『オクジャ Okja』

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カンヌ映画祭ではNetflixの映画は賞から除外!?

『殺人の追憶』、『スノーピアサー』の鬼才ポン・ジュノの才能に惚れ込んだブラッド・ピットが製作総指揮を務めた映画『オクジャ Okja』が世界で話題を集めている。

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一番の話題は、その上映スタイル。映画ではあるがNetflix(ネットフリックス)のオリジナル作品のため、日本をはじめ多くの国では映画館ではなく、オンラインでのストリーミング配信で観るのが基本。

それゆえ、今年のカンヌ映画祭では賞を競うコンペ入りしたものの、審査委員長のペドロ・アルモドバルが「劇場公開を目的としない作品に賞はあげたくない」と発言し、大きな話題になった。

『ダンケルク』のクリストファー・ノーラン監督も、映画館での上映がオンライン配信より先行すべき、という発言をしている。

ブラッド・ピットはNetflixと組むことに積極的

一方、製作会社プランBの代表でもあるブラッド・ピットは主演もした『ウォー・マシーン:戦争は話術だ!』、ドラマ「The OA」に続いて、Netflixとタッグを組むのはこれが3作目。

プロデューサーとして新しい才能を発掘することに長けているブラピは、既存の枠にとらわれない製作をしていきたいとして、Netflixと組むことに積極的だ。

ではNetflixで映画を撮ることのメリットは映画監督にとってどこにあるのか。ポン・ジュノに話を聞いた。

Netflixの魅力は潤沢な予算と創作の自由

ーーNetflix向けに撮ることは、監督にとってどんなメリットがあるのでしょう?

「予算が潤沢なことが大きいです。『オクジャ』を企画したときから、かなり予算が必要なことがわかっていましたから。そして、予算が多いにもかかわらず、100%創作の自由が与えられる。これは作り手にとっては大きな魅力です。

マーティン・スコセッシも今、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノの主演でNetflix作品を製作しています。スコセッシと自分を一緒にするのはおこがましいですが、彼も創作に干渉されたくないという思いがあるから、Netflixに魅力を感じたのではないでしょうか。

韓国をはじめ、アメリカ、イギリスなどで映画館での上映も確保はしてくれていますし、映画祭での上映も今後あります。監督の立場からすると、スクリーンで観てほしいという渇望も解消されるので多くの監督が、この方式に感心を持っていると思いますね」

『オクジャ』の製作費は約5000万ドル(約55億円)。前作『スノーピアサー』の4000万ドルを大きく上回っており、Netflixなしには不可能だったようだ。

オンライン配信の映画は、映画館から閉め出されてしまう背景

『オクジャ』はポン・ジュノの本国・韓国では6月29日から劇場公開されているが、同日からオンライン配信もされているため、大手シネコン・チェーンからは閉め出されてしまった。

実際、飼い主である少女ミジャが「オクジャー!」と呼びかけて、巨大な姿を最初に現すときのインパクトは映画館で観るとかなりのもの。

7月19日には韓国の富川国際ファンタスティック映画祭でも『オクジャ』は特別上映され、そこでも監督は「大きなスクリーンで観てもらえて嬉しい」と語っていた。

ーー映画館で上映すべきという声をどう思われましたか?

「映画を観るには様々な形がありますし、スクリーンで大勢の人と観ることが最も美しい形だとは思います。

僕自身は、映画館で観る映画も、オンラインで観る映画も共存していくことが、映画の未来につながると考えています。

でも、僕は平和的な共存を望むけれど、映画配給会社などは共存することを受け入れられずにいますね」

ブラピ率いる映画制作会社プランBが製作をすることになったのは、同社の共同代表を務めるプロデューサーのジェレミー・クライナーが、ポン・ジュノ作品のファンだったこと、そして『ウォー・マシーン』にも出演しているティルダ・スウィントンの存在も大きかったようだ。

オクジャを狙う悪役(双子!)を怪演するティルダは、今回、共同プロデューサーとしても名を連ねている。

ーーティルダ・スウィントンの存在は大きかったですか?

「ティルダには前作『スノーピアサー』の撮影中からこの映画の話しをしていて、ぜひやりたいと言ってくれたんです。

初期の段階から製作に関わってくれたので、彼女は共同プロデューサーとしてクレジットされていますし、ルーシーとナンシーの双子のシーンはアフレコの段階でかなりセリフを変えたんですが、それはすべてティルダが考えたものなんです。

彼女は素晴らしい女優というだけでなく、非常に才能のあるクリエイターなんですよ」

『オクジャ』のひとつのキモが、食肉問題

この映画のもうひとつのキモが、食肉問題。少女ミジャ(アン・ソヒョン)は、アメリカの巨大食品会社のCEO(ティルダ・スウィントン)に奪われたオクジャを取り返そうと、過激だが心やさしい動物愛護活動家(ポール・ダノ)と共にアメリカへ渡って冒険を繰り広げる。

実はオクジャは生物学者(ジェイク・ギレンホール)によって遺伝子操作で生み出されたスーパーピッグだったのだ。巨大だがかわいらしいオクジャと、少女ミジャの冒険は『となりのトトロ』をはじめ数々の名作を想起させるが、その背景にあるのは現代社会への痛烈な批判だ。

ーー子どもが動物を取り返そうとする映画といえば、ダルトン・トランボの『黒い牡牛』を思い出しました。

「その映画はいま、久しぶりに思い出しました。撮っているときに、『ワイルド・ブラック/少年の黒い馬』のことは考えましたね。

特に、ミジャがオクジャの背中に乗って帰るシーンでは。純粋な子どもと動物というのは、見る人に強い感情を起こすのは確かですが、『オクジャ』のアプローチは、そうした過去の映画とは正反対です。

この映画は、資本主義に対する風刺なんです。オクジャが解体されそうになる、食肉工場のシーンがこの映画のキモだと思っています」

Netflixでは映画を汚すことなく、守ってくれる

ーーストリーミング作品と、劇場公開映画では、撮影方法は異なるのでしょうか。

「僕はこの映画を、どう公開するのかということを想定して撮っていたわけではありません。撮影監督も同じで、従来と同じシステムで撮っています。

ただ、1本の映画には長い寿命があり、人生に例えれば劇場公開はそのうちのごく短い時間。その後の長い人生を、ストリーミングやデジタルで歩むことになります。

大きなスクリーンで観た映画が、テレビやタブレットで観てもきれいであるべきです。

映画監督として傷つくのは、テレビ放映などで映画がカットされたり、番組案内などの関係ない字幕が流れて、映画が汚されてしまうことです。

でもNetflixではそうしたことがなく、映画を守ってくれる。作品は完璧な状態でデジタル保存され、配信される。映画へのリスペクトを持ってくれていると思います」

ここで今回、ポン・ジュノに会って、一番聞きたかったことを尋ねてみた。

『オクジャ』では“女性の過酷な生”が投影

ーーなぜあなたは、オクジャをメスに設定したのでしょうか?

「人間の世界でも、女性差別は強くあります。そして、それは動物の世界にもあり、メスのほうがオスよりも、より酷い辛い目にあわされることが多いんです。

たとえばこの映画の中で、無理矢理、オクジャは種付けされますが、スタジオ側には当初、あの場面は入れたくないと言われたんです。

でも、あれこそメスが一番辛い目にあうことの象徴ですから、絶対に入れなくてはならなかった。実際の養豚場でも、メスの豚は狭いスペースに入れられて、まったく動くことが出来ない状態にされているんですよ。一生、体の向きすら変えられず、そのまま出産もする。

メス豚というのは搾取され続けて一生を終える、いわば資本主義の犠牲者の象徴なんですね。ニワトリも、メスはひたすら卵をを生ませられる。だから、映画の中で動物を救うなら、メスにしたいと思ったんです」

この視点が、今までの動物映画と決定的に違うのだ。これこそ、ポン・ジュノ。

監督の過去作『母なる証明』でも、女性が母として生きることの過酷さをサスペンスとして描いていたが、『オクジャ』もまた女性の過酷な生が投影されているのだ。

エンターテインメント作品として優れているだけでなく、フェミニズム、資本主義、食肉問題、そして何が映画なのか、という映画の本質問題までをも内包する『オクジャ』。

これはポン・ジュノからの大きな問いかけであり、同時にビッグさに、おなかいっぱい、大満足すること間違いない。