導入が進んでいる機内Wi-Fi。日本の国内線で初めてそれを導入したJALによると、背景には「飛行機」が抱える課題があったといいます。機内Wi-Fiがより一層定着すれば、空港や機内での過ごし方にも影響を与えるかもしれません。

課題は「飛行機」に対するイメージ

 近年、飛行機の機内でも利用できる例が増えてきたWi-Fiサービス。2014年7月、日本の国内線で初めてそれを導入したJAL(日本航空)に話を聞くと、その背景には「飛行機」の抱える課題がありました。


JAL国内線の機内インターネット接続画面。2017年8月31日まで、無料で利用できるキャンペーンが行われている。

 JAL商品・サービス企画本部の江幡考彦さんによると、国内線にWi-Fiを導入したのは、搭乗手続きなどの手間、制限が多いという飛行機のイメージを払拭し、ストレスなく“電車と同じ感覚”で利用できる移動手段として飛行機を身近に感じていただきたいという思いがあるそうです。


機内Wi-Fiでは現在地も確認できる。

JAL商品・サービス企画本部の江幡考彦さん。

JAL商品・サービス企画本部の柏木友香さん。

 スマートフォンの普及と利用時間の増加にともない、移動中にインターネットを使うことが日常化した現代。しかし飛行機に搭乗すると通信できない、すなわち「普段当たり前にできていることが、機内ではできない」というお客様のストレスを少しでも減らしたいと、江幡さんは話します。

インターネットが飛行機のアドバンテージに?

 実際にWi-Fiを利用した乗客からは「飛行機でインターネットが使える」ことに驚きの声が多くあがっているとのこと。機内でメールをチェックしたり、旅行先の情報を調べたり、機内で撮った写真をすぐSNSにアップしたりと、利用シーンは広がりを見せています。「飛行機ではできない」と思われていたことが日常と変わらず、電車と同様に楽しめるようになりました。

 鉄道やバスなどの陸上交通では、トンネル内で通信できないことがありますが、飛行機でそれはほとんど起こりません。場合によっては「むしろ飛行機のほうがネットにつながりやすい」という、一昔前の常識を覆すような状況になったともいえるでしょう。「機内Wi-Fi」が、ほかの公共交通に対する飛行機の新たなアドバンテージになるかもしれません。

常に赤道上空を向くアンテナ 機内インターネットの仕組みとは?

 機内でのインターネットサービスは衛星通信によって実現しています。JALの江幡さんによると、機体上部にある“こぶ”のような突起に内蔵されたアンテナで、赤道上空の静止衛星と通信。インターネットに接続しているそうです。内蔵アンテナは可動式で、自動的に衛星のほうを向くようになっているとのこと。


機体上部にある“こぶ”のような突起の内部にアンテナがある(画像:JAL)。

機体上部にある“こぶ”のような突起の内部にアンテナがある(画像:JAL)。

機内Wi-Fiでは空港や天気の情報なども得られる。

 この機内Wi-Fiサービスが使えるのは、離陸の約5分後から、着陸の約5分前までです。離着陸時、飛行機は旋回して上昇、下降することがあり、言い換えれば衛星の方向がころころ変わるため、通信を確立するのが難しいことから、離着陸時の5分間は使えないといいます。

「日本の国内線」ならではの課題も 世界的にも類を見ないケース

 国内線に機内Wi-Fiを導入するにあたって、「日本の国内線」ならではの課題もあったそうです。

 JALはこの機内Wi-Fi導入にあたり、アメリカのGogo社の技術を使っていますが、アメリカの国内線はボーイング737型機といった定員が比較的少ない飛行機が多く、また国際線ではボーイング777型機といった大きな飛行機が使われても、国際線仕様のため定員がそれほど多くありません。

 しかし日本の国内線では旺盛な需要から「定員が多い大型機」が導入されており、JALのボーイング777-300型機国内線仕様は標準座席数が500。それほどの乗客が使える機内Wi-Fiの導入は、世界的にも類を見ないケースだそうです。江幡さんは、どうすれば通信品質を維持しながらWi-Fiサービスを提供できるか、実機での検証と議論を重ねたそうです。

 なお、JALは国際線においては国内線より2年早い2012年に、機内Wi-Fiを導入しています。

飛行機は電子機器NG」どう払拭? 空港の過ごし方が変わる可能性も

 ただ、課題はまだ残っているといいます。

「『飛行機では電子機器が使えない』というイメージはやはり根強く、機内Wi-Fiの利便性が伝わりにくい部分もまだまだ大きいです。そうした状況を変えていくことが一番の課題だと考えています」(JAL商品・サービス企画本部 江幡考彦さん)

 また、国内線へのWi-Fi導入を主導したJAL商品・サービス企画本部の柏木友香さんは、客室乗務員の経験と女性の視点を生かし、利用者に寄り添ったサービスを目指しているといいます。たとえば、接続手順を伝えるためのリーフレットには画像を多く掲載。わかりやすくなるよう、心がけているそうです。


JAL商品・サービス企画本部の江幡考彦さんと柏木友香さん(2017年5月、恵 知仁撮影)。

「国内線は幅広い年齢層のお客様がご搭乗されるので、女性やご年配のお客様にとっても、Wi-Fi利用のハードルを下げたいという思いがあります。『どういった点がわかりにくいか』を掘り下げ、ストレスなく利用できるようサービス向上に努めていきます。また近い将来、機内Wi-Fiが“日常的なもの”として定着したとき、どういったサービスを提供するかという点が重要です。今後も通信品質の向上や、JALの機内ならではサービスを提供していきたいと考えています」(JAL商品・サービス企画本部 柏木友香さん)。

 飛行機に対するイメージが変わり、「機内でも手軽にインターネット」が定着すれば、メールのチェックなどをしていた出発前の時間をショッピングや食事に使えるようになるなど、空港での過ごし方も変化するかもしれません。