映画評論家の松崎健夫氏(写真左)と共に

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 シンガーソングライターにして俳優としても活躍する前野健太が8月17日、東京・渋谷のユーロライブで行われたジム・ジャームッシュ監督作「パターソン」の試写会に来場し、映画評論家の松崎健夫氏を相手にトークセッションを行った。

 日本でも人気の高いジャームッシュ監督が、「スター・ウォーズ フォースの覚醒」のアダム・ドライバーを主演に迎えた本作。バスの運転手として妻と愛犬と暮らし、日々の生活の中で詩をつづるるパターソン(ドライバー)の姿を静かに描き出す。

 自ら作詞・作曲を行う前野だが、映画を見て「詩がもろに映画の題材になっているということがまずうれしかった」と語る。「言葉や映像で説明しきらないままに、詩がまとっている魅力がスクリーンに描かれていて、こんなふうに詩を映画にできる人がいるのかと思った」とジャームッシュを称える。

 自身の作詞方法と、ドライバー演じるパターソンが重なると感じた部分も多かった模様。パターソンはバスの運転手だが、前野自身は図書館のカウンターでアルバイトをしていた経験があるそうで、人や周囲を観察し、言葉にしていくさまに共感を覚えたという。「詩は街の中にこそある。昔はよくバイト中、図書館のカウンターで誰も来ないときに書いてました。僕は、他人の会話から歌を持ってくる“歌泥棒”なんです。バイトの男の子と女の子の会話を聞いて『よしよし』と思ったり(笑)。彼らの雰囲気に時代性が出ていて、ありきたりの風景であるほど、それを丁寧に描くと、わざわざ言わなくても政治や社会がにじみ出てくるものだと信じてます。だから、詩を書くことって大事だし、この映画にはそういう強いメッセージがある気がします」と熱く語った。

 特に本作の中で、感動したシーンを尋ねられると「少女の詩人と詩を交換するところ。あの光景はグッときました。この世界で、一番美しい光景なんじゃないかとちょっと涙が出ました」と明かす。また、永瀬正敏が「ミステリー・トレイン」以来約27年ぶりにジャームッシュ作品に出演しているが、そこで発するセリフや“音”に言及。「すごくよかったです。『アーハー』って言い回しが、音楽的な響きを持っていて素晴らしかった」と語った。

 それでも、ジャームッシュの大ファンかというと「昔から『いいぜ!』とか思っていたけど、まったくと言っていいほど見てなくて(笑)、見た気になっていました。今回、改めていくつかを見て、むちゃくちゃ詩人だなって思った」と告白。初期の作品で、ミュージシャンを俳優として起用するなど、音楽的造詣の深さが語られやすいが「言葉をすごく大事にしているところは初期から変わっていないし、むしろ強くなっている。この映画、一見、スローライフ的なホワっとした雰囲気の映画だけど、強い幹があり、マッチをするとその幹が燃え上がるようなところがある」と独特の詩的感性で本作の魅力を語っていた。

 「パターソン」は、8月26日から全国順次公開。