お祝い事や、おめでたい席に欠かせない主食である「赤飯」。日本人にとって赤飯は、特別な日や行事に付きものの伝統食として親しまれています。しかし、そうした席で赤飯を食べる理由について知っている人は少数かもしれません。

 オトナンサー編集部では、日本の伝統食に詳しい料理研究家の麻生怜菜さんに聞きました。

原型の小豆粥は「枕草子」に登場

 現代の赤飯は、小豆の煮汁をもち米に吸収させて蒸すことで赤く色付けしたものです。「小豆には、良質なタンパク質やビタミンB類、鉄分、ポリフェノールのほか、中性脂肪増加抑制や血液サラサラ効果のあるサポニンが豊富に含まれています。赤飯は小豆の栄養素を余すところなく摂取できるヘルシーな伝統食です」(麻生さん)。

 赤飯のルーツは古く、平安時代中期の「枕草子」にその原型として小豆粥が登場します。また、鎌倉時代後期の宮中献立について記した「厨事類記」には、桃の節句(3月3日)、端午の節句(5月5日)、重陽の節句(9月9日)など、季節の節目の行事食として赤飯を食べたという記録が残っています。その後、江戸時代後期には、一般庶民の「ハレの日」の食卓に赤飯が登場するようになりました。

 それでは、赤飯がお祝い事などの席で食べられるようになったのはなぜでしょうか。

「日本では古代より『赤色』は災いや邪気をはらう力があると信じられており、『赤米』を蒸して神様にお供えする風習がありました。赤米が主流でなくなってからは、身近な小豆を使って白米に赤を付ける方法が採用され、厄よけや魔よけの意味を込めて、おめでたい席で振る舞われるようになったと考えられています」

 さらに、かつての日本は幼児の死亡率が極めて高かったため、生後7日目に赤ちゃんの健やかな成長を願ってお祝いする「お七夜」や、生後100日目に子どもが一生食べ物に困らないように願い、また歯が生えるほど成長したことを祝う「お食い初め」などの行事で、赤飯を食べる風習が根付いたそうです。

地域によっては「縁起直し」の意味も

 一方、地方によっては仏事の際に赤飯を食べる習わしもあります。「凶を返して福とする」という「縁起直し」の意味を込めて食べるそうです。現在でも、福井県や群馬県の一部地域では、お葬式に赤飯が振る舞われることも。「福井県には浄土真宗の信仰者が多く『長寿をまっとうした後に浄土へ行く』ことがお祝いにつながるため、赤飯を食べるという説があります」。

 ちなみに、赤飯の上に飾られていることの多い「南天の葉」は、「なんてん」=「難(なん)を転(てん)ずる」という語呂合わせから、縁起の良いものとして使われるようになりました。「南天の葉には防腐作用のある成分が含まれており、赤飯の熱と水分による腐敗を抑えてくれます。厄よけの意味合いや見た目の美しさだけでなく、とても理にかなった添え物なのです」。

(オトナンサー編集部)