10月11日、東証で開かれた会見は記者からの質問も多く、約1時間半に及んだ(撮影:梅谷秀司)

「東芝は上場企業として最低限の内部管理体制を構築した」。10月11日、日本取引所自主規制法人の佐藤隆文理事長は、東芝の特設注意市場銘柄や監理銘柄(審査中)の指定を翌12日から解除する理由をこう説明した。

特設注意市場銘柄は、証券取引所が内部管理体制を改善する必要が高いと判断した銘柄。改善が見られず、取引所が今後も改善の見込みがないと判断した場合に上場廃止になる。東芝は2015年に不正会計が発覚し、同年9月に指定を受けていた。約2年かかって、ようやく指定解除にこぎつけた。

会見した佐藤理事長は「ようやく最低限のレベルに達したというだけのことだから、『今回の指定解除でエクセレントカンパニーになった』との誤解はどうか抱かないでほしい。かつてコーポレートガバナンスの優等生と言われていたことから東芝には『名門企業』『一流企業』という残像があるが、そうした残像はどうか消し去ってもらいたい」と東芝の経営陣や社員に釘を刺した。

「一流の技術と三流の経営」

「文学的な表現を用いれば、東芝は一流の技術と三流の経営が組み合わさった悲劇である」。審査を終えた佐藤理事長は感慨深げにそう語った。10月11日の理事会では賛成6、反対1。反対した1名も、東芝で改善策が策定され、実行された点という認識は一致していたが、「もっと時間をかけて実証を重ねるべき」という判断時期の点で意見がわかれたのだという。

自主規制法人は、取引所から委託された自主規制業務を専門に行う。中立性を確保するため、取引所とは別法人の組織だ。自主規制法人が新設されて丸10年経つが、処分の決定に関して「全会一致でなかったケースはなかったのではないか」(佐藤理事長)という。

東芝は特設注意市場銘柄に指定された1年後の2016年9月に、改善策や改善の実態を示す「内部管理体制確認書」を提出している。しかし、同12月の自主規制法人の結論は「指定継続」。そのため、東芝は2017年3月15日に同確認書を再提出していた。

数百名の役職員にインタビュー

今回の自主規制法人の判断は、この3月に再提出した確認書の審査結果である。1万ページを超える確認書を精査するとともに、内部管理体制の不備の根本原因を洗い出すとともに、確認書に示された改善策が実際に実行されているかを実証するために、数百名の役職員や数十名の社外関係者にインタビューを実施したという。


日本取引所自主規制法人の佐藤隆文理事長。東芝は「最低限の体制を構築しただけ」と強調した(撮影:梅谷秀司)

「特に(社長や社外取締役を指名した)指名委員会の委員には重点的に話を聞いた」(佐藤理事長)。そのほか取締役、監査委員会、財務部門の社員。一定の責任のある一般社員にも聞いた。社外関係者では主に新旧監査法人(=新日本監査法人とPwCあらた監査法人)からもヒアリングしたという。今回の判断まで半年近くかかったのは、こうした地道で膨大な作業を積み重ねる必要があったためだ。

「9月の理事会で過去2年間の審査を全体的に振り返り、最低限の内部管理体制が構築されてきているようだとの共通認識が得られていた」(佐藤理事長)。たとえば、米原発会社ウェスチングハウス(WH)買収や米フリーポートのLNG契約などで見られたような、「リスクを省みない、身の丈に合わない買収」は鳴りを潜めた。「しっかりリスク分析をし、そのうえで経営判断をする(という当たり前の)ことが今の東芝はできるようになった」と佐藤理事長は言う。

その一例として挙げたのが、スイスのスマートメーター子会社、ランディス・ギアの株式公開におけるプロセス。東芝は7月、ランディス・ギアがスイス証券取引所に上場するのを機に、保有全株を売却した。海外子会社のリスク分析が的確になされた結果という評価だ。

それでも理事の1人が「時期尚早」と反対したように、なぜ今、指定解除なのかという疑問は拭えない。何しろ、東芝の監査を担当しているPwCあらた監査法人は、東芝の「内部統制報告書」に対して「不適正意見」を表明しているくらいだ。

佐藤理事長は「今回の結論はあくまでも自主規制法人独自の審査結果であり、監査法人の監査結果だけで判断するわけではない」と会見で苦しい弁明をした。PwCあらた監査法人が2017年3月期の決算に「限定付き適正意見」を付していることについても、「限定付きとした理由は監査法人から確認できている。改めて不正があった、ということではなかった」と今回の審査に影響しないとした。

「メモリ売却の迷走は管理体制の問題ではない」

「2018年3月期での債務超過回避の決め手となる東芝メモリの売却がうまくいかないことは内部管理体制の不備によるものではないのか」という質問に対しては、「外から見ていると明らかに迷走している、というのは否めない。ただ、東芝の内部ではリスク評価をきちんと行ってメモリの売却先を決めているのだから、内部管理体制に重要な問題があったとは言えない」と反論した。

日本取引所グループの清田瞭CEOはかつて「米WHが連結から外れたのは確認書を再提出した後だが、審査に加味される」としていた。佐藤理事長は、「東芝には米WHなど海外子会社を管理しようとする意欲も能力も低かった。その限りにおいては(もともと管理能力が低かったことから、WHの連結除外の)審査への影響は大きくないが、現在の東芝が(米WHという)重荷を背負っていないのは事実だ」と、どちらともとれる発言に終始した。

一方で、「清田CEOが言及しているような取引所への政治的な圧力はあったのか」との質問には「まったくありません」と歯切れがよかったのが印象的だった。

ある企業会計の専門家は「指定解除しかないという結論ありきで、ただそのタイミングを測っていただけではないのか」と指摘する。そして「指定解除の理論構成には無理があるが、かねてから周到に用意していたように思える」と続ける。

今回の指定銘柄解除で上場廃止のおそれが一時遠退いたが、東芝には「2018年3月までに債務超過を解消する」という次の壁が立ちはだかる。銀行団は「東芝が上場廃止になった場合の影響の甚大さを考えて東証は特段の配慮をするだろう」と期待を寄せるが、これは清田CEOも佐藤理事長も「特別扱いはしない」ときっぱり語っている。

東芝の上場廃止危機は完全に去ったわけではない。