『うんこかん字ドリル』のどこが学習革命だったのか

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『うんこかん字ドリル』(公式)がすごい。
「日本一楽しい漢字ドリル」というキャッチコピーがついている小学生向けの漢字ドリルだ。


小学1年生から小学6年生用まで6冊が3月に出版されて、約1カ月ちょっとで100万部を超えるヒット。
いま260万部だとか。

最大の特徴は、全例文に「うんこ」の3文字が必ず入っていること。
小学校6年間で学ぶ漢字は合計1006文字で、1つの漢字に3つの例文がついているので、3018のうんこ例文だ。

たとえば、こんな例文がある。

小学1年生用のドリルの例文。
きりつ! れい! うんこ!【立】
だん子は 一日中 うんこの 話を して います。【男】

小学3年生用のドリルの例文。
うんこ物語だい一章「うんこの勇者たち」。【第】
あの「うんこぶりぶり事けん」が起きたのは、しょう和二十八年のことだ。【昭】

小学6年生用のドリルの例文。
うんことは、内ぞうが作った芸術品である。【臓】
うんこが登場すると、コンサートは一気にもり上がった。【盛】

『うんこかん字ドリル』の凄いところを3つあげよう。

■根源的なところを攻めてきた
1つは、ベタなところを攻めてきた。
こどもは「うんこ」で大笑いする。その根源的なところ、ベタなところを攻めてきた。
これは、いままであまりなかったアプローチ。
高校生向けとか大人向けの学習参考書だと、エロで覚えるってのはあった。
最近出た本では『エロ語呂日本史年号』とか。
本能寺の変を、「イチゴパンツ(1582)見て本能ジンジン変な気分」と強引なエロネタで覚えるという奇書だ。
だけど、小学生向けの無邪気でダイレクトなシモネタに訴えかける学習書は、いままでほとんどなかった。

学習指導の本を読んでいると、「長時間じゃなくてもいいので毎日20分漢字の勉強をしましょう」なんて書いてある。
だが、小学生は漢字の練習を、毎日20分もやってくれない。
毎日やらせるだけでも大変だ。

もちろん、いままでもいろいろな先生が漢字学習や反復学習についていろいろなアイデアを出している。
深谷圭助先生の辞書に付箋をはりつける、という方法。
調べたページに付箋をつける。
付箋を貼るのが楽しくて、しかも誇らしく思うようになって、どんどん引く回数が増える。
こどもたちは、付箋でパンパンにふくらんだ辞書を嬉しそうに使う。

岸本裕史先生や、陰山英男先生は、徹底反復する学習法を楽しくやる方法を提唱している。
2003年「百マス計算」はブームになった。

そういった方法はあったのだけど、「うんこ」を使って子供の興味をひきつけるという反則に近い、でもだからこそ根源的で強烈な方法はすごい。

■漢字ドリルとしてちゃんとしている
2つめは、漢字ドリルとしてちゃんとしていること。
「うんこおもしろいでしょう」ってだけじゃない。
新学習指導要領に対応している。
さらに、漢字と、例文、書き順、とめはね、音読み訓読み、その漢字を使った言葉も書いてある。
しかもそれらがコンパクトにまとまっていて、漢字ドリルとして、しっかり使いやすいものになってる。

■世界観と例文の改革
3つめは、漢字ドリルの例文を改革した。
キャラクターを使った漢字ドリルは、今までにも、いろいろ出てる。
人気のアニメキャラとか、かわいいクマのキャラとか、女の子向けのキラキラした飾りがついたものとか。
だが、残念なことに、例文はその世界観に沿っていない。
かわいいクマのキャラクターが表紙で、途中にイラストも入って、かわいいーってなるのだけど、例文はそうじゃないのだ。
たとえば、かわいいクマのキャラクターがついている漢字ドリルの例文。
【呼吸】器の病気
【乳製品】のアレルギー
【腹】の調子が悪い
って、例文が、じじくさい。
クマのキャラクターの世界観と、漢字の学習部分は、関連していない。
せめて、「森のなかで深呼吸した」とかにしてほしいのに、「呼吸器の病気」である。
これでは、小学生はなかなかノレないだろう。
いままでの漢字ドリルは、キャラクターがただの飾りで終わってるものが多かった。
ここに切り込んできて、勉強の主要部分である例文までちゃんとうんこで世界観を統一してきた。

こまかい工夫も随所にある。
たとえば、シリーズになっている例文がある。
小学3年生の「うんこかん字ドリル」。

うんこもの語第二章「ダークドラゴンのうんこ」。【物】
うんこ物語だい一章「うんこの勇者たち」。【第】
うんこ物語 第八章「うんこ一ぞくとの戦い」。【族】
うんこ物語 最終しょう「伝説のうんこたち」。【章】

想像力を刺激する構成になってる。
小学6年生の最後は、ちょっと泣ける展開にもなっているのだ。

ドリルなどの定番の書籍は、なかなか改革が起きにくい。
毎年、一定数ちゃんと売れるので、何か新しいことをやってコケるのも怖い。
だから、ついついルーチンになってしまう。
『うんこかん字ドリル』がベストセラーになったおかげで、ここからドリルが変わってくるかもしれない。
なんでもかんでも「うんこ」になっちゃうと困るけれど、小学生が勉強したくなるような例文を使ったいろいろな世界観のドリルが出てくるのではないか。
美しい文章だったり、声に出したい文章だったり、「うんこ」ではなく、もっと大喜利的にも面白い例文だったり、と、いろいろなものが考えられる。
ファンタジー世界の冒険を例文にした漢字ドリル『ドラゴン漢字ドリル』とか、作ってみたいなーなんて妄想する。

世界にはまだいろいろな改革を起こせる余地があるのだっていう意味でも、『うんこかん字ドリル』すごいと思います。
(米光一成)