いよいよ発走間近に迫った今年の凱旋門賞(ロンシャン・芝2400m)。高速決着だった昨年と打って変わって、今年は重馬場でのレースが見込まれている。今週に入って、まとまった雨は降ることがなく、サトノダイヤモンドの好走を願うファンや陣営としては「なんとかこのままで」と願っていたが、レースを翌々日に控えた9月29日金曜日の夜から、かなり強い雨脚での降雨があった。激しい雨は1〜2時間で収まったが、徐々に乾きつつあった馬場が、再び水を含んでしまうことが懸念された。

 それだけに正直なところ、サトノダイヤモンドの勝利の可能性は小さくなり、出走取りやめもあるのではないかと思われたほどだった。日本ではあまりそういうケースはないが、欧米やオーストラリアでは馬場状態を嫌っての出走取り消しというのは日常的にあることだ。合わない馬場で無理をせず、勇気ある撤退もアリなのではないか……。


最終調整を行なったサトノダイヤモンド。どこまで完調に近づいているか(代表撮影)

 しかし、土曜日の朝、報道陣の前に姿を現した池江泰寿調教師の口から、そういった類の話が出ることはなかった。当然といえば当然かもしれないが、池江調教師をはじめとした陣営の凱旋門賞への想いの強さが伺えた。

 土曜日は午前中から日差しも強く、また、強くはないものの風も間断なく吹いた。馬場状態は、フランスの馬場水分量を表す数値であるペネトロメーターが3.4でスタート。その後、3.6へと推移したが、それでも水曜日午前中に発表された3.7よりも乾燥しているというものだった。水曜日の数値はフォワ賞当日の馬場と同じで、考えていたほど重い馬場ではないのではないかと思われる。

 実際、土曜日の開催の合間に芝コースに足を踏み入れてみると、靴にべっとりと水滴や芝が張り付くのかと思いきや、まったく濡れた様子もない。それどころか歩を進めても、フランス独特の凹凸のほかには、のめるような歩きにくさも感じない。さらに、内から12mは仮柵で保護されており、これが凱旋門賞当日には取り外されて、よりいい馬場が姿を現すのではないか。

 ただ、実際に競馬に携わる側からすると、人間の感覚と500kgあまりの馬の感覚とでは大きく異なるようだ。土曜日の第3レースに組まれたGIIロワイヤリュー賞(4歳以上牝限定・芝2400m)に管理馬フュリアクルサーダを出走させた、フランスで開業する小林智調教師は後方からジリジリ伸びるも6着だった同馬の走りを見て、こう話してくれた。

「見た目よりも、実際に馬の方はかなり力が要るように見えますね。最後は我慢比べのような競馬になりましたし、凱旋門賞も似たことになると思います」

 小林調教師は、決して表面上の乾燥=走りやすい馬場ではない、と指摘してくれた。ちなみに、このレースは凱旋門賞と同じ距離で、勝ちタイムは2分35秒5。昨年の同じレースではペネトロメーター3.0で2分31秒44だった。もちろん、ペースもあるので一概にこの時計差だけで判断はできないが、ひとつの指標にはなりそうだ。

 さらに印象的だったのが別の馬に騎乗していた、日本でもおなじみのオリビエ・ペリエ騎手のひと言だ。

「明日は難しい馬場になるよ。もし、もうひと雨が降るならもっと難しくなる」

 これまでに現役最多である凱旋門賞4勝を挙げている名ジョッキーの言葉だけに、その意味合いはより重く受け止めねばならない。

 一方、オッズから見て、各馬の評価もここにきて大きな動きを見せている。まず、多くのブックメーカーで2倍を切っていたエネイブルの単勝が概(おおむ)ね2倍かそれ以上となった。さらに、ユリシーズやブラムトといった人気上位だった馬たちも、軒並みここに来てオッズが上がっており、混戦の度合いを増している。ダークホースとして気になるチンギスシークレットはブックメーカーによって評価が大きく分かれた。

 クールモアのウィンターはライアン・ムーア騎手騎乗の効果で、ここにきて急激に人気を集めている。注目のサトノダイヤモンドはブックメーカーによっては30倍を超え、ベッティングエクスチェンジでは40倍を超える勢いだ。

 凱旋門賞の歴史を紐解くと、日本馬が好走した年は、意外にも馬場が渋った年ばかり。むしろ、マカヒキに利ありと思われた昨年の凱旋門賞は高速決着でありながら、マカヒキの出番はまったくなかった。状態が上がっているのであれば、サトノダイヤモンドもむしろこのままの馬場状態のほうが望ましいのかもしれない。

 泣いても笑ってもあと数時間、今年の中長距離路線の頂点はどの馬か。名手ランフランコ・デット―リに導かれ、歴史的名牝の誕生となるのか、そして日本から挑戦のサトノ2騎の運命はいかに……。