『謎』

写真拡大

90年代前半。ヒットチャート上位には、ビーイング系歌手の曲が多数ランクインしていました。世にいう「ビーイングブーム」です。
最盛期は1993年。当時は同社所属アーティストの売上が音楽業界全体の7%を占めるという、凄まじい状態にあったものです。

素性を隠して神秘性を強調したビーイングの戦略


こうした隆盛の背景にあったのは、巧みなメディア戦略。中でも特徴的だったのが、アーティストに関する情報規制の徹底ぶりです。
特に女性歌手の“何も教えてくれない感”は異常。ZARD、大黒摩季、倉木麻衣、GARNET CROWなど……。彼女たちが世に出たての頃は、歌声とジャケ写のビジュアル以外、ほとんどの素性が秘密のベールに包まれていたものです。

もちろん、ビーイング以前にも荒井由実や中島みゆきなど、メディア露出を控えることで神秘性を獲得していた実例はいくらでもあります。
しかし、この路線を体系化したのは、おそらくビーイングが初。その結果、神秘性を持った歌姫たちを次々と生み出すことに成功したのでした。

そんなビーイング産・女性歌手の究極系ともいうべき存在が、本稿で紹介する小松未歩です。

「小松未歩」とは何者だったのか?


いったい何が究極系なのかというと、この小松未歩、一度も公の場に姿を現したことがないのです。

大黒摩季、倉木麻衣などは、デビュー後しばらくしたらポツポツとテレビに出ています。あのZARDでさえ、1999年に単独ライブを行いました。
しかし小松未歩だけは、動いているところを確認した一般人が誰もいないのです。

さらに、公式プロフィールに本名や年齢も記載されていないという、あまりの実体のなさゆえ、「初音ミク以前に誕生した、日本初のボーカロイドだったのでは?」などと、ネット上で囁かれたりもしています。

『名探偵コナン』のオープニング曲でブレイク


そんな謎に包まれた小松未歩が世に広く知られたのは、1997年4月7日のこと。この日、日本テレビ系列のアニメ『名探偵コナン』のオープニングテーマとして、彼女のファーストシングル『謎』が初オンエアされました。

OPにふさわしいアップテンポな曲調ながら、どこかミステリアスな雰囲気漂うこの曲は、コナンの作風にピッタリ。

実際、番組側からも相当気に入られていたのか、コナンの主題歌史上最長となる計44話(約1年間)使用されました。
そのうえ、2015年9月5日〜12月12日の計14話分では、『La PomPon』というビーイング系ダンス&ボーカルグループによる『謎』のカバー曲が使われています。それほど、この曲はコナンにハマっていたのです。

『めざましテレビ』も担当していた


こうしたアニメとの相乗効果もあって、『謎』はデビュー曲ながらオリコン初登場9位にランクイン。売上枚数35万枚という、スマッシュヒットを記録します。

その後も、コナンと小松の蜜月は続き、3rdシングル『願い事ひとつだけ』、6thシングル『氷の上に立つように』が連続でエンディングテーマに。それぞれオリコン最高位8位・5位と、上々の結果を残しました。

他にも、『めざましテレビ』(フジテレビ系)のテーマソング用に書き下ろした4thシングル『チャンス』がオリコン3位にランクインしたり、2ndアルバム『小松未歩 2nd 〜未来〜』が80万枚を売り上げたりと、順調な歌手人生を送っていた小松未歩。

しかし、2006年11月22日に初のベストアルバム『小松未歩 ベスト 〜once more〜』を発表して以降、パッタリと活動が途絶えてしまいます。
2000年に入ってから少しずつ続けていたブログも、2009年1月12日以降、現在に至るまで更新した形跡がありません。

これだけ世間を賑わせた大手プロダクションの人気アーティストが、何の発表もなく忽然と姿を消してしまうというのは、きわめて稀なこと。詳細なことは何もわかっていません。
しかしながら、こうした徹頭徹尾一貫した不明瞭さ・謎の多さもまた、小松未歩の魅力といえなくもないでしょう。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonより謎