大須商店街の南端、「大須交差点」の北西角に位置する焼鳥店「角屋」

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大須通の「大須交差点」の角にある焼鳥店、その名も角屋。営業中には活気あるやり取りが店外に漏れ聞こえ、煙に乗せて焼鳥のおいしそうな香りを漂わせる。交差点を通りがかる人々を誘惑し続ける老舗の1つだ。

【写真を見る】たっぷりのタレで味付けされた手羽先(330円)。鶏肉がホロホロと崩れて食べやすい、絶妙な焼き加減だ

■ 「継がなきゃもったいない」と言われて

交差点に面した焼き場で熱心に調理する3代目店主の間瀬崇文さんは「正直なところ、昔は店を継ぐつもりがほとんどなかったんです」と話す。大学卒業後、崇文さんは製造業に就職したが、彼の実家が角屋であることを知る会社の人や友人から「継がなきゃもったいない」などと言われていたそうだ。「うれしいのと同時に、照れくさい話です」と笑いつつ「心の底では、いずれ継ぐことになるかもしれないなと思っていました。それで、どうせ継ぐなら早いほうがいいと思って」と続ける。先代である父が元気なうちに教わっておきたいと、崇文さんが修業のような形で店に入ったのは2009(平成21)年のことだ。

崇文さんが修業を重ね、やがて焼き場を任されるようになり、3代目店主となったのが2016(平成28)年の夏。それを機に先代である政之さんは一線を退くことになったが、今でも週に1日は店で働いている。現在の角屋は、崇文さん夫婦と、先代である政之さん夫婦、そして初代のころから店を手伝っている福田栄吉さんの5人で切り盛りしている。

■ 代替わりしても変わらない味

角屋のメニューは焼鳥の定番がそろっている。今回まず注目したのは「ネギマ」。味付けに使われる秘伝のタレは醤油味が強めな印象で、鶏肉との相性はもちろん、長ネギとの相性もすこぶるいい。

名古屋名物の1つ「手羽先」も人気メニュー。蒸してから備長炭で焼き上げ、味付けはやはり秘伝のタレ。口にすれば最初は醤油が強めに感じられるものの、すぐに濃厚な鶏肉の旨味が続いてくる。ファーストインパクトこそ強めだが、飲み込むころには不思議と口中がさっぱりしている。

豚ホルモンの串焼き「とん」も人気だ。崇文さんが丁寧に焼き上げるメニューの数々は、その多くが秘伝のタレで味付けされる。初代から変わらず継ぎ足しされるタレの中身は、当然のように秘密。なお、店内のメニュー表にクリップで白札が付けられたら、その品は売り切れの目印だ。

■ 昔ながらのスタイルで今後も続けていく

店の端に焼き場があり、北側に長く伸びた店内。1949(昭和24)年の創業当時は焼き場周辺だけが角屋だった。そこから徐々に拡張し、現在の広さになったのが25年ほど前のこと。活気あふれる店内ではオーダーの声が焼き場に伝わりにくいため、接客の担当者は拡声器を使って声を届ける。店の外にまで声が聞こえてくる理由の1つはこれだ。

また、伝票はその都度付けず、注文に応じたおはじきのようなものをカウンターに重ねていき、料理はすべて串が残る。会計の時にはそれらを数えて計算する。回転寿司の皿のように、食べれば食べるほど串とおはじきは増えていく格好だ。

空調は稼働しているものの、出入り口が多く密閉されていないため、たくさんの扇風機が客に向けられる。それでも暑いと感じる客には、店内に置かれたうちわを差し出す。昭和の焼鳥店そのままの風情を残している現状を、3代目店主は「変えるつもりはまったくないです」と話す。多くの客に愛されてきた店を、そのまま残し続けることこそが使命であるかのような眼差しだ。

先代の政之さんは、崇文さんが角屋を継ぐことになった時、「遊ぶ時間ができるなと思った」と笑う。最近はゴルフを始め、楽しい隠居生活を過ごしているそうだ。ただし土曜は政之さんの妻・紀代美さんが店を休むため、その代わりに店を手伝う。そして、誰よりも角屋で長く働き続けている福田さんは「時代の流れを感じるねえ」とニコニコしつつ、今日も元気に店で働いている。焼き場で煙に包まれて汗を流す3代目・崇文さんを中心に、3世代が活躍する角屋は、これまでと変わらず多くの客を幸せな気分にしていくだろう。【東海ウォーカー/加藤山往】