名調教師がオークスを語る

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 東京競馬場の2400メートルで優駿牝馬、オークスが行なわれる。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、桜花賞から一気に距離が延びることで、陣営は何を考えるのかについて解説する。

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 圧倒的1番人気だったソウルスターリングが3着に敗れた今年の桜花賞は、この時期の牝馬の難しさを改めて思い知らされました。

 レーヌミノルは、昨年8月の新馬戦とGIII小倉2歳Sの2勝がともに1200メートル、その後4戦すべて重賞を使ったものの勝っていなかったので8番人気でしたが、ずっと強い相手と戦ってきているし、実はそれほど負けていなかった。根幹がしっかりとした男馬のような馬体で、タフな経験が花開いたのだと思います。競馬は場数を踏めば踏むほど強くなり、そこで崩れてさえいなければ、使いながら体調を上げていく馬もいるということです。

 そういう強い馬が桜花賞で速い流れを経験すると、オークスでも期待できる。東京競馬場の広く長い直線で力を出し切れる。牝馬のこの時期は「距離適性」というより馬の能力が高いので、強い馬は走れてしまうんですね。

 距離が延びるからといって、調教が大きく変わるということもありません。坂路主体だったのが、下(コース)で追い切る本数が増えるぐらいでしょうか。

 かかりグセの抜けない馬ならば、桜花賞の1600メートルを使った後ではタメが利きにくくなることもある。そんな馬がオークスを目指す場合、思い切って桜花賞を避ける選択肢もあるかもしれません。

 クラシックロードを走る牝馬にとっては、オークスには春最後のレースというイメージがあります。2400メートルは過酷ではあるけれど、夏場しっかり休むことができます。長い距離を走ったからといって悪い影響を残すということは考えません。

 もちろん、オークスを回避するという選択もある。この時期は2歳馬が入厩し、ゲート試験などが始まるタイミング。次世代の準備を始める時期ですね。馬房数の関係があるので、3歳馬を無理に使おうとするよりは、2歳馬を入れて様子を見たいということがある。これまでクラシック戦線で頑張ってきた馬でも、体調がひと息ならば思い切って放牧に出します。秋華賞トライアルは秋競馬がスタートしてすぐ始まります。そちらに照準を合わせていけばいいのです。

 角居厩舎では、桜花賞を直前で断念したサロニカを立て直して使う目論見でしたが、脚の疲れが抜け切れず、残念ながら回避となりました。そのため、今年はクラシックへの出走がないかと思っていたら、スイトピーSで、前走未勝利を脱出したばかりのブラックスビーチが勝って優先出走権をゲットしてくれました。

 OP馬や重賞で好走してきた馬もいたレースでしたが、使うごとにタイムを詰めてきていたので、なんとか権利をとれないかと思って初めての遠征に出しました。東京競馬場の長い直線で早い上がりにも対応することができたことは大きな収穫です。

 距離が延びるのはやや微妙ですが、相手なりに走ることができるレースセンスのよさが持ち味。ディープインパクト産駒で、ダービーに予備登録したほどの期待馬です。桜花賞を闘ってきた馬はもちろん強敵ですが、ここでいいレースをしてくれると秋が楽しみになります。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、サンビスタなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。

※週刊ポスト2017年5月26日号