ダルビッシュ有【写真:Getty Images】

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ダルビッシュはなぜトレード候補に? メジャー球団の駆け引きの裏側

 米大リーグのレンジャーズに所属するダルビッシュ有投手に関して7月末時点での移籍の可能性が持ち上がっている。

 日本ハムから2012年にメジャー入りした右腕は今年でレンジャーズとの6年契約が満了となり、シーズン終了時にフリーエージェント(FA)となる。当時はポスティングシステム(入札制度)を利用して移籍しており、落札額が約5170万ドル(現在のレートで約57億9000万円)と史上最高額に。反面、契約自体は6年総額5600万ドル(約62億7000万円)と抑えられており、新たな契約は年平均3000万ドル(約33億6000万円)に達するとの見方もある。そんな注目の右腕になぜシーズン途中の移籍が持ち上がっているのか。メジャーの名物ともいえる夏のトレードについて改めて見ていきたい。

 メジャーリーグではシーズン半ばに開催されるオールスターゲーム前後になるとトレードの話題が一気に盛り上がりを見せる。7月末の「ノン・ウェーバー・トレード・デッドライン」(トレード期限日)が近づくからだ。この時期には各球団の明暗が分かれ始めており、プレーオフ進出に大きく前進している球団、プレーオフ争いの瀬戸際に立たされている球団、絶望的となっている球団と状況は様々。この状況を踏まえ、球団は後半戦への戦略を練り直すことになる。

 端的に言えば、ワールドシリーズ(WS)制覇を狙える球団、プレーオフ進出を目指せる球団は買い手(バイヤー)に、プレーオフ進出争いから脱落した球団は売り手(セラー)に回り、ここで両者の間でトレードが生じる。30球団とチーム数が多いことも影響し、周囲があっと驚くような電撃トレードも起こるというわけだ。

昨季はヤンキースが「売り手」に、チャップマンはカブス移籍でWS制覇貢献

 買い手側となる球団は自分たちの弱点を補えるような選手や起爆剤となるような選手を物色。一方、売り手側は主力選手を放出する代わりに次年度以降のチームの立て直しのピースとなるような若手の有望株を狙う。ここで「トレード」が成立する。

 たとえば、昨季は低迷したヤンキースが売り手となり、クローザーのアロルディス・チャップマンをカブス、セットアッパーのアンドリュー・ミラーをインディアンス、強打者のカルロス・ベルトランをレンジャーズ、先発右腕のイバン・ノバをパイレーツにそれぞれトレードで放出。代わりに有望な若手を獲得し、チームの再建を進めた。一方、チャップマンを補強したカブスはこの剛腕守護神の活躍もあり、108年ぶりのワールドシリーズ制覇を達成。ちなみにチャップマンは直後、カブスをFAとなり、再びヤンキースと契約している。

 そのメジャー風物詩のトレードにおいて、今夏の目玉の一つとして注目されているのがダルビッシュだ。

 今季限りで契約が切れる右腕については当初、レンジャーズがシーズン中の大型契約を結び直す可能性も指摘されていたが、同球団は資金面で潤沢とはいえず、ここまで再契約に至っていない。一方、成績を見ると現在、49勝51敗でア・リーグ西地区3位。首位アストロズとゲーム差「18」も離されており、プレーオフに進出するためには地区2位以下で争うワイルドカード(上位2チームがプレーオフ進出)を狙うしかない状況だ。ワイルドカード圏内のロイヤルズとはゲーム差3.5。プレーオフを諦めないのであれば、ダルビッシュの放出はないだろうが、残る数日の成績でプレーオフがさらに遠のけば、右腕を放出して若手有望株を獲得するという可能性もゼロではないだろう。

論調が日々変化する報道、ダルビッシュを取り巻く状況は…

 その去就が注目されるダルビッシュについては、米国内でも日々、報道が変化している。

 レンジャーズはトレードしない、また、同球団のジョン・ダニエルズGM(ゼネラル・マネジャー)は“適正な条件”であればトレードに応じる、など、状況は一転二転。その裏にはレンジャーズの残りシーズンに対する戦略が大きく影響している。一方、興味を示す球団として挙がるのはアストロズやドジャース、カブスなどいずれもプレーオフを見据える球団で、ダルビッシュの補強でプレーオフ進出やその後の飛躍が見えるとなれば、獲得に力を入れるチームもあるだろう。

 このようなトレードには強化担当の考え方も影響するため、一筋縄ではいかない。たとえば、今回、ダルビッシュの獲得がささやかれるドジャースに関しては、米FOXスポーツのケン・ローゼンタール記者が無理には獲得しないだろうとの見方を示したが、その中でドジャースの強化担当が前球団のレイズ時代に若手を放出することに対して消極的だったことを挙げている。また、ダルビッシュを獲得してもオフには契約が切れてしまうため、その時点で再び争奪戦となることは必至。半年のレンタルの見返りに有望な若手を放出するとなれば、慎重になる球団もあるだろう。

 このメジャーのトレードの主役に日本人選手が挙がること自体はそうそうないことであり、それだけダルビッシュが評価されている証拠でもある。果たして8月以降、どの球団のユニフォームを着ているのか。今年8月で31歳を迎える右腕の動向に注目だ。