画像提供:マイナビニュース

写真拡大

●最上位機種をコンパクトにしたモデル

ソニーからハイレゾ対応音楽プレーヤー「ZX100」の後継となる「ZX300」が登場した。ZX100は、コンパクト性と高音質を両立したモデルとして人気だったが、ZX300は一から設計を見直すことで音質に磨きをかけるとともに、新たにタッチパネルを搭載するなど操作性を大幅に向上させている。ZX300はハイレゾ対応音楽プレーヤーの決定版となるのか。前モデルのZX100と比較しながら、その実力に迫ってみた。

○最上位機種をコンパクトにしたモデル

ソニーのウォークマンといえば、昨年(2016年)の秋に発売されたハイエンドモデルの「WM1Z」と「WM1A」が、高音質ということで各方面で高い評価を得ている。ZX300は、そのWM1シリーズのコンパクトモデルというコンセプトで開発されたという。そのデザインや製品名はZX100の流れを汲んでいるものの、WM1シリーズで採用されている高音質技術をベースに一から設計がやり直されており、中身はZX100と全く別物となっている。

実際、筐体と基板の間に金メッキを施した無酸素銅プレートを設置することでインピーダンスを大幅に低減している点、大電力が供給可能な「電気二重層キャパシタ」を採用している点など、WM1シリーズと共通する部分は多い。4.4mmバランス接続や、高ヘッドホン出力 (アンバランス:50mW/バランス:200mW)に対応するなど、高音質化のための工夫も満載されており、その音質には期待が膨らむ。実際の音質については、本稿の後半でZX100と徹底的に比較しているので、そちらを参照頂きたい。

なお、WM1シリーズ同様に対応フォーマットが幅広いのもZX300の特徴。PCMは最大384kHz/32bit、DSDは最大11.2MHz(バランス接続時はネイティブ再生、アンバランス接続時はPCM変換再生)をサポート。WM1シリーズでは未対応(今後ファームウェアのアップデートで対応予定)の新ロスレスフォーマット「MQA」もサポートしており、現状、日本のハイレゾ音源配信サイトで購入できるすべての音源を再生できる仕様だ。

●使い勝手がかなりよくなった

○サイズや重さはあまり変わらない

形状は、長方形スタイルでZX100のデザインを踏襲している。サイズは、ZX100がW54.4×H120.1×D14.8mmなのに対し、W55.7×H120.4×D14.9mmと、幅が1.3mm、高さが0.3mm、厚みが0.1mm増加している。実際に並べて比べてみると、やや幅広になった点はよくわかるものの、高さと厚みに関してはほぼ変わらないように見える。重量も、ZX100の145gに対し157gと12g増えているが、両機を交互に持ち替えてみても、ZX300のほうがバランスがよいためか、重さの違いはあまり感じない。ポータビリティという面では大きな変化はないと言ってよいだろう。

操作面で言えば、新たに3.1インチのタッチパネルディスプレイが搭載された点は大きな改善点と言える。タッチパネルの反応はよく、メニュー体系もタッチ操作に最適化するため刷新されており、使い勝手は大幅に向上している。なお、再生、停止、送り、戻しなどに対応した物理キーも側面に装備しており、簡単な操作なら本体を見ずに手触りで行える。

○USB DACなどの新機能も搭載

WM1シリーズにない新機能を搭載している点もZX300の注目ポイントだ。まずその一つはUSB DAC機能。付属のWM-Portケーブルで接続すれば、PCで再生する曲を高音質で楽しむことができる。「DSEE HX」にも対応しており、非ハイレゾ音源をハイレゾ音源相当にアップサンプリングすることも可能だ。

Bluetooth機能も強化されており、ウォークマンシリーズとしては初めて高音質コーデックのaptxをサポート、11月に予定されているファームウェアアップデートでaptx HDもサポートされる。従来、高音質コーデックはSBC、LDACしかサポートされておらず、性能を活かし切れないBluetoothヘッドホンが多かっただけに、この対応は歓迎すべき点と言える。

●ZX300は「ワンランク上の音」

○音質は大幅に向上、まさにワンランク上の音に

音質のチェックには、WM1シリーズと相性がよいと評判のShure「SE846」を使用。アンバランスケーブルは標準のもの、バランスケーブルはキンバーケーブルを採用したソニーの「MUC-M12SB1」を使用した。試聴には、ハイレゾ音源とCDから取り込んだ音源(ともにFLAC)を用い、同じ音源をまずZX100で聴き、次にZX300でアンバランスケーブル、バランスケーブルで聴くという手順でチェックを行った。

まずは標準的な3.5mmアンバランス接続での比較だが、一聴してわかる解像度の違いに驚かされた。ZX100も決して解像度の低いプレーヤーではないのだが、ZX300に比べると解像度の甘さが際立ってしまう。例えば、カラヤンがベルリンフィルを指揮した「ベートーヴェン:交響曲第3番」(96kHz/24bit)をZX100で再生すると、すっきりとしたきれいな音ではあるものの、少し遠目で平坦に流れているという感じに聴こえるのだが、ZX300では弱音まできっちりと描き出されるので、大編成のオーケストラの鳴りが立体感を持ってリアルに迫ってくる。

また、ZX100は中域、低域の出に不足を感じることがあった。ZX300は中域の厚みが増したことと解像度が高くなったことが相まって、ボーカル、楽器の音の再現性が格段に向上しているように思う。

例えば、ノラ・ジョーンズの「Turn Me On」(192kHz/24bit)は、ZX100だとノッペリとした感じに聴こえるのだが、ZX300だとまさに目の前で歌われているかのような情景が見える。繊細なニュアンスまでしっかりと描き出されるので、ノラ・ジョーンズの表情豊かなボーカルを余すことなく堪能できる。エレキギターがメインのバンドサウンドも抜群によい。

ローリング・ストーンズの「One Hit」(44.1kHz/16bit)を聴くと、ZX100では奥まった印象になるキースのギターが、ZX300では迫力を持って鳴り響く。激しいカッティングながら絶妙に弦をミュートしてギターの響きに表情を与えている様もよく伝わってくる。エネルギー感、スピード感、キレのある音で、ロックの疾走感がうまく表現される。

バランス接続にすると、解像度がさらにグンと向上し、雑味のないよりクリアな音となり、音場も広がる。カラヤンの「ベートーヴェン:交響曲第3番」(96kHz/24bit)は、各楽器の音がよりリアルになり、全体の鳴りもより雄大な感じとなる。ノラ・ジョーンズの「Turn Me On」(192kHz/24bit)では、音の強弱がより鮮明に描き出されるため、ボーカルがより力強くなり、スケール感が増す。また、ローリング・ストーンズの「One Hit」(44.1kHz/16bit)では、より奥行き感が出てバンド全体の見通しがよくなる。各楽器の音が際立つため、バンド全体が放つエネルギー感がより増幅するのを感じる。

バランス接続では、音の均整がさらによくなる。ZX100よりは改善されているとはいえ、ZX300もアンバランス接続だと音がやや腰高に聴こえるときがあるのだが、バランス接続では重心が下がり低域の出がよくなる。そのため、アンバランス接続では苦手と感じられたマイケル・ジャクソンの「Billie Jean」(96kHz/24bit)のような、ベースがブンブンとうなるグルービーな曲も楽しめるようになる。

アンバランス接続でもその音質の高さは十分感じられたが、バランス接続ではよりバランスのとれた高音質となり、ジャンルを選ばなくなるという感じだ。実際、上述の音源以外にも、J-POP、ロック、アコースティックブルース、ジャス、フュージョン、ピアノ曲、バイオリン協奏曲などを聴いたが、合わないと感じるものはなかった。この点から考えるとZX300はやはりバランス接続でこそ、その真価を発揮する一台と言える。筆者は仕事やプライベートで数多くのプレーヤーを試しているが、バランス接続においては、ZX300は10万円以下のプレーヤーとしてはかなりハイレベルな音質と言ってよいと思う。

○ハイレゾを高音質で楽しむには最適な一台

上述のとおり、ZX100からは音質、使い勝手ともに格段に向上している。ZX100からの乗り換えを考えている人には間違いなくおすすめできる一台だ。また、バランス接続では上位のWM1Aに迫る音質を実現しているので、10万円以内で高音質のプレーヤーを探しているという人はぜひ注目して欲しい。このコンパクトさで高音質を実現、さらにバッテリーの持ちがよいものは希少だ。

なお、残念なのはやはり内蔵メモリが64GBの点。音にこだわる層に向けた製品なのだから、WM1シリーズとの絡みがあるとはいえ、128GBを維持して欲しかった。microSDカードスロットが1基あるとはいえ、イマドキのプレーヤーとしてはそれも不足に感じる。DSD 11.2MHzだと約3分の曲でも600MBくらいなので、高音質フォーマットの楽曲を楽しみたい人には、メモリ容量は大いに越したことはない。次世代機では、内蔵メモリが増大され、microSDカードスロットが2基搭載されることを願いたい。