角居調教師が斤量について語る

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 秋の時期、2歳戦とわずかに残された3歳限定戦以外は、「3歳以上」の馬が同じレースで走る。その際のキャリア差を考慮して定められているのが“負担重量”だ。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、斤量とその影響についてお届けする。

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 競馬予想の要素として、「右回りが得意」とか「前走は度外視」とか、いささか感覚的なものもあれば、馬体重や前走タイムなど、具体的な数字が出るものもあります。その具体的数字を比べて、「AはBよりも走る」とは簡単にはいかないのが競馬の難しいところだ。

 それらの数字の中で、明快に比較できるのが斤量です。負担重量というくらいだから、負担は軽いに越したことはない。重い斤量を気にしない馬もいることはいますが、「だからって重くしないでくれよ」などと口を尖らせるかもしれません。逆に結果が芳しくない場合、「58キロは厳しかった」などと陣営がコメントしますよね。重い斤量は凡走の原因に使われることも多いようです。

 馬の気持ちになってみましょう。斤量は騎手の体重だけでなく、鞍につける「重り」で調整します。たとえば2キロの負担増だとすると、鞍を背負った段階で「あれ? ちょっと重くない?」と分かる。でも、たぶん気にしていない。パドックでジョッキーが騎乗しても、重いとは感じない。調教では調教助手が乗ることも多いし、スピードを追求しないにしても70キロ近い斤量を背負って走っていますから。

 思うに、重い軽いというのは結果論の産物です。レースを走りきって、その消耗度で「やっぱり2キロ重いと、レースはキツいな」なんて馬は感じる。つまり走ってみなければ分からない。

 さらに日本の馬場は軽く走れるのが特徴で、斤量差の影響は比較的少ないのです(重馬場では軽い斤量のほうが有利ですが)。

 そんな印象のせいか、私は斤量には大雑把です。斤量を意識してレースを選ぶことはありません。あえてハンデ戦を選ぶこともほとんどなく、斤量の軽さが格上挑戦の動機にはなるくらいのものです。

 しかし、留意すべきこともある。3歳馬は時期によって、4歳以上の馬より負担が軽くなりますが、牝馬はさらに1〜2キロ軽い。もちろん、多くのデータをもとにはじき出された斤量差なのですが、3歳牝にとって相当に有利な印象があります。昔は4歳馬の秋が能力のピークだといわれていましたが、調教技術や飼育環境が上がった今では、3歳の牝でも馬格はそれほど見劣りしません。

 斤量負け(昔はカンカン負け、などといった)する馬の特徴として、よくいわれるのは体が小さい馬。全体に斤量の占める割合が上がり、脚や心臓への負担が増します。背中が垂れている馬。そして、脚が長くて歩幅を延ばそうとするタイプも斤量には敏感といわれています。

 逆に斤量の影響を受けづらいタイプは「大型で胴が短い」となるわけですが、そういう馬はヨーロッパのような荒れた馬場には強いものの、日本の軽い馬場には向いていないのです。

 馬齢、体型、馬場状態、そして斤量。これをセットにして考えると面白いかもしれません。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。

※週刊ポスト2017年10月13・20日号