「ひよっこ」49話、衝撃の工場倒産、週頭から西日ばっかりですが朝ドラです

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連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第9週「小さな星の、小さな光」第48回 5月29日(月)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出:田中正


49話はこんな話


向島電気の倒産が決まり、工場はあと一ヶ月で閉鎖になるという、衝撃の告知がされて、乙女たちは呆然となる。

不穏な月曜日


8時10分(ドラマ時間ではなく、本放送の放送時間で)、主任・松下(奥田洋平)から、衝撃の報告が。

「お父さん、頭の中がまっ白になりました」(みね子)
辛い・・・。あまりに辛い月曜日だった。
増田明美のナレーションによると、昭和40年は高度成長期では唯一の不況の年だったそうで、よりにもよってみね子はその年に就職してしまったとは・・・。

これまでの東京での日々があまりに多幸感に満ちていたから、ダメージはよけいに大きい。その点では、岡田惠和はなかなか人が悪いが、優れた作家は人が悪いものなのだ(これが悪口ではないことは聡明な皆さんにはわかりますよね)。

しかも現実では、北朝鮮がまたも弾道ミサイルを発射して、「あさイチ」のはじまりは、そのニュースで、安倍晋三首相の穏やかならざるコメントが流れて、よろしくない週のはじまりになってしまった。

朝ドラだっていうのに、西日場面が多く感じる。49話は朝の場面もたっぷり描かれてはいたけれども・・・。

時子(佐久間由衣)が読んでいた「三人姉妹」の台本が、ドラマを物語っているような気がした。
はい、「三人姉妹」は、ロシアの作家・チェーホフの代表作(39話で時子がオーディションの予行演習していたときに登場した「桜の園」もそのひとつ)で、ものすごく簡単に説明すると、軍人だった亡き父の赴任先で、いつか故郷モスクワに帰る日を夢見て慎ましく生活する三人姉妹の物語。
いろいろあって、期待がもろくも崩れたあとの、姉妹の台詞が有名だ。
イリーナ「(前略)でもまだ当分は、こうして生きて行かなければ・・・・・・働かなくちゃ、ただもう働かなくてはねえ!(後略)」
オーリガ「(前略)ああ、可愛い妹たち、わたしたちの生活は、まだおしまいじゃないわ。生きて行きましょうよ!(後略)」(新潮社 神西清訳より)

「ひよっこ」の乙女たちとは境遇が違うのだが、新潮文庫が出ている神西清訳版についた池田健太郎の解説に、「これは人間の美しい夢が、俗悪な日常的な現実のなかでしだいにしぼんで枯れてゆく話である」とあり、今の「ひよっこ」は徐々にそういう感じになりつつある気がしてドキドキする。ただ、この解説には続きがあって、枯れてゆくだけでは終わらない。「ひよっこ」もきっと大丈夫だ。だって、まだまだこれからだもの。

下町の太陽と団地


西日といっても太陽は太陽。
愛子(和久井映見)が冒頭、口ずさんでいたのは、映画「下町の太陽」(63年)の主題歌。28話でも熱唱してたこれは、現在「家族はつらいよ2」が公開中の、巨匠・山田洋次監督のデビュー2作目。もともとは、倍賞千恵子が歌った同名の歌がヒットして、映画になったという流れだそう。
映画の内容を簡単に説明すると、下町の工場で働く女性が、この頃、流行っていた団地に憧れるお話。49
話では、あとで、幸子(小島藤子)が松戸の団地の記事が載った雑誌を見て、うっとりしている場面が出てくる。このころ、松戸では団地がそこここで建設され、都市としての発展をはじめていた。幸子は結婚して団地妻になることを夢見ていたのかもしれない。みね子も、がんばったらいつかこんな素敵な暮らしが・・・と考えるが、そんな乙女たちのささやかな望みは、工場の倒産によって、このままむざんに砕かれてしまうのか。

さて、この「下町の太陽」、amazonの映画ジャーナリスト斉藤守彦による解説では、山田洋次が、ヴィスコンティの「若者のすべて」(60年)のような映画を目指したとある。奇しくも岡田惠和が、連ドラでオリジナル脚本を全話書いた作品のタイトルは「若者のすべて」(94年)で、決して豊かではない環境で、働く若者たちの群像劇だった。
(木俣冬/「みんなの朝ドラ」発売中)