マツダは新型SUV「CX-8」を発表した。

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9月14日、マツダは新型SUV「CX-8」を発表した。その動力源はディーゼルエンジンのみ。環境規制の強化などでディーゼル車に逆風が吹くなか、なぜディーゼルのみで勝負するのか。そこには自社開発のエンジンに対する絶対の自信が込められていた――。

■ミニバンに変わる新たな市場の創造を

マツダは9月14日、新型SUV「CX-8」の発表会を開いた。マツダSUVは「CX-3」「CX-5」に続く3車種目。価格は税込み319万6800円〜419万400円で、同社で最上位のSUVとなる。3列シートで最大7人乗り。発売日は12月14日で、月販1200台を目指す。

「日本での多人数乗用車はミニバンを中心に構成されてきた。しかし、お客さまがミニバンから2列あるいは3列シートのSUVに徐々にシフトする傾向が出てきている。CX-8によって、ミニバンに変わる新しい市場の創造に挑戦したい」(マツダ・小飼雅道社長)

ここで注目したいのは、この新型車には「ディーゼルエンジン」のモデルしか用意されていない点だ。ディーゼル車は、今や世界で“悪者”として扱われている。発端は2015年、ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正だった。世界中で販売していた約1100万台のディーゼル車について、窒素酸化物(NOx)の排出量を不正に操作していたことが発覚。その後、排ガス不正疑惑は、ほかのメーカーのディーゼル車にも飛び火した。

「クリーンディーゼル」への信頼が揺らいだ結果、加速したのが電気自動車(EV)へのシフトだ。今年の夏には、英国とフランスが2040年をメドにエンジン車の販売を禁止する方針を発表。中国も同様の検討に入っていると報じられている。また、スウェーデンのボルボは7月初めに19年以降発売する全モデルにモーターを搭載すると発表し、「エンジンだけで走る車の終焉」をアピールしている。

そんななか、マツダはなぜディーゼルエンジンだけのCX-8を発売するのか。そこには自社開発のディーゼルエンジンに対する絶対の自信がみえる。

マツダはこの8月、技術開発の長期ビジョンを発表した。そこで打ち出したのは「Well to Wheel」という考え方だ。これは油田(=Well)から原油を採掘、精製し、軽油やガソリンとしてクルマの燃料(=Wheel)として使うまでの全プロセスで、「二酸化炭素(CO2)の排出量」をとらえるものだ。

たとえばEVであれば、クルマからはCO2を出さないが、モーターを動かす電気の発電ではCO2を排出する可能性がある。もし石炭火力発電所で発電した電気を使うのであれば、EVの利用が増えることで、CO2が増加する可能性はある。

エンジンをつかえばCO2は出てしまうが、ガソリン車にくらべて、ディーゼル車はCO2の排出量が少ない。おまけに、ディーゼル車は、今のところEVや燃料電池車(FCV)よりも製造コストが安い。新興国などでは、まだ電力供給が不十分な地域も多く、EVの普及は現実的ではない。そこで利用されるクルマは、CO2を考えれば、ガソリン車よりディーゼル車のほうがいいだろう。

「2035年時点では、ハイブリッド車も含めてクルマの約85%に内燃機関が使われているという予測がある。新興国などインフラ整備が遅れている地域では、引き続きディーゼルなどの内燃機関の活用が必要になるだろう」(小飼社長)

■生き残るために独自の技術を磨く

問題は「排ガス不正」の温床にもなった窒素酸化物(NOx)などの有害物質だ。多くの自動車メーカーはマフラーに装置を付けて有害物質を浄化している。こうした浄化装置は「後処理工程」とも呼ばれる。これに対して、マツダは、エンジンに燃料を噴射するメカニズムを改良し、後処理工程なしに排ガスを浄化する技術を開発した。装置がなければ、価格も安くできる。

マツダディーゼルエンジンに自信があったからこそ、CX-8ではディーゼル車だけで勝負に出た。今回、次世代技術「スカイアクティブD2.2」をさらに改良。最高出力や最大トルクをパワーアップさせたうえで、燃費も向上させることに成功した。燃料満タン(72リットル)での航続距離は1137km。東京から九州まで走ることができるそうだ。

開発責任者の松岡英樹主査は、「多人数SUVでも、ディーゼルならではの立ち上がりの良い加速感や高トルクの走りができるようにしました。また、3列目の人も含めてすべての乗員がゆったり座れる快適性と、全員が普通に会話できる静粛性を実現させました」と話す。

マツダはプラグインハイブリッド車やEVも開発している。19年にはこれまでにないEVを出す予定だという。だが、価格競争力の高い自慢のディーゼルを手放す気はない。

「パワートレインは国ごと、地域ごとのニーズに応じたマルチソリューションで対応していく。クリーンディーゼルについては、今後の規制強化にも対応し、お求めやすい価格でこの技術を提供できると自信を持っている」(小飼社長)

1000万台級の大手がしのぎを削るなかで、グローバル販売台数が155万台のマツダは「ニッチメーカー」のひとつだろう。そんな企業がこれからも生き残っていくためには、独自の技術を磨いていく必要がある。大手とは違う「マツダらしい車」をどうつくっていくか。CX-8はそのひとつの答えだといえそうだ。

(ジャーナリスト 山田 清志)