あの頃の上戸彩が好きだったひとも「昼顔」を観てほしい。「金八先生」「あずみ」から何も変ってなかった

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「いい、いい、いい、すごいいい」
これは、2014年に放送されたテレビドラマ「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」第5話の主人公・紗和(上戸彩)の台詞ですが(エッチな台詞かと思わせて、そうじゃないことは、ドラマをごらんになった方はご存知ですね)、あれから3年の時を経て、映画化された「昼顔」も 「いい、いい、いい、すごいいい」でした。(ドラマ「昼顔」全話レビュー


ドラマラストから3年


映画について書く前に、少しだけドラマ版を振り返っておきましょう。

人妻・紗和は、夫(鈴木浩介)に女性として扱ってもらえなくなっていたところ、生物の先生・北野(斎藤工)と出会い、ひかれ合います。でも、北野も紗和と同じく結婚している身でした。いけないとわかっていながらいっそう引き合っていくふたり。やがて、夫や北野の妻・乃里子(伊藤歩)にバレて泥沼化、結局、ふたりは別れます。

映画は、それから3年。何もかも失った紗和が、ひっそり、海のそばで暮らしていたところ、偶然、北野と再会。焼けぼっくいに火がつき、会うようになります。
ところが、それが乃里子にバレてしまい・・・。

北野とのドキドキの再会。法律上、2度と会ってはいけないことになっているにもかかわらず、わくわくの密会からの、またしても周囲を巻き込むハラハラな展開……と観客の心を掴んで離しません。
 
井上由美子の脚本はドラマと同じく、モチーフを巧みに使いながら、シンプルなストーリー(男女の道ならぬ恋の顛末)を豊かに彩ります。監督の西谷弘は、ドラマ以上に美しい詩情あふれる画を撮っています。夏の海と森というロケーションが利いていて、そこで過ごす愛し合うふたりの姿は実に眼福です。とりわけ森でホタル探しするところと、海岸沿いを自転車2人乗りするところが、多幸感に満ちています。

長らく抑えに抑えていた分、思いは激しく燃え上がります。でも、いいことばかり続くわけもなく・・・。ドラマであれだけ厳しかった乃里子をはじめ、映画で初登場の新たな人物たちも、紗和に何かと絡んできます。なんといっても、紗和が、北野以外の男・杉崎(平山浩行)ともいい感じになって、紗和って浮気体質なんじゃないかっていう疑惑が沸いてきます。いますよね、安定の幸せが苦手で、ちょっと危ういほうを好む人。
紗和と北野は、今度こそ結ばれるのかどうか。ぜひ、映画を観ていただきたいと思います。
 

女性性を強調しないで


さて、「昼顔」で「いい、いい、いい、すごいいい」だったのは、上戸彩です。
現在31歳。結婚して、母親にもなって、すっかり大人の女になりました。
彼女が女優デビューしたのは2000年。翌年、テレビドラマ「3年B組金八先生」第6シリーズで、姿は女性だけれど心は男性という性同一性障害に悩む難しい役(鶴本直)に挑み、注目されました。
少年の心をもった役を上戸彩はとても凛と演じていました。その役が鮮烈だったからか、以後も、上戸彩はショートカットで、あまり女の子、女の子した感じではない方向性で売っていました。戦国時代、女を捨て、仲間を捨て、任務を全うするために生きる孤高の刺客を演じた『あずみ』シリーズ(03、05年)や、テニスにすべてを注ぐ『エースをねらえ!』(04年)などです。

どれも、女性性を強調しないで、手足の華奢さのほうに視線が向くように気を使っていたんじゃないかという気がします。それが成功したわけですが、2010年の月9「流れ星」で、風俗店で働き生計を立てている役に挑んだあたりから徐々にイメージを変え始め、実を結んだのが14年の「昼顔」でした。

映画の「昼顔」で、肩まで伸びたゆるふわ巻の髪に、テロンとしたキャミワンピ(ミニ)にロングカーディガンにつっかけでマンションの外に出てくる上戸彩は、完全にできあがった女・感を出しています。少女期の上戸彩ファンとしては、寂しい気もするのですが、映画をずっと観ていくと、上戸彩、ちっとも昔と変わってないんです。

なぜなら、夏服からむき出す手足、鎖骨から下はいっさい見せない、その露出の方向性は、昔と同じなのです。
結局、昔から、上戸彩は、手足をむき出しただけで、強烈な色気を放っていたのだということに気づくのです。

「あずみ」にも負けない


その最たる作品が「あずみ2」でした。
上戸彩は手足をむき出して、山中、剣を振り回しながら飛んだり跳ねたり駆け回ります。そのときの白い大腿部が、黒澤明監督の「隠し砦の三悪人」(58年)の雪姫に次ぐくらい素敵なのです。「昼顔」もそのときの感動を彷彿とさせます。かつて、敵やテニスを相手に全力でぶつかっていった上戸彩が、細い手足をむき出して北野先生に全力で愛を注いでいます。
ああ、困難にぶつかったときの上戸彩が細いカラダで闘い抜く姿が好きだった。そして「昼顔」も、そんな上戸彩に溢れた映画です。西谷監督が、映画のプレスシートで、エロスを「生きる欲望」と言っているのですが、まさに彼女の「生」の強さは、映画のなかでどんどんどんどん力を増していきます。監督の演出力でもあるのでしょうけれど、とにかく凄い。「あずみ」で斬って斬って斬りまくってた時に、勝るとも劣りません。
 
そういえば、ドラマの最終回、北野を待つ紗和が、寂しさを紛らわすために、コンビニの袋に北野の似顔絵を描き、ポットにかぶせて、さらにはポロシャツを下に敷いていて。のちに、夫たちに乗り込まれ、北野から引き裂かれていくときに、そのコンビニ袋の似顔絵をもっていく激情の場面が、狂気すれすれのいいシーンでしたが、それも、上戸彩の強烈なエネルギーによって成立していたのです。

美浜町の謎


映画はかなりシリアスで、こういう面白いシーンはなくて、そこは少し残念ですが、ひとつだけドラマファンとして気になったのは、今回の主舞台となる美浜町。ミハマ……というと、ドラマに出てきたハムスターのミハムを思い出しました。
紗和が結婚しているとき飼っていた、つがいのハムスケとハムミ。あるときハムミが行方知れずになって、代わりにミハムがやってきたのですが、最終回でハムミが戻ってきてしまう。ハムスターの三角関係はどうなるか? と思わせて終わったドラマが、映画は、ミハマ(美浜)町で、紗和と北野と乃里子の三角関係がはじまるという。これはシャレでしょうか、とドラマファンだった者としては深読みしたくなりました。
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