「この強さは本物?」

 思わずそう唸ったのが、秋華賞トライアルのGIIローズS(9月17日/阪神・芝1800m)における勝ち馬、ラビットラン(牝3歳)のレースぶりだ。


前哨戦のローズS快勝したラビットラン

 最後の直線半ばあたりでエンジンがかかると、1頭だけ次元の違う末脚を炸裂。一気に先行馬群を飲み込んで、ライバルたちをゴボウ抜きしていった。

 馬場は「良」発表だったが、前日に降った雨の影響が残るやや重い芝だった。その条件の中で、メンバー最速の33秒5という上がりタイムをマーク。その切れ味は本当に際立っていた。

 単勝26.4倍の8番人気。期待された馬が期待どおりに走ったわけではない。

 それゆえ、多くのファンがレース後、「こんな強い馬がいたのか」と驚いた。と同時に、「たまたまハマッただけじゃないのか」という疑いも抱いた。

 はたしてラビットランは、いわゆる”トライアルホース”なのか、それとも”本物”なのか。

 この点については、本番の秋華賞(10月15日/京都・芝2000m)を占ううえで、最大の関心事と言っていいだろう。関西の競馬専門紙記者はこう語る。

「ローズSが終わったあと、(トラックマンなど)関係者の多くは『やられたぁ』っていう顔をしていましたね。この馬はひょっとしたらこれくらい走るかもってことは、みんな、わかっていたんです。ただ、それ以上に不安要素のほうが多かった。それで、半信半疑になって、予想ではなかなか手を出しづらかったんです。

 だから、実際に走られてみると、誰もが『やっぱりなぁ』とも思ったわけです。つまり、ラビットランはもともと『これぐらい走っても不思議はない』と思われていた馬。ローズSで見せた強さは本物ですよ」

 戦績を振り返ってみると、確かにラビットランはデビュー戦でド派手な勝ち方をしている。昨年11月、京都競馬場で行なわれたダート1400mの新馬戦で、2着に7馬身の差をつけて圧勝しているのだ。

 新馬戦を、これだけの大差で勝つというのは、並の馬ではない。

 この馬を管理するのは、数々の名馬を育て上げてきた栗東の角居勝彦厩舎。そんな名門厩舎でも、この結果を受けたあとはにわかに色めき立ち、すぐさま大目標を桜花賞に設定したという。

 だが、その後は思うように事が運ばなかった。

 体調不良、外傷、喉の疾患など、アクシデントに見舞われて、レースを使うこともできなかった。新馬勝ちのあとは、およそ5カ月も実戦から離れて、大目標の桜花賞にはそのスタートラインにすら立てなかった。

 桜花賞が終わったあとに復帰して、春にはダート戦を2戦消化するが、そこでも2着、6着という結果に終わった。期待ほどの成績を残せず、再び休養に入った。

 そうして、休み明けで挑んだのが、前々走の500万条件(7月22日/中京・芝1600m)だった。最後方から上がり33秒0の決め手を繰り出して快勝。古馬相手に圧巻の勝利を飾ったが、先述の専門紙記者が語ったように、多くのファンも、関係者も、この勝利が本格化のサインとはとらえなかった。

「半信半疑」だったのである。その理由は、ひとつは成績が安定していないこと。そしてもうひとつは、血統面だった。

 父タピット、母の父ディキシーランドバンド。父系も、母系もバリバリのダート血統で、この血統からダートの最強クラスは生まれても、芝の一流馬が出てくるとは、皆、にわかに信じられなかったのだ。

 それでも、前々走から主戦となった和田竜二騎手は、この馬の「乗り味が素晴らしい」としきりにほめていたという。専門紙記者が再び語る。

「一般的に『乗り味がいい』馬というのは芝を走る馬で、筋肉モリモリのダート馬がこんなふうにほめられることはあまりありません。それでも皆、このダート血統で『乗り味がいい』なんて、なかなか信じられなくて……。話半分という感じで聞いていたんですが、ローズSの結果を受けて、誰もが『本当にそうだったんだ』っていうことがわかりましたね」

 ローズSでの”激走サイン”は、いくつかの場面で出ていたのだ。しかし、それを頭から信じるわけにはいかなかった。信じることを躊躇させるようなデータが強力にあったからだ。

 何はともあれ、どうやらラビットランがローズSで見せた強さは本物らしい。

 では、本番の秋華賞でも勝てるのか?

 それは、決して簡単なことではないだろう。舞台となるのは、京都内回りの芝2000m。直線が短く、ラビットランのような末脚勝負タイプには不利と言われるコースだ。メンバーがさらに強化されることに加え、このコースを克服しなければならない。

 だとしても、ラビットランには大いに可能性があるという。「競走馬としてまだ完成していないから」と言って、前出の専門紙記者は同馬を推す。

「この馬には、競走馬として教え込むことがたくさんあります。その意味では、まだ成長段階にあるということです。にもかかわらず、今でもこんなに強い。この馬は、さらにもう一段、もう二段と強くなっていきますよ。その伸びしろをもってすれば、この馬にとって不利と言われる、京都内回りもあっさりと克服してくれるのではないでしょうか」 この馬をめぐる「半信半疑」は、秋華賞をもってついにピリオドが打たれるのか。ラビットランの走りから目が離せない。

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