カールカレー味
スナック菓子「カール」がまもなく東日本から姿を消す。背景にはポテチ市場の拡大と、コーン系菓子の苦戦がある。だが、そのなかでも「うまい棒」は10年で約1.5倍に成長中だ。うまい棒にあって、カールにない、「最強の味」とは――。

■売上高は全盛期の3分の1に

スナック菓子「カール」がまもなく東日本から姿を消す。5月25日、明治は2017年8月の生産分をもって「カールチーズあじ」「カールうすあじ」の中部地域以東での販売終了を発表した。同時に、「カールカレーあじ」「大人の贅沢カール」「小つぶカール」は全国で販売終了となる。販売終了の理由について、明治は「市場環境や顧客ニーズの変化に伴う競争優位性の低下、長期的な販売規模の低迷による収益性の悪化」と説明している。

カールの発売開始は1968年。ノンフライ生地のサクサクとした軽い食感と、濃厚なチーズ味が人気を呼んだ。最盛期の1990年代には年間190億円程度を売り上げていたが、この数年は3分の1となる60億円程度にまで落ち込んでいた。

明治は最後までカールを続けようとしていた。プレスリリースには「長期にわたりお客さまにご愛顧いただいた商品であり、当社を代表する歴史ある商品でもあることから、3年ほど前よりブランド存続の可能性を広く模索してまいりました」と販売終了の悔しさがつづられている。実際、15年には味わいのリニューアルを行っている。チーズあじでは、使うチーズの種類を5種類から6種類に増やして風味を強化。カレーあじでは16種類のスパイスを11種類に減らすことでスパイスの辛味を抑え、あっさりとした味わいに変えていた。しかし、こうした努力もむなしく、今回の決定に至った。

■カレー味はカールだけだった

「カール東日本撤退」は大きな話題になった。駆け込み需要が生まれ、スーパーなどでは現在も品薄が続いている。あらためてカールが「国民的スナック菓子」だったことに気づかされる。競合会社もショックを隠しきれないようだ。ある菓子メーカーの担当者は匿名を条件にこう話す。

「ライバル菓子とはいえ、『カールカレーあじ』が大好きだったんです。カレーは国民的人気メニューのはずなのですが、実は『カレー味のスナック菓子』は少なく、メジャーな商品はカールだけなんです。日本のスナック菓子業界において、『カールカレーあじ』は重要な存在だっただけに、本当に残念です」

これだけ大きな存在だったカールは、なぜ販売終了に追い込まれたのか。要因のひとつは「ポテトチップス人気の高まり」だ。スナック菓子市場では、出荷額ベースで約6割をポテトチップスが占めるようになっていて、それ以外の商品は苦戦している。

もうひとつの要因として指摘されているのが、製造コストだ。ポテトチップスの場合、原材料のじゃがいもをスライスする工程がどのメーカーも同じであるため、設備投資のコストをおさえられる。一方で、カールのようなコーン系は専用の機械が必要で、製造原価が上がりやすいのだという。

カールのような古参ブランドが販売終了になるのだから、ほかの「コーン系スナック菓子」も安心できない。筆者は仕事の合間に、よくスナック菓子のお世話になる。親しんだ味が食べられなくなっては、仕事に支障をきたす。カールの次に危ないスナック菓子を調べる必要がある。

■カールがないなら、うまい棒

カールに似た味……。そう考えて、やおきんの「うまい棒」が思い浮かんだ。うまい棒は、カールと同じく、とうもろこしを原材料とするコーン系スナック菓子だ。「エクストルーダー」という機械を使い、とうもろこしを粒子状につぶし、熱と圧力をかけて成形していく。一連の騒動では、「『カールチーズあじ』がなくなったら、『うまい棒チーズ味』を食べればいい」という声も聞かれた。だが、もしうまい棒までなくなったら、どうしようもない。

やおきんに問い合わせたところ、「おかげさまでうまい棒は出荷本数が伸びつづけています。2006年は年間4億2000万本でしたが、現在は年間6億本に増えています」という心強い回答を得た。

うまい棒の価格は1本10円(税抜き)。1979年の販売開始から価格を維持している。近年、原材料の価格高騰などを理由に、重量を減らしたり、値上げに踏みきったりする商品は少なくない。だが、うまい棒は重さを減らさずに価格を維持しているという。

うまい棒の今の重さは、とんかつソース味をのぞいて、すべて6g。これは、販売開始以来2番目の重さです。1980年代半ばにうまい棒市場が急成長した際、お客さまにどのように還元するか考えた結果、うまい棒1本あたりの重さを少し増やしたことがありました。2008年頃にそこから1g減らして6gとなっていますが、今後もできる限り、この重量、この価格で販売を続けていきたいと考えております」(やおきん広報)

■個包装だから手も汚れない

カールとうまい棒、なにが生死をわけたのか。その理由について、やおきんの広報は「個包装が影響しているかもしれない」と話す。

「1本ずつ包装されていることが、さまざまな利点を生んでいます。まずは、一人でも食べきれるちょうどいい量であること。次に、湿気に強く、日持ちすること。また、形状が筒型で輸送しやすい。これらが長く販売できている理由かと思います」(やおきん広報)。

個包装であれば、食べるときに手は汚れない。好きなときに、好きなように食べることができる。明治は需要の変化に対応するため、カールの内容量を少しずつ減らしてきた。発売当初は100gあったが、現在の「カールチーズあじ」は64g、さらに新商品の「大人の贅沢カール」は50gとしている。「小分け需要」に対応するものだが、自由度では個包装にはかなわない。

さらに袋菓子は、コンビニなどからすれば「かさばるのに安い」というデメリットがある。「カールチーズあじ」の内容量は、うまい棒の11本弱に相当する。カールの売価は税抜きで79円(西友ネットスーパー)。うまい棒なら110円になる。またカールはパフを潰さないように空気を封入している。このためうまい棒11本よりかさばる。棚の小さいコンビニでは、かさばる商品は嫌われる。このためカールは主要コンビニで扱われなくなっていった。

もう一つ、うまい棒にあって、カールにないものがある。コーンポタージュ味だ。

「現在、うまい棒で人気1位のフレーバーはコーンポタージュ味です。1992年の販売開始以来、ほぼずっと1位の座を守り続けています。うまい棒の発売開始は1979年ですが、コーンポタージュ味の登場により、うまい棒は認知度、売り上げ共に上昇し、不動の人気を得ました」(やおきん広報)

■「ほぼずっと1位」のコンポタ味

現在発売中のうまい棒の定番品は15種類。そこで「ほぼずっと1位」というのは、圧倒的な存在だ。なぜ、コーンポタージュ味はそこまで人気なのか。

「コーンパフの生地原料はとうもろこしです。だからコーンポタージュ味とはよく合うと思います。また、コーンポタージュの甘みがあって、かつ、ちょっと濃いめの味わいが後を引きます。こうした点からお客さまの人気を得たのではないでしょうか」(やおきん広報)

実はカールも、2006年にコーンポタージュ味を発売している。2012年までは限定商品などでラインナップに入ることもあった。しかし定番商品にはならなかった。

明治の決断の背景はわからないが、コーンポタージュ味には、強力な先行商品があった。リスカが製造・販売する「コーンポタージュ」という袋菓子だ。やおきんは工場を持っておらず、商品の製造は他社に委託している。その委託先のひとつがリスカだ。リスカはうまい棒の製造元であり、その人気1位のコーンポタージュ味を袋菓子としても販売していることになる。うまい棒の「最強の味」という看板は伊達ではない、ということだろうか。

明治は9月以降、これまで全国5工場で行ってきた生産を、愛媛県内の1工場のみに縮小する。このため販売は配送可能な西日本に限定する。騒動は続いているが、「東日本での販売終了の方針は変わらない」(明治広報)という。関東の人は「関西土産」にするしかなさそうだ。

(ライター 吉田 彩乃)