「グーグルの「反多様性メモ」に、社内からも支持の声──「企業における多様性」の難しさが浮き彫りに」の写真・リンク付きの記事はこちら

グーグル内外で炎上の嵐を巻き起こし、いまやすっかり悪い評判がついた「反多様性メモ」。その著者にして、最近解雇された元グーグルのエンジニアであるジェームズ・ダモアは、同僚から支援され、かなり気楽な時間を過ごしていた。グーグル社内のメッセージフォーラムで交わされた会話のスクリーンショットによれば、ダモアが職を失うことになった10ページの「声明書」に、複数の社員が賛同していたのだという。

グーグルの社員がまず8月4日の夜にTwitterでつぶやき始め、そこから全文が(複数回にわたり)リークされたメモは、テクノロジーおよびエンジニアリングの業界で、男女平等を推進する動きに反対する自身の意見を「男女は多くの点で生物学的に異なる」という理由から根拠を挙げつつ説明しようとしていた。

ダモアは、「女性は生来的にエンジニアとして劣ることになる生物学的特質をもっている」と主張する。例えば、「(女性は)多くの神経症的な傾向を有している。Googlegeistの女性に関するレポートに表れているように、強い不安やストレスが大きい職業に就く女性の少なさは、この傾向の影響かもしれない」とダモアは書いている(Googlegeistとは社員の調査をもとにした同社の年間データのことだ)。

グーグルが彼を黙らせようとしたように、ダモアのメモは一部の保守派からの避けがたい非難を呼び起こした。それだけでなく、シリコンヴァレーにおける性の不公平さについて新たな焦点を浮き彫りにした。

社内フォーラムでの議論から浮かび上がったこと

しかし、『WIRED』US版が入手したグーグル社内フォーラムのスクリーンショットからは、ダモアが多くの同僚たちから支持されている様子がうかがえた。こうした見解が会社全体としてどれほど典型的なものなのかを知るのは難しいが、彼らはグーグルの多様性に関する取り組みに対して反発が起こるのは、見当違いな出来事ではないと説明している。

ダモアはさらに、人は本質的に女性を保護したいと思うもので、その結果男性にとって敵対的な環境をつくることにもなると主張した。「上述のように、これはおそらく男性が生物学的に使い捨ての存在であることや、女性が一般的に協力的で和を重んじることから進化したようです。女性を守らなければならないと考える政府とグーグルによって、わたしたちはプログラム、研究分野、法律上および社会的なノルマが広範にわたって課されています。一方、男性に影響する性差別の問題について男性が不平を述べると、その人には女嫌いや泣き言を言う人というレッテルが貼られてしまうのです」

しかし、グーグルのCEOであるサンダー・ピチャイの意見はダモアとは異なっている。「とある同僚のグループに、あなたは生物学上この仕事に適さない特質があると伝えるのは攻撃的な振る舞いであり、いいことではありません」と、ピチャイは社員向けの文書に記している。また、メモは部分的に「性に関する有害な固定観念を社内に広める」ことで、グーグルの行動規範に著しく違反していたとも述べた。

ところが、ダモアのメモとその思いがけない副産物を受けて社内で交わされた議論からは、彼の見解を受け入れて奨励しようとする社員たちの姿が見えた。ダモア自身も、元同僚がこうした重要な問題を取り上げてくれたことへの感謝を述べるため、個人的に連絡してきたことを明らかにしている。公然とダモアの意見に同調する者もいた。

グーグル社内向けメッセージフォーラムに投稿されたダモアのコメント。PHOTOGRAPH COURTESY OF WIRED US

ダモアが解雇されたあと、2017年8月7日の夜には、オルタナ右翼の荒らしである(そしてトランプ政権の顧問を務めている可能性もある)チャック・ジョンソンのWeSearchrというクラウドファンディングサイトに、ダモアのためのクラウドファンディングキャンペーンが早くも立てられた。しかも、ある社員がそのリンクを投稿するまでになっていた。

「わたし個人は、この状況を見てもまったく驚きません」と、元グーグルのソフトウェアエンジニアで、以前同社におけるセクシャルハラスメントについて意見を述べたケリー・エリスは話す。「こういう人たちは沈黙させられたとか、恐れているように装いたがりますが、そうではないのです」

ダモアの話は社内からの嘲笑も誘った。とある金曜日のことだ。「なぜ人種ではなく性別が論点なのか?」というタイトルがついたスレッドに、あるグーグル社員が「あの文書はたくさんの人々の価値を脅かしている。でも、その考えを回避できないほど必然的な結論につなげることができず、重要な場面を切り抜けることに失敗したと思う」と書き込んだ。

それから、ダモアの論拠が合理的でないことを強調する試みのなかで、その社員は「これを書いた人は、わたしたちがこの会社の人種構成についてもっと本質的な説明を考えることに、意欲的になるべきだと考えているのか?」と疑問を投げかけた。

しかし、ダモアはこの質問の皮肉な構造に気づかなかったようである。

なぜ人種ではなく性別に焦点をあてたのか疑問の声があがっている。PHOTOGRAPH COURTESY OF WIRED US

ダモアは人種に関する科学をすぐに退けるのではなく、「性別問題ほど人種問題について知らない」のだと返答した。彼は「それに女性と男性は、個体群レヴェルの特質の分布において生物学的な原因による違いをもつと何度も繰り返し示されてきたのだから、男女の性差が生じる背景で影響を及ぼしてきた一部の力(とその解決策)はずっと理解しやすいでしょう」と主張を続けた。

最終的に、ダモアは真意を理解し腹を立ててしまった。「君は餌をまいて、ぼくから失言を引き出そうとしてるんだな。君は以前も同じようなことをしていたと複数の人から聞いたよ。これは多分ぼくがいままで耳にした誰の行為よりも一番グーグルらしくないものだ。頼むからやめてくれ」

「頼むからやめてくれ」と静かな怒りを表明するダモア。PHOTOGRAPH COURTESY OF WIRED US

後ほど、ダモアはリバタリアン(自由至上主義者)のグーグル社員が集まっていると思われるグループに「自分自身のリバタリアニズムがたくさんの文書に影響を及ぼした」と書き込み、意見を求めている。

ダモアは自身がリバタリアンだと語る。PHOTOGRAPH COURTESY OF WIRED US

ある社員が、見たところ今回の投票を指して、以下のように返信を書いている。

go/pc-considered-harmful-poll[編註:事の発端となったメモに関する投票へのリンク]については、ほぼ賛同している。あれにはもっと引用が必要だと思ったね。それに、自分なら「マルクス主義」に関するものはすべて省いただろうな。あれがなくても多様性や心理学的な安全性について同じ主張ができたはずだよ。あれを加えたせいで文書が政治っぽくなってしまった。まあどっちにしたって反応は変わらなかったと思うけど。

分布の違いが固定観念からくるものではなく、しかも個々人には当てはめられないものだと理解していない人間が、どれだけいるのかが一番の懸念事項だ。単純な統計的論理だよ。違いの有無によらず、それが生物学的あるいは文化的なものであるなら、これは極めて論理的な誤りにすぎない。

たとえば男性の平均身長は女性の平均身長よりも高い。単純に女性の身長が5フィート9インチ(約175cm)より高くなるなんてあり得ないと仮定することまではないだろうが、より多くの男性が5フィート9インチよりも高くなることには期待できるだろう。

明らかにダモアの懸念に共感を示し、もうひとりの社員もあまり賛同しそうにない人々に訴えかけようとしていた。

2016年に行われた大統領選の影響について語るものもいる。PHOTOGRAPH COURTESY OF WIRED US

これは『WIRED』US版が手に入れた全画像のなかで唯一、2016年の大統領選挙と直接比較をしているものだった。「一歩離れてみよう」と、あるグーグル社員が書いている。「それから、このスレッドで、そして2016年の選挙シーズンの幕開けからグーグルのみんなを実際に動揺させているものをよく見てみよう」。彼はグーグルにおける明らかな考えの統一が、ダモアのような人々に「イデオロギー洗脳部屋に強制的に押し込められた」ような印象をどれほど与えたかを説明していた。

議論はグーグル社内のミームジェネレーター、Memegenでも展開されていた。『WIRED』US版が入手したかなりの数の画像からは、文書自体ではなく、非公開に設定されているグーグル社内の議論を社員がリークさせていた事実に、懸念を述べる者もいたことがわかっている。

メッセージがリークしていることを危ぶむものによって画像がつくられた。PHOTOGRAPH COURTESY OF WIRED US

ダモアの文書と、その社内フォーラムでの共有が適切だとした事実の両方に狼狽を示したミームも、わずかではあるがあった。しかし、それよりも大多数が、いまや解雇されてしまった元グーグル社員と団結する合図を送っているように見える。

解雇されたダモアを支持する人々は決して少なくないようだ。PHOTOGRAPH COURTESY OF WIRED US

繰り返すが、これはグーグル社内で現在交わされているさまざまな議論から、サンプルとして抽出された一部のシーンにすぎない。この企業のなかで、どの程度の社員がこれに当てはまるのかを決めるのは難しい。それでもかなりの割合の社員が、ダモアのメモに賛同の票を投じていたことを示すグーグル社員による調査もある。

これらを考慮すると、どうやら同社の多様性に関する取り組みを突き返すだけでなく、いまや自分たちの見解に勇気づけられているようにも見える、声高に意見を主張する社員の一団が存在するようだ。

RELATED

グーグルは「学歴不問で採用すべき」:Slackディレクター発言