鹿島はMOMに輝いた安部(左)をはじめ、鈴木(右)、遠藤(中央)と交代出場の3人が攻撃を活性化した。写真:田中研治

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[Jリーグワールドチャレンジ2017]鹿島2-0セビージャ/7月22日/カシマ
 
 リーガ・エスパニョーラでは、いまやレアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリーの「3強」に次ぐ存在となっているセビージャと対戦した鹿島。Jリーグで首位を走るセレッソ大阪に3-1で快勝した強豪を、2-0で下している。
 
 試合後、大岩剛監督をはじめ何人かの選手が「レベルの差を感じた」と語ったように、セビージャにゲームを支配され続けた。しかし勝ったのは鹿島だ。では、なぜ劣勢を覆して白星を挙げることができたのか――。
 
 開幕前のセビージャとシーズン真っ只中の鹿島、というコンディションの差はもちろんあった。だが最大の要因は、前半の途中から鹿島が戦術を変更したことだ。
 
「前からボールを取りに行く」試合前日の会見で大岩監督はそう語っていたが、序盤から思うようにプレスが掛からない。インサイドハーフのエベル・バネガとガンソのキープ力が予想以上に優れていたため、ボールの取りどころを失っていたのだ。
 
 そう見るや、35分過ぎあたりから徐々に重心を下げて、リトリートからカウンターを狙う形にシフト。結果的にこれが功を奏した。中盤の三竿健斗が「前半で足が止まりそうだった」と打ち明けたように、敵のボール回しへの対応でかなりの運動量を強いられており、同じやり方を続けていれば、スペースを使われて多くの決定機を作られていただろう。
 
 もちろん、粘り強い守備も特筆に値する。象徴的なのが、13分にセビージャのMFギド・ピサーロがDFの裏へ絶妙のパスを送った場面だ。スピードのあるホアキン・コレアが抜け出そうとした瞬間、素早く守備に戻ってピンチの芽を摘んだのは左ウイングのレアンドロだった。「守るときは全員で我慢して守る」という鹿島らしさが如実に表われたシーンだった。
 
 7人のメンバーチェンジが可能だったこともあり、選手交代も勝負の分かれ目となった。ハーフタイムでバネガ、61分でガンソを下げたセビージャは中盤での支配力が一気に低下。キャプテンを務めた昌子源は、「ふたりがいないと、まるで違うチームのようだった」とコメントしている。
 一方の鹿島は、途中交代の安部裕葵と鈴木優磨の両FWが攻撃を活性化。安部の思い切りのいいドリブルが、鈴木の先制点を呼び込んだ。
 
 後半ロスタイムにダメ押し点を奪ったのも、交代出場のコンビだ。遠藤康の正確なCKにヘッドで合わせたのは、またしても鈴木だった。この場面でマークについていたボルハ・ラソ(ガンソに代わって出場)が、ほとんどゲームに入れていなかったとは対照的だ。
 
 昨年12月のクラブワールドカップでは、どちらかと言えば「勢い」で決勝まで駆け上がっていった鹿島。年間勝点3位から逆転でチャンピオンシップを制した流れに乗って、勝ち進んだ印象だった。
 
 だがこの試合で披露したのは、苦しい時間帯を耐え抜き、勝負どころでゴールを奪って勝利を手にするという、いわば鹿島らしい“したたかな”戦いぶりだ。公式戦ではないとはいえ、欧州の強豪を相手にそれが発揮できたところに、小さくない価値がある。
 
 試合後、昌子は「(クラブワールドカップ準決勝の)アトレティコ・ナシオナル戦で、前半に攻め込まれた経験が活きた」と語った。同様に、このセビージャ戦もクラブの財産になるはずだ。
 
 連覇を狙う鹿島にとって、腕試し以上の「収穫」を得た一戦になったのは間違いない。
 
取材・文:江國森(ワールドサッカーダイジェスト編集部)