今週の米株市場は、アラン・グリーンスパンFRB(米連邦準備制度理事会)議長の景気発言をめぐって、波乱が起きそうだ。先週末の26日、同議長はワイオミング州のリゾート地、ジャクソン・ホールで開かれた「グリーンスパン時代−未来への教訓」と題した、カンザスシティ地区連銀主催の講演会で、この18年間、FRB議長として米国の金融政策の舵取りを任されてきたことへの思いを噛みしめながらも、しっかりと米国の将来の経済の舵取りについても直言をすることを忘れなかったからだ。

  グリーンスパン議長は、来年1月末で退任することが決まっているが、この日の講演で、やはり、気がかりなこととして、今の住宅バブルがある日、突然、崩壊し、米国経済が景気後退に陥る可能性があること、また、産業界に根強い貿易保護主義の姿勢やホワイトハウスと米議会による双子の赤字(財政赤字と貿易赤字)解消に向けた取り組みの不十分さによって、米国経済がこれまで、長く享受してきた「resilience(強靭性)や「flexibility(柔軟性)」さえも危うくなることを指摘したのだ。同議長はもし、米経済の強靭性と柔軟性が失われるようなことがあれば、金利の上昇など投資リスクプレミアム(リスクに対して支払うコスト)の上昇を招き、住宅バブルの崩壊や株価急落など富裕資産価値の下落は避けられないと警告する。

  今回の講演で、同議長は「米国の経済インバランス(不均衡)」という言い方で、ここ数年の住宅市場の過熱ぶり、特に、住宅価格の高騰に懸念を改めて強調した。同議長は、「2000年の株価急落によって、家計の可処分所得に対する(富裕)資産の比率は低下したものの、その後、ここ数年間で株価や住宅価格が上昇に転じ、再び、この比率は大幅に上昇している」と述べ、所得以上に巨大化した住宅資産などの富裕資産のバブル化に警鐘を鳴らした。同議長は、この富裕資産の含み益は、「(景気が悪化して)投資家が突然、慎重な態度を取るようになれば、リスクプレミアムが上昇し、富裕資産はいとも簡単に消えて無くなる」と住宅バブルの崩壊の可能性を指摘する。ただ、これは同議長のこれまでの持論を繰り返したもので、特段、目新しいことはないのだが、この発言が出るたびに株式や債券、為替の市場関係者は大きな警鐘として受け止めている。26日の株式市場は、同議長発言を米経済の先行き懸念として受け止め、ダウ平均株価は下落、債券市場も金利上昇懸念から長期債は下落した。

  住宅バブルについては、同議長は、米国全体がバブルになっているという認識は持っていない。ただ、米国内のいくつかの地域で住宅バブルの現象が見られるという。5月のニューヨークでの講演で、同議長は「フロス(泡)」という言い方で初めて、バブルを指摘している。最近でも、7月に、同議長は住宅ローンの新商品として登場してきた「インタレスト・オンリー・ローン」という、最初の10年は金利だけの返済で済むローンや「ハイブリッド変動金利ローン」という最初の3−10年間は固定金利で、その後は変動金利というハイブリッド型の荒手のローンの利用に危惧を示した。これだと資金を容易に借りられるので、住宅ブームという“火”に油を注ぐようなものだからだ。

  また、同議長は7月に、「投資家は金利上昇リスクに無関心すぎる」とも警告している。これは、4年連続で過去最高を更新して好調な住宅販売の背景には、低金利政策の恩恵があり、個人が低金利の住宅ローンを使って、積極的に住宅購入を進めているわけだが、今後、金利が上昇し、リスクが高まる可能性があることに注意すべきだと言っているのだ。FRBは米国の政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を引き上げてきており、この金利上昇リスクについて、個人も含めた投資家の認識は甘いとグリーンスパン議長は指摘する。