未来が生まれる場所が中国だとしたら、メディアエージェンシーにとっては悪いニュースだ。中国の大手ブランドは、メディアの透明性を求めて、広告予算をエージェンシーのトレーディングデスクから、(BATと称される)バイドゥ(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)に移す例が増えている。

これはおそらく、コストの節約面でも、理にかなった動きだろう。ブランドが適正な価格でBATと直接契約を結べるのなら、中間業者にわざわざ金を払ってメディアを購入する必要はない。さらにブランドはいま、メディアエージェンシーを利用するだけでなく、キャンペーン管理サービスオプションを提供するベンダーやコンサルティング企業の利用も拡大させている。

完全に供給側主導の市場



中国は、メディアエージェンシーにとって厳しいビジネス環境だ。たとえば、広告ホールディングス世界最大手のWPPは、最近の四半期決算が期待外れに終わった原因として、ブラジル、ロシア、中国において「成長の浮き沈みが激しい」ことと、消費者向けパッケージ製品企業の広告支出が弱まっていることを挙げた。また、WPPのCEO、マーチン・ソレル氏は、2016年にロイター(Reuters)が行ったインタビューで、中国における2016年前期の売上が横ばいだったことを明らかにしている。

メディアエージェンシーにとって中国のビジネス環境が、近いうちに改善される見込みはなさそうだ。たとえば、中国のブランドはここ最近、エージェンシーのトレーディングデスクへの支出を減らしはじめている。その代わりに、BATと直接契約を結んでいるのだ。したがって、メディアエージェンシーの購買力は弱まってきている、と複数のアドテク幹部が語っている。

あるホールディングカンパニー(持ち株会社)で経営幹部を務めた経験をもつ中国人幹部は、匿名を条件に、「中小規模の企業はいまでもトレーディングデスクと仕事をしているが、大手クライアントは、独立系(のデマンドサイドプラットフォーム:以下、DSP)と提携するようになっている」と語った。「大手ブランドの多くは、グループ単位での契約を行わない。より条件のいい契約をパブリッシャーと直接交渉できるからだ。中国は完全に供給側主導の市場であり、メディアエージェンシーに購買力はない」。

「ブラックボックス」という印象



広告評価企業に勤める別の中国人幹部が、やはり匿名を条件に語ってくれたところによると、広告エージェンシーはいまでもブランドのキャンペーンハブとして、パブリッシャーやサードパーティベンダーとの調整や代金の支払いを行っている。だが、広告主はエージェンシーに関して信頼性の問題を抱えているのだという。

「2017年に入ってトレーディングデスクが仕事を失いつつある理由は、ブランドが彼らを『ブラックボックス』と考えているからだ」と、この幹部はいう。「広告主はBATに対して、より大きな信頼感を抱いている。中国のBATは、多くのメディア資産を自前で所有し、確固たる技術をもっているからだ。おもにBATを利用してアドテクビジネスを手がける、中国で生まれ育ったエージェンシーは多い。彼らはプラットフォームをうまく運営している」。

この評価企業幹部によれば、国際的なエージェンシーのほとんどは、マージンの低さから、BATとの提携には消極的だ。だがクライアント側は、自社のメディアプランにBATを加えるべきだと主張しているという。「BATから得られるマージンは(メディア支出の)約5%だが、トレーディングデスクなら50%であることを考えれば、エージェンシーにとって難しい状況だ」と、この幹部は語った。

本当の問題は「広告詐欺」



しかし、このような見方に同意しない企業幹部もいる。香港を拠点とするDSP、アイクリック・インタラクティブ(iClick Interactive)でマーケティング担当バイスプレジデントを務めるセリーナ・ウォン氏は、中国のトレーディングデスクは、たいてい複数のサードパーティのDSPを統合したダッシュボードを構築しているため、ベンダーと緊密に連携する必要があると指摘する。トレーディングデスクは自社で技術をもっていないが、彼らはメディアエージェンシーとして、ブランドのために戦略的な計画を作成したり、メディアバイイングの意思決定を行ったりしている、とウォン氏は考えている。

一方、中国のメディアコム(MediaCom)で最高デジタル責任者を務めるクリスチャン・ソロモン氏は、BATに流れる広告費が増えているという見方に同意する。ただし、自身のエージェンシーが行っているのはほとんどがブランド向けのメディアバイイングだと、ソロモン氏は強調した。同社のバイイング部門は、北京、上海、広州のオフィスで合わせて80名のスタッフを抱えており、メディアプランニング部門よりも強力な態勢を築いているという。メディアコムは、クライアントのために多くのパブリッシャーとの交渉に参加しているが、これにはクライアントがBATから直接購入を行うケースも含まれている。ソロモン氏によれば、中国でブランドがDSPと一緒に仕事をすることはめったにない。中国のブランドはいまもトレーディングデスクを利用しているが、その利用は「よりプレミアムな形」で行われているという。

ソロモン氏は、「ブランドが透明性に関して大きな声を上げはじめたのは2016年のことだった。そしていま、ブランドはBATと直接提携し、テンセントの『Guangdiangtong』やアリババの『ユニデスク(Uni Desk)』(などのDSP)を利用している」と述べる。「だが、より問題になっているのは、トレーディングデスクの利用ではなく、サードパーティのプログラマティックを利用するオープンエクスチェンジの品質に関する懸念だ。本当の問題は、オープンエクスチェンジとDSPでよく見られるデジタル広告の広告詐欺にある」。

社内チームの関与が増加



もちろん、プログラマティックは、メディアエージェンシーがクライアントのために行っている業務の一部にすぎない。だが、全体的にみると、中国のブランドは、自社のメディア支出をよりコントロールしたがる傾向がある。

エージェンシーコンサルティング企業のアールスリー(R3)が2016年に発表した、中国におけるエージェンシーの業務範囲に関するレポートによると、エージェンシーは高い評価を得ているものの、デジタル戦略、データ分析、そのほかのマーケティング分野で主導的な役割を果たしているのは、ブランドの社内リソースだった。具体的には、メディアプランニングとメディアバイイングでは専門のメディアエージェンシーがまだリードしているものの、「社内チームの関与が増えて」いるという。調査に参加した405名のマーケターのうち、約59%がメディアプランニングに大いに関与しており、46%がメディアバイイングに深く関わっていた。ただしアールスリーは、その基準値やメディアの種類別データは明らかにしていない。

アールスリーの共同創設者で代表を務めるグレッグ・ポール氏は、「ソーシャル、eコマース、アドテクが拡大しているため、中国のブランドはBATへの依存度を高めている」と語る。「さらにブランドは、社内でのメディア担当部門に重点的に投資しており、彼らがメディアプランニングやメディアバイイングの監督、BATとの直接契約を専門的に担当している。一方、メディアエージェンシーは、多くの戦略的取り組みを主導したり、中国におけるキャンペーン展開に積極的な役割を果たしたりする傾向にある」。

コンサルティング企業の参入



また、多くの人が気づいていないかもしれないが、中国では、ある勢力がメディアエージェンシーの領域で勢力を拡大しつつある。その勢力とは、管理コンサルティング企業だ。アクセンチュア(Accenture)やデロイト(Deloitte)といった企業は、CRM(顧客関係管理)、ERM(エンタープライズリソース管理)、コンテンツ管理などのサービスを以前からブランドに対して提供している。そのため、彼らにはトレーディングデスクを管理する能力があるのだと、先の評価企業の中国人幹部は指摘する。

「アクセンチュアは、アドテクでもっとも積極的に活動する管理コンサルティング企業だ。彼らが透明性という切り札を使っているのは間違いない」と、この幹部は話す。「(透明性は)中国ではまた新しいトレンドだ。だが近い将来、ブランドは自社でメディアプランニングを行い、ベンダーに技術料を払い、コンサルティング企業にマネージドサービスの利用料を払う(ことができる)ようになるだろう。つまり、メディアエージェンシーが不要になるのだ」。

Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)
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