エクスタシーとして知られる違法薬物MDMAが「画期的治療法」としてFDAに指定される
by freestocks.org
「エクスタシー」として知られ、違法薬物として指定されるMDMAをPTSD治療に使用するという方法がアメリカ食品医薬品局(FDA)によって「ブレークスルーセラピー(画期的治療法)」に指定されました。この治療法が承認されれば、PSDやマジックマッシュルームを治療に使うという研究も、大きく前進する可能性があります。
MAPS - FDA Grants Breakthrough Therapy Designation for MDMA-Assisted Psychotherapy for PTSD, Agrees on Special Protocol Assessment for Phase 3 Trials
All clear for the decisive trial of ecstasy in PTSD patients | Science | AAAS
http://www.sciencemag.org/news/2017/08/all-clear-decisive-trial-ecstasy-ptsd-patients
Ecstasy could be ‘breakthrough’ therapy for soldiers, others suffering from PTSD - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/national/health-science/ecstasy-could-be-mdma-breakthrough-therapy-for-soldiers-others-suffering-from-ptsd/2017/08/26/009314ca-842f-11e7-b359-15a3617c767b_story.html
3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)はエクスタシーという名前で知られており、脳の神経伝達物質に影響する薬物。摂取すると幸福感・社交性・共感力がアップし眠らなくても平気になる一方で、ひどい薬酔いといった副作用が存在します。以下の記事を読むとMDMAの効能についてがよくわかります。
パーティドラッグとして若者に人気のMDMAが脳に与える影響と副作用がよく分かるムービー - GIGAZINE
MDMAは人体に有害であるとして多くの国で法律で規制されていますが、用法・用量を調節し治療目的で使用するという試みが各国で行われており、2017年にはアルコール中毒治療を目的とした臨床試験がスタートしました。
パーティドラッグ「MDMA」をアルコール中毒治療に使う世界初の臨床試験がスタート - GIGAZINE
非営利組織である「幻覚剤学際研究学会(MAPS)」が発表した内容によると、MDMAを使用した治療法が「ブレークスルーセラピー(画期的治療法)」としてFDAに指定されたとのこと。MAPSの研究は3つのセッションから構成されており、フェーズ2の段階にある臨床試験では、MDMAが被験者の恐れを取り除き、内省・コミュニケーションの力を取り戻させるとともに、共感や同上能力を向上させることに成功したと報告されていました。今後、FDAはMAPSと密に関わっていき、フェーズ3の臨床試験をできる限り効率よく完了させる予定です。
ブレークスルーセラピーは、ある治療法が他の治療法よりも迅速に開発されレビューが行われるための指定制度として2012年に施行されたもので、ブレークスルーセラピーに指定されるには、1つまたは複数の臨床的に重要な評価項目において、既存の治療薬を上回る改善が暫定的な臨床的エビデンスによって示唆されることが必要です。これまで約200個もの薬がブレークスルーセラピーに指定されてきました。
MAPSが行う研究によってMDMAが治療に役立つと証明されれば、「人体に有害」だとして法律で禁じられているLSDやシロンビンといった薬物を医療に利用しようとしている他の研究も前進する可能性があると見られています。世界各国で向精神薬の研究が行われていますが、法律の壁によってなかなか研究が進められないのも事実。過去にインペリアル・カレッジ・ロンドンで行われたLSDの研究では、倫理委員会から研究を行うための許可を取るのに9カ月を要したとのこと。研究者のデイビッド・ナット氏はMAPSの発表について「これは科学の大きな進歩ではありません」「これらのドラッグが薬となることは過去40年間にわたって明白な事実でした。これは『容認』における大きな一歩なのです」と語りました。
by Janine
MAPSの創設者であるリック・ドブリン氏はMDMAの治療薬としての潜在的な可能性を確信していたため、1986年に麻薬取締局がMDMAを違法薬物に指定したあとすぐにMAPSを創設。そしてPTSDや依存症などの治療法としてMDMAを使用する研究に対して何百万ドルもつぎ込んできました。アメリカで初めてMDMAが治療に役立つと主張する論文が2011年に発表され、それ以降、アメリカ・カナダ・イスラエルなど多くの国でMAPSが出資したフェーズ2の大規模な臨床試験が行われてきました。これらの臨床試験の結果は発表こそされていないものの、FDAによってよい評価を受けています。この臨床試験では平均して17〜18年の間PTSDに苦しんできた107人の被験者を対象に治療を行ったところ、研究を12カ月間続けることができた被験者90人のうち、61人がPTSDに苦しまなくなったそうです。
例えば、軍人としてイラクから戻った後にPTSDに苦しんだジョン・ルベッキー氏は、何もない場所でヘリや砲撃の音を聞き、夜に眠ることができず気を失うまでアルコールを飲むことがあったとのこと。退役軍人のための施設で治療を受けたものの症状は改善せず、5度の自殺を試みたそうですが、最終的にMAPSの臨床試験に参加してMDMAのカプセルを服用することで、苦しみから解放されたそうです。
ただし、治療で用いられる純粋なMDMAと道ばたで売られているようなエクスタシーは別物であり、市場に出回っているエクスタシーの中には人体に有害な物質が含まれている可能性があると専門家は指摘しています。また、治療に用いられるタイプのMDMAにも副作用があり、体がオーバーヒートの状態になったり、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌量を増やし、不安、記憶障害などの症状が出ることも。これらの点から、PTSDの治療にMDMAを利用しようとする試みに反対する研究者も存在します。
なお、MAPSが行うフェーズ3の臨床試験は200〜300人の被験者を対象としたものであり、資金繰りが目下の課題となっています。臨床試験を行うための目標額は2500万ドル(約27億円)ですが、まだ1250万ドル(約13億5000万円)の資金が足りない状態。資金集めが完了すれば2018年にも臨床試験を開始でき、2021年には終了する予定とのことです。