サンボマスターが目指した音楽とは

 サンボマスターが10日に、9thアルバム『YES』をリリースした。山口隆(Vo、Gt)、近藤洋一(Ba、Cho)、木内泰史(Dr、Cho)による3人組ロックバンド。2000年に結成。2003年にオナニーマシーンとのスプリットアルバム『放課後の性春』でメジャーデビュー。日本語にこだわった歌詞と熱いバンドサウンドで、2005年には社会現象になったドラマ『電車男』主題歌「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」がヒットし、2015年の映画『ビリギャル』主題歌「可能性」を手掛けるなど長年にわたり現在も第一線で活躍している。前作から2年ぶりとなる本作は、山口が「みなさんが痛みや悲しみと戦うための、新しい音楽を作りたかった」と語るように音作りに徹底してこだわり、約1年という長い期間を費やして制作されたという。彼らが目指した新しい音楽とは? その制作の苦労話や彼らの考える音楽について聞いた。

緻密な計算の上でエモくぶっ叩く!

山口隆

ーー2年待ったかいのあるアルバムだと思いました。自分の存在や、やって来たことなど、聴く人のことを全肯定してくれている感じがしました。作る上で、テーマにしたことは、どんなことでしたか?

山口隆 まず、新しい音楽をやりたかったんです。人間には、その都度襲って来る闇とか悲しみ、痛みがあるわけで。新しい音楽があれば、それと戦えると思うんですね。新しい音楽があれば、聴いた人がその痛みと戦うときの支えになるし。だから新しい音楽を作りたいと思ったんです。

 今はテレビも8Kの時代で、ハイレゾなどで音も格段に良くなっています。でもそれは、ドーンと叩いたときの音を、大きく見せたりきれいに見せたりするために、手が加えられたものでもある。俺たちが望んだものは、ドーンと叩いたときの、ドーンをそのまま出してくれっていうことなんです。

ーーアナログレコーディングするということではなくて?

近藤洋一 もちろんデジタルで録るんだけど、それはみなさんが聴くCDや配信のフォーマットにするためです。

 今の音は、デジタル的なデフォルメで成り立っている部分が大きくて。一旦出した音を使って、表面をどうきれいに見せるかとか、余計な音をカットしたりということをおこなっています。

 僕らはそうではなくて、あとでデフォルメやカットをしなくても良いように、最初から余計な音を一切出さないように、音を出す前の時点から楽器一つひとつの音の存在を徹底的に作り込みました。

木内泰史 僕らがスタジオで鳴らした、手元で鳴った音を聴いて欲しいと思ったんです。そのために、本当に計算された音作り、楽器選び、マイクの配置が成されています。バスドラの位置はここ、ベースはこことか、実際に本番のレコーディングで音を出すまでに、すごく時間をかけて緻密に作業しています。

山口隆 だから、朝から翌日の朝まで、ずっと音を作ってましたね。サムさんというテクニシャンの方が、音のプロデュースもやってくれたんですけど、空間的な部分を学術的にちゃんと数値化してやってくれて。

 後で音程とかを調整も出来ないから、ちょっとでもずれるとやり直しで。ベースなんか、最初からやり直しになった曲もあって。

近藤洋一 誰も見たことのないところに行こうとしているわけだから、誰も正解が分からないんです。それなら、とことんこだわってやろうという意気込みで臨みました。

ーー非常に生々しい躍動感のある音ですが、その裏には、実はそういう緻密な計算があったというのは驚きですね。

山口隆 難しいのは、「エモくぶっ叩く」ということも、計算のうちに入っていることなんです。だから、思っている以上にエモくぶっ叩かないと、良い音にならない。

木内泰史 こういう緻密に計算したという話をすると、下を向いて手元でやってる様子をイメージするかもしれないけど、本番はみんな一発で“ドーン”という感じで録っています。感情で叩くという部分では、今までで一番じゃないか、というくらい感情を込めて叩きました。

山口隆 使った楽器も、音を追求するために何千万円もするビンテージがあって。傷がつかないように気をつけて、ベルトのバックルを外して弾いたりしました。「YES」のいちばん最初のギターがそれなんですけど、それでもやっぱり思い切り“ガーン”とやらないと、良い音が出なくて。

近藤洋一 でもガーンとやると、チューニングがずれるんです。だから、もはや禅問答のようでしたよ。こちらをこうすれば、あちらがああなるしで…最適解を探すために延々時間を費やしました。

ーーそういうお話を聞くと、2年ぶりに新作を出せたことが、むしろ早かったくらいに感じますね。

近藤洋一 実際に、音の質感は今までにない新しいものになったと思います。僕らのメッセージとして、新しい音を乗せることが出来た。細かい技術的なことは分からなくても、聴いた瞬間「新しさ」は感じてもらえると思います。

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