書籍『いい親よりも大切なこと』著者にきく、今の母親や子どもを取り巻く息苦しさとは?

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「子どものためにやってあげたいことがたくさんあるのに、なかなかできない」「ちゃんとしつけができているのか不安」「いつも笑顔でいたいのに、ついイライラしてしまう」……。

頑張り屋の親ほど育児で追い詰められている。そんな親たちに対して、肩の力を抜いてみると、子どもといる楽しさが見えてくる!という気持ちから、保育士の資格を持つ起業家2人が一冊の書籍を書き下ろし、話題となっている。それが、『いい親よりも大切なこと』(新潮社)だ。


今回、この書籍の著者である、小竹めぐみさんと小笠原舞さんにインタビューする機会をいただいた。おふたりは、こどもみらい探求社という会社を立ち上げ、メインのコラボ事業・人材育成事業の他に、自主事業として、おやこ保育園・ほうかご保育園の運営を行っている。

■まずは、0〜2歳の子どもの母親をサポートしたい


―― おふたりが起業しようと思ったきっかけを教えてください。


小笠原さん(以下、敬称略):私たちふたりは、どちらも現場で保育士をしていました。保育現場で子どもたちと毎日過ごすのも、保護者の方とやり取りをするのも、とても好きな仕事だったのですが、子どもたちは保育園だけで育っていくわけではないと、仕事をしていくうちに気づきました。保育園を含む社会や環境にもっと重きを置いて、そこを整えることを保育士としてできたらいいなと思うようになっていったんです。ところが、そういう事業を行っている会社はあまりないんですよね。そこで、ふたりで会社を作ることにしたというわけです。

―― 今運営されている「おやこ保育園」は、0〜2歳までのお子さんが対象ですよね。活動内容を拝見すると、親も一緒に参加しています。親が働く間に子どもを預けるという、一般的な保育園とは位置づけが違うようですが、どうしてこのような保育園を作ったのでしょうか。


小竹さん(以下、敬称略): 0〜2歳のお子さんを持つ親は育休を取っていたり、保育園に預けられなかったりして、親は子どもと長時間2人っきりで過ごしています。この年代の子どもを持つ親たちからのSOSをこれまでたくさんキャッチしてきたので、それに対して私たちに何かできることがあるんじゃないかと感じたんです。逆に、保育園に預けられたのなら、子どもたちの居場所はすでにできているので、そういった悩みを感じにくいのかなと思いました。だから、親子で参加する未就園児向けの保育園を作りました。

特に0歳は、「まだ何も出来ないので、行く場所がない」というママたちの声をよく聞きます。私たちとしては、0歳から出会ってほしいことが山ほどあるのになぁ……という思いもありました。それで、私たちが作るものは出産後、外に出られるようにさえなれば参加できるというものにしました。

小笠原:活動をしていると、0〜2歳のママからの心の叫びが特に多く聞こえてきます。小さい子はまだ言葉がうまくを話せないので、大人の思うところの「コミュニケーション」が取りづらいですよね。特にひとり目の子のママは、いくら本やインターネットなどの情報を読んだところで、自分の子どもがしゃべるわけではないのでわからないことだらけですよね。一方で、私たちはたくさんの子どもたちや親を見ているので、引き出しが多いし、アイデアも持っているので、それをお伝えできれば嬉しいなと思いました。

―― おやこ保育園は園舎があるわけじゃないんですよね?

小笠原:そうです。今、東京はお寺のホールを借りて、京都はオフィスの中の会議室を借りて実施しています。

小竹:本来、子ども向けに作られた施設でなくても、どこでもできるということを大切にしています。私たちの活動に興味を持っていただいて「うちでやりませんか?」と声をかけてくださったり、お互いのニーズが合致して、そこでやらせてもらったりして、これまでさまざまな場所でおやこ保育園をしてきました。東京と京都のほかにも、単発でも何度か実施しています。商業施設のカフェや公園などで開催したこともあります。

―― もうひとつ運営されている「ほうかご保育園」は、オンラインなんですよね。こちらをやろうと思われたきっかけは何でしょうか。

小笠原:おやこ保育園は10回シリーズで卒園するプログラムです。今、東京は8期で、京都は2期が始まっているんですが、卒園後もこういう場を求めていたり、定員や住まいの遠さ、お子さんの年齢から、おやこ保育園には入れなかった方が、ほうかご保育園のほうに来てくれています。

■個性は千差万別。万能なアドバイスなんてない


―― 今回、『いい親よりも大切なこと』を出版しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

小竹:おやこ保育園をやっていくにつれて、来てくださった方が良い方向に変化していくのをすごく感じたんですね。私たちの知っていることが届くと、こんなに良い意味で変化が起きるんだなと。ありがたいことに、おやこ保育園は口コミですごく反響があるのですが、場所が遠かったり、申し込みたいけれどすでに満員になってしまったりして、希望者全員が参加できるわけではありません。それで、おやこ保育園に来れない方でも私たちの知っていることを届けたいと思うようになりました。それが本を出そうと思ったきっかけです。

―― この本に書かれている「子どものためにしなくていいこと」ですが、このような引き算の発想はどういうところから思い至ったのかを教えてください。

小竹:私たちの周りは物も情報も、便利なサービスもあふれていてとても豊かですよね。でも、豊かすぎることで逆にマイナスに転じてしまうこともあるんですよ。私も小笠原も、海外旅行で途上国に行き、物がない中でも、子どもも大人も工夫をして生きている姿を目の当たりにしました。その後、日本を見渡してみると、物や情報があふれすぎていることで、何かの歯車がおかしくなっているのかもしれない、と。だから、たくさんのものを与えるより、必要なものを最低限整えていくと、本当に意味のあるものだけが残っていき、本当に必要な選択ができるのではないかと感じました。

―― 子育てにおいて、最低限やらなければいけないことと、しなくていいことの線引きの基準ってひとことでいうと何なんでしょう。

小竹:「それはひと言で言えませんよ」ということが、まさにこの本に書いてあること、言いたいことなんです。なぜかというと、あまりにもみんな違うので、ひとことで言えるわけがないんです。誰かに答えをきくことがそもそも遠回りであって、むしろ目の前に答えが実はある。自分でつかむしかないんですよね。

この本で伝えたいのは、何歳だからとか、男の子・女の子だからとか、イヤイヤ期だからとか、そういう言葉でひとくくりにしているアドバイスとは正反対のことです。私たちは一人ひとりの個性が違いすぎるというのをよい意味で目の当たりにしてきたので、同じイヤイヤ期でも、子どもによってまったく違うし、ひとくくりにアドバイスできないことに気づきました。逆に、ひとくくりにしているアドバイスを受け入れるのは危険だと思っています。

小笠原:最後の5章に書きましたが、自分とパートナーと子どもの個性の組み合わせで家族があると感じます。そこが一番肝なので、ベストな育児には答えがありません。私たちも、実際に育児相談をされても、その人たちを見ないとわからないんですよね。答えがないからこそ答えがほしくなってしまうとは思うんですが、自分たちの今をよく観察して、自分と子どもとのことをよく見て、そこで自分たちのオリジナルを作っていくことが楽しめればいいなと感じています。

面談などで保護者の方からの悩みに答えるとき、「過去に、近しい個性を持った子のケースはこうでしたが……」という話はできます。でも、そのアドバイスをしたことによる変化はその子によって違うし、親がどうしたいかも人によってさまざまです。だから、私たちはヒントは出しますが、決めるのは親や子ども自身だということを大事にしてほしいんです。

小竹:育児の参考にするために読んだのに自分の子どもとのずれで不安になる方が多いですよね。せっかく自分が今よりも子どものことをわかろうとして本を読んだのに、逆に本の情報と現実とのずれがあってもっとわからなくなって、不安が生まれて、それで私たちに相談してくる方がとても多いです。冷静に考えれば、よその子の事例が自分の子と違うのは当たり前の話なんですけど、「一般的には」という言葉が専門家の言葉で語られてしまうと、「うちの子はまだだ」「うちの子はそれはできない」ということで不安になってしまうんです。

情報自体に良い悪いはないのですが、不安になりやすい方は、一般的な情報を見るよりも、目の前で一緒に子どもを見ながら、自分の園の保育士の先生に「うちの子ってこうですよね」と話しかけてみる方が、具体的なヒントが得られて参考になるかもしれませんね。

【記事後編】
大切なのは、目の前のものを見て自分で考えること。『いい親よりも大切なこと』著者にきいた、育児のポイント


今井 明子
編集者&ライター、気象予報士。京都大学農学部卒。得意分野は、気象(地球科学)、生物、医療、教育、母親を取り巻く社会問題。気象予報士の資格を生かし、母親向けお天気教室の講師や地域向け防災講師も務める。