角居勝彦調教師が「コーナー」を語る

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 競馬の醍醐味は最後の直線勝負。マイペースで逃げた馬が残るか、しっかりタメをつくった馬が差してくるか。その数秒前、第4コーナーを巧く回った馬が有利なのは間違いない。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、コーナーの回り方の妙味についてお届けする。

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「競走馬にとって大切なことは真っ直ぐに速く走ること」と以前に書きました。その能力さえ磨けば競馬では勝ち負けに持っていける。

 そういう意味でもコーナリングは大事です。なかでも4コーナー、いかに巧く直線に向かうかが肝要です。

 鉄則は「小さく回る」。コーナーでは遠心力によって外に振られます。自然に任せれば大きく外に膨らんで馬の重心がぶれ、減速します。直線に向いたときにスピードを立て直しづらい。案外多いのが、直線でインに入ろうとして3コーナーから大きく回ってインに切れ込むパターン。これは遠心力によるロスが大きくて得策とはいえません。

 どう曲がってもスピードは落ちるわけですが、その後に手前を替えることもあるので、小さく回ったほうが直線での加速がスムースです。

 東京や新潟など、直線が広い競馬場では、小さく回って大きく出てもいい。大事なのはいったん殺したスピードをいかになめらかに立て直すか。たとえてみれば、車で交差点を左折するとき、曲がった先の道路が2車線ならば外に出すほうが遠心力に逆らわずにラクですよね。左側の車線に入ろうとすると、遠心力に逆らう分減速を強いられ、その後のアクセルの踏み込みが深くなってしまうでしょう。

 4角前から、ずんずん加速する馬がいますね。あれは巧みにスピードを殺してコーナーを小さく回り、直線に出た瞬間になめらかに加速している。特に巧いのはルメール、デムーロでしょうか。他の馬が「減速→加速」でモタついている場合、加速のいい馬はとりわけ目に鮮やかです。

 馬の気持ちになってみましょう。たとえば左回りの4角で、馬は少し左に体を傾けて走りたい。なるべくスピードを殺さないように重心を保とうとする。その重心に合わせてジョッキーも左に体を傾けてほしいのです。そうしないと、馬は鞍上の体重込みでさらに体を左に倒すことになってしまう。無理に傾けた分、スピードをさらに殺すことになる。

 巧いジョッキーは遠心力とケンカせず、むしろ直線での加速に利用する。鞍上に遠心力を操作する意識がないと、その分を馬がカバーしようとしてスピードを落とすことになってしまう。馬がバランスをとって勝手に走る。人馬一体とはいえない。巧みに馬を動かすジョッキーとは歴然とした差があります。

 小さく回って大きく外に出ると、確かに内側の馬には置いていかれることがある。しかしスピードに乗っている時間が他の馬よりも長いから、なんとか届くわけです。

 騎手の腕も大事ですが、馬の器用さも大切。状況によって完歩を縮められる器用さです。縦に長い馬体、いわゆる胴長はコーナーを器用に捌きづらい傾向があるようです。ストライドが大きく、ピッチを使いづらくコーナーが苦手。たとえばキセキはそういった器用さに欠けるところがある。しかし経験上、大物は案外不器用な部分があるようです。苦手部分がはっきりしているから、それさえ克服すれば、という感じでしょうか。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。

※週刊ポスト2017年10月6日号