樟南高等学校(鹿児島)緊張感と集中力 〜「樟南らしさ」とは何か〜

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「バッテリーを中心とした守りの野球」「バント野球」「緻密な野球」…樟南の野球には明確な「カラー」がある。長年、鹿児島の高校野球の取材をしていて「樟南らしい勝ち方だった」「樟南らしさが発揮できなかった」などの表現をこれまで度々使っていた。県内には鹿児島実、神村学園など全国クラスの強豪校があり、それぞれのチームにカラーや特徴はあるが「らしさ」を強調して表現した記憶があまりない。

 「樟南らしさ」を顕著に象徴する試合が2016年夏、鹿児島実との決勝戦だろう。県内最強の鉾=攻撃力を持つ鹿児島実、最強の盾=守備力を持つ樟南、「鉾盾の争い」は、樟南の「盾」が鹿児島実の「鉾」を機能させず、史上初となる延長15回引き分け、再試合による決勝戦を制して県内最多となる19回目の夏の甲子園を手にした。

 あれから1年、現チームは樟南らしさを存分に発揮できず、もがき苦しんできた。それでも春、NHK旗と4強入りし、第4シードとして夏の連覇、20回目の甲子園出場を目指す。樟南らしさとは何か、あらためて考えてみたくて17年夏開幕を直前に控えた今、樟南のグラウンドに足を運んだ。

バッテリーで苦しむ

田中 李毅耶(樟南)

「うちの野球はバッテリーを中心にした守備が基本ですが、そこがしっかりできなくて苦しんだ1年でした」

 開口一番に山之口和也監督が「バッテリーを中心とした守備」発したように樟南野球の基本には、まず「バッテリー」があり、今年はそこをきちんと確立させるための試行錯誤が続いた1年だった。

 16年夏には浜屋 将太(三菱日立)、畠中 優大(中央大)という完投能力のある左腕2人に、前川 大成主将(駒沢大)というリーダーシップ能力の優れた主将がいた。彼らは1年秋からエースバッテリーであり、丸2年間チームをけん引した「経験」があった。右腕・田中 李毅耶(3年)、捕手・松本 連(3年)、新チームのエースバッテリー候補の2人は2年夏の甲子園でベンチ入りはしたが、経験不足は否めなかった。

 それでも、甲子園から帰って1週間あまりで迎えた鹿児島市内大会では準優勝して秋の県大会のシード権をとった。新チームのスタートは他校より約1カ月遅れ、練習も試合経験も絶対的に不足した状態で迎えるのは、夏の甲子園に出たどのチームも抱える宿命だが「甲子園で最良のものを見てきたという経験と、今度は自分たちがやらなければならないという緊張感」(山之口監督)を持って大会に臨めたことが功を奏した。

 だが、秋の県大会では3回戦でれいめいに逆転負けを喫する。互いにミスの多い試合だったが、決勝点はバッテリーの暴投で入るという、まさしく樟南らしくない敗戦だった。「バッテリーの経験不足が出てしまった」(山之口監督)

 再起を期して冬場のトレーニングに入ったが、12月に田中が気胸を患い2カ月間トレーニングができなかった。2月にようやく練習再開できたが再発。左腕・谷口佑歩(3年)を急きょエースに抜擢し、臨んだのが春の大会だった。

 谷口の成長もあり、秋4強の武岡台、好投手・石川槙貴(3年)を擁する鹿児島城西に競り勝ち、春は4強入り。NHK旗でも4強入りしたが、準決勝では優勝した神村学園を相手に1対12で7回コールド負けの大敗を喫した。2大会連続4強入りは普通のチームなら立派な成績だが、甲子園を宿命づけられた樟南からすれば「九州大会や県大会決勝といった舞台を経験できなかった」(山之口監督)もの足りない成績ということになる。

 NHK旗まではエース番号をつけていた谷口も、ここへきて制球難から試合を作れないことが続いた。夏は現時点で一番調子が良い2年生左腕・松本晴がエース番号をつける。これを兄である連がリードし、右上手の田中、右横手の中原輝竜(3年)、左上手の宮下尚哉(2年)、谷口、いずれかの継投が夏の投手起用の柱となる。樟南野球の文字通り原動力となるバッテリーが「投げさせてみないと分からない」(山之口監督)状態で迎える夏となる。

 昨年もレギュラーだったセカンドの折尾 昂靖主将(3年)は「昨年は2人とも完投ができ、三振もとれる投手だったので守りやすかったけど、今年は何が起こるか分からないことを常に意識しながら守っている」という。バッテリーもさることながらセカンド以外のショート、センターなどのセンターラインも固定しきれなかった。当然打順も流動的で、これというかたちを春やNHK旗では明確に示せなかった。

緊張感と集中力

折尾 昂靖主将(樟南)

 不安材料ばかりを挙げざるを得ない状況だが「当然、その分伸びしろを期待していますよ」と山之口監督は言う。投げさせてみないと分からないが、松本晴は変化球のキレがあり、田中は直球の最速が140キロ台になり球威が戻ってきた。2年生・宮下尚は気持ちが強く小気味よい投球ができる。

 この1年間は、春準決勝の鹿児島実戦など継投の直後に自滅するパターンが目立った。「自信のなさ」を山之口監督は要因に挙げる。どんな結果になっても最終的な責任は起用した監督にある。選手は開き直って思い切り自信を持って自分の持ち味を貫く。そんな投手が出てくるかどうか、夏を勝ち抜くひとつのカギになりそうだ。

 流動的だった打順も1番に宮下 賢(3年)、2番・石澤凛太郎(2年)、もしくは新屋太希(3年)と足のある左打者でかき回すかたちがみえてきた。3番・折尾、4番・松下航太(2年)、5番・川琢幹(2年)と中軸には経験豊富で頼れる主将と2年生2人が座る。山之口監督は「長打を打てる選手はいないので、つなぎをどれだけしっかりできるか」をポイントに挙げる。バントやエンドラン、盗塁、走塁など状況に応じて与えられるそれぞれの役割を的確に理解し、確実に実行する力が選手たちに求められる。

 取材に訪れた6月27日は雨でグラウンドでの練習ができなかった。練習は室内練習場での打撃練習、校舎を使って雑巾ダッシュ、階段上り下り、寮でのウエートトレーニングがメーンだった。

 打撃練習では松本晴、田中、宮下尚、谷口の主戦投手がマウンドで投げ、ベンチ入り候補のメンバーが打つ。ストライクのボールをバントと打撃、1回ずつを交代で繰り返す。ストライク、ボールをまずはしっかり見極め、1球で仕留める。実戦で最も大事な「緊張感と集中力」(山之口監督)を磨く練習でもある。

 樟南野球には「バント野球」のイメージがあるが、OBでもある山之口監督も、元千葉ロッテでプロだった青野毅コーチも「特別バントの練習だけをやったことはない」という。バントは打撃練習で打つ前に1、2球やるぐらいだが、これに「どれだけ実戦と同じ緊張感と集中力を持ってやれるか」(山之口監督)を樟南の選手たちは大事にしてきた。

自主性と確固たる個の強さ樟南高校ナイン

 そもそも樟南は全国クラスの強豪校にしては長く練習をするチームではない。平日の全体練習は午後4時から7時頃まで。大会前に8時頃まで延びるぐらいで夜遅くまで全体練習が続くことは基本的にない。それでも樟南が強いのは「個人練習を自分たちでやっていましたから」と青野コーチは胸を張る。

 青野コーチが2年生だった1999年に上野弘文(元広島)、鶴岡慎也(ソフトバンク)のバッテリーを擁して夏4強、3年生だった2000年は青野コーチがエース、4番、主将で夏8強入りを果たし、03年まで夏5連覇と県内で圧倒的な強さを誇った時代だった。

「全体練習の時間は今よりも短かったぐらい」と青野コーチは振り返る。一方で「朝5時に起きて、しこたま打ち込みとかやっていました」と言う。当時の枦山智博監督や山之口コーチから強制されたのではなく、自分たちで率先して取り組んだ。94年夏準優勝した福岡真一郎―田村恵のバッテリー、上野、鶴岡、青野、前田 大和(阪神)…5連覇時代やその前後の樟南を思い返すと、個性が強く、職人気質で、確固たる自分を持っていた選手たちの顔が思い浮かぶ。

「やらされる練習じゃダメなんです。最後は自分、やるのは自分ですから」と山之口監督は自主性の大切さを強調する。「バッテリーを中心とした守りの野球」という空手でいうところの「形」は大事にしなければならない。だが、それだけでは「試合に負けない」だけで「勝つ」ためには、そこからのプラスアルファが必要になってくる。

 今年は昨年に比べればバッテリーの計算ができない。「その分、臨機応変に点を取っていくような野球もやる必要があると思います。2年生の力も頼らざるを得ない状況なので彼らが力を出しやすい環境を3年生が作っていきたいです」と折尾主将。夏の初戦は加治木、3回戦以降も尚志館、鹿児島工、伊集院など、気を抜けば足元をすくわれかねない相手が序盤から待ち構えている。

 先制し、リードを守る型通りの展開に持っていけない試合もあるだろう。そんなときこそ、緊張感と集中力、自主性と確固たる個の強さを持って野球をする。そんな野球ができたとき、樟南の2連覇と20回目の夏の甲子園への道が開ける。

(取材・文=政 純一郎)

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