時に見せるうるさいしぐさは戻っているという。現に、速い時計も出している。ゆえに、「状態自体はかなり戻っているし、少なくとも天皇賞・秋では”疲れ”が理由で負けることはない」と、その関係者は語る。

“休み明け”という点についても、今春の大阪杯を昨年の有馬記念からおよそ3カ月の休み明けで制したことを考えれば、特にマイナス材料になるとは思えない。

 ではなぜ、専門紙記者は冒頭に記したネガティブな発言をしたのか。

「実は、ちょっと気になることがある」と、その専門紙記者は言う。

 キタサンブラックを管理する清水久詞厩舎は、ビシビシと強い調教をやって馬を鍛え上げるのが特徴で、キタサンブラックもそのようにして鍛えられてきたが、今回はその”ビシビシ”という感じが欠けるのだという。

「レースの1週前にして、一杯に追い切ったのが1回だけですからね。いつもはもっとやるのに……。先のことを考えているにしても、そこはちょっと引っかかりますね。調教の量は足りているし、時計も十分に出ているし、それらの点では文句のつけようがないのですが、『何としても天皇賞・秋を勝つぞ!』という陣営の意気込みみたいなものが伝わってこないんですよ。

 まあ、この秋の最大目標は次のジャパンカップでしょうから、今回は『余裕残しでいい』ということなのかもしれませんね。でも逆に言えば、他の馬が付け入る隙が、それだけ大きくあると思うんです」(専門紙記者)

 3歳時に菊花賞で初のGIタイトルを手にして以降、キタサンブラックはGIを8戦こなしてきた。そのうち、敗れたのは有馬記念(2015年、2016年)と宝塚記念(2016年、2017年)の”グランプリレース”ばかり。激戦が続いたあと、シーズンの最終戦にはもはや余力が残っていないのかもしれない。

 そうしたこれまでのセオリーでいけば、シーズン序盤は充実期。今回の天皇賞・秋はキタサンブラックが勝つ番だ。が、専門紙記者の懸念も気になる。馬券的な妙味からすれば、今回はあえて対抗以下に回して勝負するのも悪くないかもしれない。 秋の「古馬三冠」の初戦、「最強」の名をほしいままにしてきたキタサンブラックが新たな勲章を手にするのか。それとも、状態や本気度で上回るライバルに出し抜かれてしまうのか。楽しみな一戦であることには違いない。

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