速報!アップルが日本で太陽光発電を展開へ

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Apple Park Visitor Centerにある、Apple Parkの拡張現実模型。iPadを通じて見ると、エネルギー発電の様子も見ることができる(筆者撮影)

iPhone発表イベントで世界に向けて公開されたアップルの新しい本社機能を担う「Apple Park」。9000本もの植樹によって作り出された、起伏に富んだカリフォルニアの原風景と、未来的な建築は、訪れる人々を驚かせた。

Apple Parkにはもう一つの秘密がある。それは、再生可能エネルギーを作り出す一大拠点となっていることだ。宇宙船のような巨大な新社屋の屋根にはソーラーパネルが敷き詰められ、Apple Park全体で17Mwhもの電力を作り出し、蓄電設備を備える。Apple Parkの電力全てを再生可能エネルギーでまかなう計画だ。

再生可能エネルギーへと転換は96%まで進捗

アップルは、全世界のビジネス活動で使う電力をすべて再生可能エネルギーへと転換しようとしており、その進捗は現在96%になっているという。


Appleで環境・政策・社会イニシアティブを担当する副社長、リサ・ジャクソン氏。2016年3月のイベントで筆者撮影

Apple Storeや各国のオフィス、データセンターはもちろんのこと、サプライヤーや委託製造先で利用する電力に至るまで、再生可能エネルギーへの転換を目指している。

実は、アップルの再生可能エネルギー転換における最新の取り組みの現場は日本にある。それはどういうことなのだろうか。アップルで環境・政策・社会問題を担当する副社長、リサ・ジャクソン氏に単独インタビューを行った。

アップルは9月22日に米国や日本を含む国々で「iPhone 8」と「iPhone 8 Plus」を発売し、また11月3日には「iPhone X」を発売する。実は、この最新のiPhoneは、2つの意味で、環境問題にインパクトを与える製品となっている。


9月22日発売のiPhone8では、製造工程における温室効果ガスの削減を達成している(筆者撮影)

「iPhone 8、iPhone 8 Plus、iPhone Xは、最新のカメラや美しいディスプレイを搭載し、多くの人に気に入ってもらえるスマートフォンになるでしょう。搭載しているA11 Bionicは、処理性能と同時に、高い省電力性を備え、これまでとほぼ同じバッテリーで、1日中、高い処理性能や高画質の体験を楽しむ事ができます」(ジャクソン氏)

世界で毎年2億台以上が販売されるiPhoneが、1日に1時間のバッテリー持続時間が延びるだけで、膨大な電力を節約できる計算になる。そして、その製造工程でも、大きな進歩が見られたという。

もうひとつの環境問題へのインパクトは、ボディデザインの変更である。「iPhone 8、iPhone 8 Plusは、アルミニウムのフレームとガラスのボディの新しいデザインを採用しました。これによって、製造工程における温室効果ガスの排出は、iPhone 7の頃より11%減、iPhone 6と比べ86%減と、大幅な削減を達成しています」(ジャクソン氏)。

膨大な数のプロダクトを製造し、世界中の人々が利用するアップルは、自身の製品がもたらす環境へのインパクトを自覚し、注意深くエンジニアリングに取り組んでいるわけだ。

日本では「再生可能エネルギー100%」を達成へ

そして今回のインタビューでジャクソン氏は新しいプロジェクトを明らかにした。それは「日本では再生可能エネルギー100%を達成する」というものだ。


2016年3月のイベントでは、都市の中での屋上スペースを活用した太陽光発電についても指摘しており、日本でのプロジェクトがその最新事例となる。

具体的には、日本で都市型太陽光発電事業に取り組んでいる第二電力(大阪市中央区)とパートナーシップを組み、ビルの屋上にソーラーパネルを設置するという。

「今回の取り組みでは、300のビルの屋上に、新たにソーラーパネルを設置します。都市の中で再生可能エネルギーを作り出す場所を確保する事ができるアップルと、屋上のパネル設置によって収益化ができるビルのオーナーはWin-Winの関係になるでしょう」(ジャクソン氏)。

ジャクソン氏によると、このプロジェクトで作り出される電力は18Mwhにのぼり、日本に設置しているオフィス、研究開発拠点、リテールストアなどで用いられる電力全てをまかなうことができるとしている。「このプロジェクトによって、アップルの日本におけるビジネスは100%再生可能エネルギー化を達成します」(ジャクソン氏)。

ソーラーパネルを設置する広大な土地の確保が難しい日本において、都市の中で電力を創り出すアイデアは、最適なソリューションになる。日本以外の拠点での再生可能エネルギー化にも活用されるアイデアになり得るという。

アップルは自社が直接関わる活動の範囲内だけで再生可能エネルギー化を行っているだけではない。サプライヤーや委託製造先も含めたサプライチェーン全体での「再生可能エネルギー100%」を目指している。


屋根の上に設置する太陽パネルのイメージ(写真:アップル)

たとえば日本のサプライヤーであるイビデンは、アップル向けの製造に関して再生可能エネルギー化を進めている。アップルは、今後もサプライヤーの再生可能エネルギー化を支援していく考えだ。「サプライヤーの再生可能エネルギー化は大きなチャレンジ。様々な形での支援をしながら、プロジェクトを進めていきたいと考えています」(ジャクソン氏)。

日本では、ほかにも先端的な取り組みがある。神奈川県横浜市に開設する研究開発センターは、アジアにおける初の「気候変動に配慮してデザインした拠点」になるとのことだ。

アップルが目指す「未来ビジネス」とは?

ここまでクリーンエネルギーに力を入れるアップル。しかし、米国では政府とのすれ違いも生じている。米トランプ政権は、気候変動への取り組みに関して消極的だ。パリ協定は、温室効果ガス削減について、先進国だけでなく途上国とともに結んだ新しい枠組みだったが、ドナルド・トランプ大統領は「米国に不利益」としてパリ協定離脱を唱え、同盟国からも懸念の声が上がっている。

アップルに限らず、カリフォルニアに拠点を置くテクノロジー企業は、環境問題や移民の問題など、現在のトランプ政権の方針とは真逆の考えでビジネスを進めてきた。こうした政策とのギャップや懸念について、ジャクソン氏に聞いた。


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「クリーンエネルギーは、未来のビジネスの中で象徴的な存在だと考えています。米国だけでなく世界規模での気候変動への取り組みは、これまでより環境負荷が少ないだけでなく、コスト削減につながり、新しいテクノロジーや新たな製造業による雇用を生み出します。アップルは新しいアイデアで、世界を変革しようとしています。より良い製品を世に送り出すだけでなく、企業活動における気候変動への責任を示し、イニシアティブを取りながら、ビジネスを持続可能にしていくことを目指しています」

つまり、政府の戦略のブレとは関係なく、環境負荷の少ない製品づくりを目指していくということだ。ジャクソン氏は続ける。

「ティム・クックCEOが2016年3月のメディアイベントでその取り組みについて触れましたが、アップルは一貫して同じ方針の下で、気候変動への取り組みを続けています。方針を示すだけでなく、実際に再生可能エネルギー100%化を果たし、持続可能なビジネスを現実のものとする責任を持っているのです」