頭のいい子に共通する小学校時代の過ごし方
子どもの脳を飛躍的に成長させるには(写真:tomos / PIXTA)
問題:「落とし穴にはまって、もがく様子を表した1文字の漢字は?」
答え:「凶」
問題:「10→20→30→40→41→50→52→〔??〕」
答え:62(郵便ハガキの料金の推移)
東大生が数々の難問に答えるクイズ番組が人気です。知識に加え、ひらめきも必要な、まさに「頭のよさ」が試される。それらの難問をクリアしていく彼らの頭脳はどのように養われたのでしょうか。実例で見てみましょう。
「学校の図書室の本をほとんど全部読み尽くした」
水上 颯(みずかみ そう)さん
医学部4年生 山梨県出身
小学校時代は無限に本を読んでいました。学校の図書室で借りられる本が1日2冊でしたので、毎日2冊借りて、2冊読んで返して、という生活が中学校卒業まで続きました。ジャンルにこだわっていると読む本がなくなってしまうので、とにかく手当たり次第。ですから図書館の本は読みつくしたという感じですね。
本は読み終わらないと寝られない性質。読み始めると、もう少しもう少しと、つい夜更かししてしまい、翌朝はフラフラになってしまうことがよくありましたが。
中学校時代の読書体験は、のちの東大受験にもクイズにも大いに役立ちました。東大の試験では、英語にしても英語の知識以上に文脈を読んだり、要約したりする国語の能力が必要になるんです。
ですから、国語ができれば、国語だけでなく英語も高得点が狙える。たくさん本を読んでいたおかげで読解力がついていたので、英語と国語の両方を得点源にできたのは助かりました。クイズは知識があればあるほどよいので、どんな経験でも役に立ちます。こうした小さい頃の読書経験はもちろん、ゲームやスポーツの知識など、すべてがいまクイズに生きています。
伊沢 拓司さん
農学生命科学研究科修士1年生 埼玉県出身
僕は幼い頃から“はまり体質”。幼稚園時代は、休日の朝に母親を起こしてレンタルビデオ店に連れていってもらい、電車のビデオを借りまくる。ビデオを見たら、今度は父親に電車の見える場所に連れていってもらい、えんえんと電車を見る。そんなことを繰り返していた記憶があります。
小学校に上がったら、サッカーにはまりました。ちょうど日韓ワールドカップの時期と重なり、寝ても冷めてもサッカーばっかり。朝起きてサッカーの総集編ビデオを見てから学校に行き、授業が始まる前に友達と校庭でサッカーして、放課後ももちろんサッカー。週に2回はサッカースクールに通い、雑誌や本も読み漁りました。
ワールドカップに出ている国の選手だけでなくて、出ていない国の選手まで調べて、友達と知識比べ。クイズではどれぐらい知識があるかどうかが勝負ですが、知識をためる楽しさを知ったのは、この小学校時代のサッカーが最初ですね。
父親がヨーロッパチームの練習会を見られるイベントのチケットをもらってきたときには、世界の一流選手が間近で見られると興奮しました。地元にチームがあったのも大きかったですね。地元、日本、世界、と層になっているところにも魅力に感じていました。父親はサッカーよりも野球派でしたが、サッカーのビデオや本を買ってきてくれたり、試合観戦にも連れていってくれたりしましたね。
好きなことでストラテジーが身に付く
水上さんが「無限に本を読んでいた」、伊沢さんが「サッカー選手について調べ尽くした」というように、東大生の多くが子ども時代に、「何かに熱中する体験」を持っています。たとえば、水上さんのように本を読むのが好きな子であれば、最初は簡単な本から手に取るでしょうが、だんだんと本の面白さを知って、次から次へと読みたくなる。読めない漢字や難しい言葉があっても、大人に聞いたり自分で調べたりして、どんどん読んでいくでしょう。
拙著『日本一勉強が好きな頭脳 東大脳の育て方』でも詳しく解説していますが、自分の好奇心の赴くままに好きなことに熱中しているうちに、わからないことは誰に聞けばいいのか、どうやって調べればいいのかというストラテジー(戦略)が身に付きます。これがのちの勉強や仕事に大いに役立つのです。
また、さまざまな好奇心によって楽しいと感じることが多ければ多いほど、神経伝達物質のひとつであるドーパミンが放出されて、脳を大いに刺激します。私が所属する東北大学加齢医学研究所では、子どもからお年寄りまで多くの脳画像を所有しており、多くの研究成果が発表されています。
そもそも好きでやっているわけですから、本人は楽しくて仕方ない。水上さんもただ本が好きだから読んでいただけで、国語の勉強をしているという意識はまったくなかったのでしょう。
では子どもが熱中しているときに親がテレビやスマホを眺めているだけでいいのか、というとそうではありません。親も子どもが興味を持ったことにいっしょに楽しむ。あるいはもっと興味を追求できるように環境をととのえる。親自身の努力も大切です。
たとえば伊沢さんの親のように子どもが電車に興味を持ったら、実際に電車を見せに連れていく、サッカーに興味を持ったら、本物のサッカーの試合をいっしょに見に行く。バーチャルとリアルをつなぐ作業を一生懸命やった家庭の子というのは、ぐんぐん伸びていくと教育現場でもよく言われています。東大生の家庭について調べてみると、このとおりのことをされていた親が本当に多いです。
脳にはまねすることに特化している“ミラーニューロン”という領域があります。言語もスポーツもすべては模倣です。子どもというのはまねがすべてですから、大人が楽しそうにやっていると、子どももまねして楽しそうにやります。ですから、子どもに何かをやらせたいと思ったら、まずは親自身が楽しむことが大切なのです。
2人の娘さんがともに東大に進学されたあるご家庭の話です。その家庭では、お母さんがとても勉強家で、いつもリビングで語学や資格試験の勉強をしていたそう。60代になるいまも、資格を更新するために勉強されているとか。楽しんで勉強している母親の姿を、子どもたちはいつも見ていたのでしょう。
田舎の子には街の刺激、都会の子は自然に学ぶ
「田舎と都会、どっちで子育てするのがいいですか?」これもよく聞かれる質問ですが、どちらにもいい面と悪い面があるので、何とも言えません。
ただ“自然は最高の教師”といわれるように、自然は奥深く、学ぶことが無数にありますから、都会住まいで周りに自然がないという家庭は、ぜひ休日には意識的に自然の中に連れ出しましょう。自然の中で遊ぶと運動神経も伸びます。
逆に、知的な刺激に乏しい地方住まいなら、この反対と考えましょう。休日には街に出て美術館や博物館などで本物をいろいろと見せるとよいでしょう。バーチャルな「知識」と「リアル」をそれぞれの環境で積ませることで、子どもの脳は飛躍的に成長していきます。