角居勝彦調教師が「左回り」「右回り」を語る

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 中山・阪神がともに右回りのため10月からの東京開催に照準を合わせている関東馬が多いという。さらに10月半ばからは3週ずつ新潟と福島の裏開催がある。どの競馬場で走らせるか、管理する側の判断が問われる季節だ。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、右回りと左回りによって生まれる競馬の面白さについてお届けする。

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 馬の左手前と右手前。その得手不得手は競馬場の左回り右回りの得手不得手にも微妙に関係してきます。

 左手前が得意な馬は左回り巧者、右手前が強い右利きなら右回りがよさそうですが、1回の競馬、同じ手前で走りきることはありません。前号でも書いたように、ずっと同じ手前で走ると疲弊してスピードが落ちてしまいます。だから、何度か手前を替えつつ、勝負所で得意な手前を使えればそれが一番いいと思います。

 JRAの競馬場のうち左回りコースは東京、新潟、中京。それ以外の7つの競馬場は右回りです。関西の主戦場である京都も阪神も右回りだから、栗東勢は右回りが得意になる傾向にあります。しかし、それは右回りのコーナー経験が多いということで、右手前が得意ということではありません。利き脚は人間と同じで生まれながらにして持っているものです。

 東京競馬場はダービーやオークス、天皇賞(秋)やJCといった大レースが行なわれます。得意不得意というより、力のある馬が結果を出せるコースになっているといわれています。「広い東京コースでこそ」という馬は、それほど器用ではないけれど、素質は高いという馬に対しての言葉ですね。関西馬にとっては、日頃あまり走り慣れていない左回りですが、大レースを狙うからには、ぜひ克服したい競馬場です。

 ポイントはやはり直線に入る前のコーナーです。減速しすぎないように左手前で回り、直線に入ったときに得意の右手前に替えてスピードを上げていくことができればいい。加速していくところでは、できるだけ手前を替えたくないので、そのタイミングが大事なのですね。

 これが左利きの馬だと、コーナーを左手前で回り、直線に入って右手前に替えてから、坂を越えたあたりでまた左手前に戻すということで、器用さが必要になります。ただ、東京の直線は長いので、たとえば坂を越えてから加速しても、キレがあれば十分届きます。

 左利きの馬は右回りコースを苦にすることが多いかもしれません。右回りコースの競馬場といえば、阪神外回り以外は直線が比較的短く、巧くコーナーを回らないと直線勝負に持ち込むのが難しい。これが福島や小倉などの小回りコースならばなおさらです。左回りが得意で、さらに大跳びの馬にとってはつらいですよね。勝負所の最終コーナーを右手前で回り、直線に入ったところで左手前に替えても、直線が短いのでトップスピードになる前に、器用に手前を替えて先に行った馬に逃げ切られてしまうことが多い。

 しかしこういう競馬場があるから生き残ることができる馬がいることも事実。レースとしては地味かもしれませんが、「福島巧者」「小倉巧者」の大駆けは、穴党にとって魅力ですね。

 得意なのは左か右か。ひょっとすると右回りを苦にしないサウスポーなのか。それを考えると競馬はさらに面白くなりそうです。管理する側からいえば、手前を上手に替える器用さを体得してほしいところです。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。

※週刊ポスト2017年9月29日号