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text:AUTOCAR JAPAN編集部

AUTOCAR Awardsは、毎年AUTOCAR英国編集部が、それまでの12カ月間に発売されたクルマ、または輝いた「自動車業界人」に送る賞である。

世界的には、高く浸透しているアワードのひとつで、受賞した各メーカーは、メディアに向けてリリースを配信するほど。

今年も13の部門が設けられ、14台ものクルマが賞を獲得。なかには、われらが日本メーカーも含まれている。

このページの主役、トヨタCH-Rが受賞したのは「Game Changers」賞。これは、「同クラスに、これまでにないスタンダードを設け、従来の価値観を一変させるもの(AUTOCAR英国編集部)」に与えられる。

テスラ・モデルX、アルファ・ロメオ・ジュリア、ルノー・ゾエも同賞を受賞している。なんとなく、どのような価値観をもって選定しているかをご理解いただけるだろうか。

それではなぜ、AUTOCARがC-HRに高評価を与えるのか? 以下でコメントを読んでみよう。

AUTOCAR英国編集部、「Game Changers賞」顕彰に添えて

トヨタはしばしば、声高に訴えることなく、他に先駆けたビジネスに取り組むことがある。

それゆえ、必ずしも知れ渡っていないが、実は数多くの「世界初」となる技術を有する。カタログなどで地味に主張するばかりだが、日本では自動車技術会による賞を100以上も獲得している。

おそらく、最も顕著な技術はガソリンハイブリッドに関するものだろう。

それは特に市街地での運用を重視したものだが、技術的な革新度においては、なんら劣るところはない。

また、多くのメーカーが、われこそはファンキーなコンパクトSUVの先駆けなりと主張するが、このジャンルにおける真の開拓者は、1994年登場のRAV4だ。

そんなトヨタの最新モデルであるC-HRは、再びトヨタの偉大さを証明するだろう。これは、初のクロスオーバーではないが、トヨタの強みを生かし、ラインナップに新たな活力を与えるモデルだ。

現行プリウスに続いて、目新しく大胆なデザインを採用し、トヨタのガソリンハイブリッドに注力し続けるという意思を表明するものでもある。

グローバルなラインナップにおける数車種の5ドアと置き換えるクロスオーバーとして、C-HRはわれわれが長年見てきた中で最も説得力のあるもののひとつだ。

エクステリアのデザインのファンキーさはインテリアにも反映されるが、そこにはトヨタがまたも見出した、新たなレベルの刺激や面白みが感じられる。

おそらくそれは、クルマのルックスやフィーリングの趣味性を偏見なく受け入れる傾向が強い、欧州市場を重視してデザインした結果だろう。

しかし注目に値するのは、発表するやいなや、欧州だけでなく、日本を含む世界中の市場へ投入したことだ。

それは、トヨタ自身がC-HRをどのようなものにしたいのかをはっきりさせた。形勢を一変するクルマにしようというのである。

 
誇らしいではないか。褒められると、乗ってみたくなるもの。さっそく1台のC-HRを借りだすことにした。

text:Fumio Ogawa(小川フミオ)
photo:Satoshi Kamimura(神村 聖)

世界で戦う スタンスは守りではなく攻め

グローバルカーは1970年代に流行った言葉だ。世界戦略車と訳されたりして、世界各地で販売するようなモデルを指した。たとえば初代いすゞジェミニ。ゼネラルモーターズによる世界戦略車として日米欧などで生産され多くの国で販売された。

トヨタC-HRは日本とトルコで生産されている。かつ、世界の市場において十分に戦える出来のよさだ。新世代の世界戦略車といっていいかもしれない。

トヨタ自動車が2016年12月14日に日本発売したC-HR。SUVというか、従来のハッチバックに代わる新しいタイプの乗用車だ。

スタイリングは大胆。「後席の広さは敢えて追求せず、キャビンを絞り込む」(トヨタ自動車の広報資料)などデザインをかなり優先して企画したことを強調している。

スタイリングもさることながら、なによりクルマにとって肝心かなめのシャシーがすばらしい。黙って座ればぴたっと当たる、ではないが、ドライバースシートに身を落ち着けて走り出すとすぐわかる。

C-HRのあたらしさは、トヨタ・ニューグローバル・アーキテクチャー(TGNA)なるクルマづくりのコンセプトにより、徹底的な作り込みがなされたというところだ。

「もっといいクルマづくりの実現に向けたクルマづくりの構造改革」というのがトヨタ自動車によるTNGAの定義だ。走りの楽しさという明確な目的を持ちつつ、運動性能を煮詰めていったという説明は乗れば納得できるのだ。

もうひとつのあたらしさは、冒頭のグローバルカーのところで触れたように、トルコでも生産され欧州でも販売されているところだ。

じっさいミラノでは春からC-HRのタクシーを見かけたし、ドイツ各所でもよく目にした。なににも似ていないスタイルのせいで目立つせいかもしれないが、もしクルマ好きがこのクルマを買ったらきっといい買い物をしたと納得しているのではないだろうか。

日本でのラインナップは大きくいってふたつ。1.2ℓ4気筒ガソリンエンジン搭載の「S-T」および「G-T」と、1.8ℓ4気筒ガソリンエンジンに電気モーターを組み合わせたハイブリッドの「S」と「G」だ。

駆動方式は前輪駆動と4WDで、ガソリンモデルは4WD、ハイブリッドモデルは前輪駆動となっている。どちらもよく走るのだ。

生きのよいクルマ

トヨタC-HRは見かけからすると、若々しさを強く感じるモデルだ。実際に走りは活き活きとしている。

クルマづくりにおいては低重心化を念頭におきながら、「レスポンス×リニアリティ×コンシステンシーの3つの特性を徹底して磨き上げた」とトヨタ自動車が用意した広報資料では謳われる。

ドイツのニュルブルクリンク24時間耐久レース(完走)をはじめ、あらゆる道を走り、運動性能とともに疲れを感じず安心して運転できるクルマを目指したのだそうだ。

じっさいに試乗会のときも開発担当者が「ほんとに疲れずまっすぐ走ることが出来るんです」と力説していたのが印象に残っている。

運転してかんじるのはステアリングホイールを切ったときの反応のよさ。車体のロールも適当で、ひとことでいうと気持ちがよい。

これは本当にどんどん作ってどんどん売る量産車なの? と確かめたくなるぐらい、ていねいに作られていると思わせるのだ。


乗り心地もしなやかで、快適性が高い。ボディは部材の選びや溶接方法などで軽量化が追究されているというが、ボディが適度に重いクルマのようなしっとりした乗り心地すら感じられる。

最近のトヨタ自動車の製品はボディ構造設計の見直しや、打点増しによる剛性アップに熱心なようだ。その成果がC-HRといえるだろう。

インテリアの造型は40代以上には若々しいと感じられるきらいがあるものの、ステアリングホイールを握っていると、クルマは楽しい乗り物だ、とあらゆる世代が思えるはずだ。

これはたいしたことなのだ。パワートレインでいうとハイブリッドがとてもよかった。

「経済的=ツマラナイ」は、過去のもの

トヨタC-HRにはさきに触れたように、ふたつのパワートレインが用意される。ひとつは1.8ℓエンジンを使ったハイブリッド、もうひとつは1.2ℓ4気筒ターボ。

ガソリンエンジンには7段の段付きCVT(無段変速機)が組み合わされている。段付きにしたのは加速していくときトルクがどんどん積み上がっていくような運転の楽しさを感じさせるためと説明される。

このギアボックスはメーカー名づけて「スーパーCVT-i」。最後の「i」はおそらくインテリジェンス(知性)の頭文字だろうか。

小排気量エンジンとターボチャージャーの組み合わせは時としてアンダーパワーか、もしくはドッカンターボになって特定の回転域でのトルク落ち込みという結果を招くことになりやすい。

欠点を克服するためC-HRでは、アクセルペダルの操作からドライバーが要求する駆動力を算出する仕組みを採り入れている。そして最適のトルクバンドを使えるように変速機を使って回転数を制御するというのだ。

クルマがドライバーの思いをなるべく読み取り、それを操縦システムに反映している。とりわけ“曲がる”の部分での違和感を排除するようにしているのが特徴的だ。

無段変速機のよさはエンジンの効率のよいところを使えるよう設定できる点にある。C-HRではそれに加えて、ドライバビリティの向上にも大いに役立てているということだ。

4WDシステムは前輪駆動をベースにしており、発進時や滑りやすい路面であることを感知すると後輪にトルクを配分する。コーナリング時は舵角や操舵速度からアンダーステアを抑えるようなトルク配分が行われるそうだ。

いっぽうでハイブリッドは、乗った印象からすると、よりこのクルマのキャラクターに合っているように感じられた。

システム合計で31.1kg-mもある最大トルクを持つ前輪駆動だが、終始一貫スムーズで、おどろくほどパワフルではないが、簡単にいうと気持ちのよい感覚なのだ。

電気モーターのみで走行できる範囲はごく限られているが、エンジンと電気モーターの強調制御はお手のものというかんじである。低い回転域でもモーターのトルクが上乗せされ、加速感が爽快。

メーカー発表の燃費はリッター30.2kmと驚くべきもので、これを現実生活での実用燃費に置き換えてもけっして悪い数値にはならないだろう(車載の燃費計から判断)。平均点が高い、とうのがハイブリッドモデルの印象だ。

ひとを守る もちろん自分も安全に

トヨタC-HRには「トヨタセイフティセンスP(パッケージ)」が標準で備わっている。ミリ波レーダーと単眼カメラを使ったシステムだ。

ひとつはプリクラッシュセーフティシステム。前方の車両や歩行者を検知し、衝突回避をうながすものだ。最終的にはブレーキングも自動で行われ衝突回避もしくは被害軽減をはかる。

レーンデパーチャーアラートは車線逸脱の可能性を伝えるとともに、ステアリングホイールの操作に車両が介入する。

オートマティックハイビームは夜間ハイビームで走行中、前方に車両や歩行者を発見した場合、自動的にロービームに切り替える。

レーダークルーズコントロールは全車速追従機能つきで、先行車が停止したばあい、自車両も停止。スタート時にドライバーがきっかけを与えることでシステムが再起動する。

死角を走るクルマの存在をつねに把握していてウィンカーを出して車線変更する際、その存在をドライバーに伝えるのがブラインドスポットモニターだ。

後退の際、左右から接近してくる車両があるとドライバーに注意を喚起するリアクロストラフィックアラートも実生活では役立つ安全装備といえる。

大きなボリュームをもつ前後のホイールアーチとそれとつながるようにデザインされた前後バンパー。それがボディの下半分とすると、そこにドアとキャビンからなる上半分を合体させたようなスタイリングが特徴だ。

メタリックな塗装の車体では車体側面のキャラクターラインによる陰影がくっきり浮かびあがり、一目見たら忘れないキャラクターが目に焼き付くほどである。

エアダムと一体化したバンパーとそこにつながるフロントフェンダーのせいで、フロント部分の存在感は大きい。リアになだらかに下降するルーフラインと小さめにまとめられた後席ドアのウィンドウがその印象をより強くしている。

あるていど年齢がいったおとなには刺激が強すぎる外観ともいえるが、このクルマは体験する価値がある。

価格は1.2ℓ4WD車が「S-T」(251万6400円)から、1.8ℓハイブリッド車が「S」(264万6000円)からというぐあいだ。

http://toyota.jp/c-hr/