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●段階的にOracle ERP Cloudによるクラウド移行を実施

OracleのSaaSが好調だ。直近の四半期ではPaaSと合わせて売上高が前年同期比86%増、SaaSの累計顧客数は1万3100社を上回った。そのSaaSの大規模な顧客の1社がOracleだ。Oracleは社内で「Oracle ERP Cloud」の導入を進めている。クラウドの導入により、業務はどう変わるのか――Oracleのファイナンス&ビジネスオペレーション担当バイスプレジデントのCheryl McDowell氏に話を聞いた。

--Oracleでは、どのようにしてOracle ERP Cloudの導入を進めているのか?--

McDowell氏: 1999年頃に、ITの統合と財務部門のシェアドサービスの統合を進めた。これにより、全従業員が同じアプリケーション、モジュールを使うという素地を整え、グローバルインスタンス、シェアドサービスへと発展させた。

その際、シンプル化、標準化、中央化(シングルインスタンスとシェアドサービス、自動化という4つのステップによるマイグレーション方法論を確立した。最初に、財務業務とITの両方で何を簡素化できるのかを考え、全員が同じバージョンを使い、KPIなどで同じ"言語2を話すように標準化した。3ステップ目の中央化では、債務管理、債権管理など一部の会計機能を動かした。そして、4つ目のステップはセルフサービス主導の自動化を考えるというもので、今回のクラウド移行にあたっても、この4ステップを利用している。

3年前にマイグレーションをスタートしたが、最初からフルでクラウド実装を行うのでなく段階的に進めている。

最初に行ったのは、クラウドサービス「Fusion Accounting Hub」(総勘定元帳のエントリーとなり、複数元帳と複数会計基準の仕訳生成エンジン)の導入で、オンプレミスと共存する形をとった。次に、グローバルで標準の勘定科目を整備した。

合わせて、2006年に買収したインドのOFSS(Oracle Financial Services Software、旧名称「iFlex」)を100%クラウドにすることで、スタッフがクラウドを実際にテストして、オンプレミスとの違いやメリットを実感することができた。

2017年12月に全社レベルのクラウド実装が完成することになっている。

--クラウドを使ってみて、メリットと感じているところ、デメリットと感じているところを教えてほしい。--

McDowell氏: まず、効率とスピードが大きく改善した。

情報がクラウドにあるので、すぐにそれをレポートに反映させることができる。これまでは、取引について知りたい時は担当者に電話をして聞くなどの必要があったが、簡単に情報を得ることが可能になった。さらには、スマートフォンで財務情報にアクセスできる。

これまで、決算や履歴、社員数、営業担当の生産性などの情報を見るために「Sales Intelligence」を使っていたが、現在はダッシュボードに情報が表示される。ダッシュボードは役割ベースなので、自分が必要とする情報に効率よくアクセスができる。

当然ながら、われわれはオンプレミスのOracleがどのようなものかを知っていたが、クラウドにおいては、プロセスが簡素化される。コラボレーションも簡単だ。私が所属しているグローバルビジネスファイナンスグループは、予算やフォーキャストなどでビジネス部門と協業することがあるが、クラウド上でコラボレーションできるのでプロセスを高速化できる。

バグなど不具合についても、修正が速い。オンプレミスではカスタマイズが必要だったが、クラウドではカスタマイズが不要になった。その代わり、拡張機能を利用している。カスタマイズがないため、ERPとHCMをマージするような使い方、双方で情報を簡単にやり取りできる。こうした使い方は、カスタマイズのあるオンプレミスでは不可能だった。

例えば、財務側のシステムで社員数を見る場合、裏ではHCMと連携して情報を得ている。ユーザーはどのシステムと連携しているのかなどと考えることなく、必要な情報を得ることができる。こうした連携は、オンプレミスとクラウドの大きな違いだ。

--製品開発チームに、フィードバックは行っているのか?--

McDowell氏: われわれは提供者であると同時に顧客なので、その立場から開発側にフィードバックを送っている。

例えば、HCMの機能に報酬を管理する機能「Workforce Compensation」があるが、われわれはアーリーアダプターとして利用し。責任者を1人任命し、この人がすべてのフィードバックを収集して開発部門に渡し、開発部門にとっては、ビジネスパートナーとしての役割を果たした。

フィードバックの多くが、直感的に使えないなどの操作に関するものだった。われわれの部門がこのツールを使うのは年に数回だが、次に使った時にフィードバックはきちんと反映されていた。

「CPQ Cloud」についても、上級管理職を含む社員がテストして、フィードバックを提供した。その内容はやはりユーザビリティが中心だ。簡単に使えなければ、これまでのシステムからマイグレーションするとなった時にスタッフから反発が出るからだ。

週単位でどのようなエンハンスや修正があったのかを報告してもらい、われわれが使ってみてフィードバックを送る、というプロセスを繰り返した。

●財務部門で求められるスキルを取得できる教育プログラムを構築

--オンプレミスからクラウドに移行したことで、グループ内ではどのような変化があったか?--

McDowell氏: 財務の仕事は変化しており、何があったか(過去)だけでなく、予測が必要とされる。そのため、一部の社員のスキルセットを変える必要があると実感している。

そこで、社内で2つのことを進めた。具体的には、財務部門の既存スタッフのスキルや能力を確認し、新たに財務部門で人を採用する場合、採用担当と密に協業して、必要なスキルを持つ人を雇用するようにした。

これらに加え、Oracle Academy(Oracleの教育事業)をグローバルビジネスファイナンス内に持ち込んだ。まずは、Oracle Talent Management Cloudチームの協力を得て、従業員向けの自己評価ツールを設計した。自分の強さ、弱みを理解してもらうのが目的だ。具体的なプログラムの設計では3つの柱を持たせた。3つの柱とは、新たな従業員、財務アナリスト、シニアだ。

新たに勤務する人に対しては、財務でどんな知識が必要かなどの基本的なことに加えて、ExcelのスキルやOracleのビジネスがどのように運営されるかを理解してもらう。

財務アナリストは新たに勤務する人の次のレベルとなり、財務上の指標をきちんと理解し、将来の見通しを立てられるようになるのがゴールだ。

シニアは経験を積んだ社員が対象で、ビジネスパートナーとしての役割を果たせることを目指す。ビジネス側の幹部とコラボレーションしたり、洞察を含んだプレゼンができたり、投資家との関係を理解したりといったスキルを求めている。

社員はこの3つの柱をステップアップしていく形で、継続的に受講していく。

Oracle Academyとの教育プログラムを通じて、求められているスキルは大学で1週間のコースを受講して得られるという類のものではないことがわかった。Oracleが求めているものに合わせたプログラムを作る必要があったのだ。

人材は重要だ。誰かを雇用する時、こんなスキルを持つ人が欲しいと指示を出すが、求めるスキルセットが昔とは異なる。これまでは会計に経験がある人を雇用していたが、現在は投資銀行に勤務経験がある、データの視覚化やデータ分析ができるといった人が欲しい。もちろん、基本的な会計のスキルが必要な部署もあるが、私の部署ではそれだけでは不十分だ。

--日本の財務部門にアドバイスをいただきたい--

McDowell氏:

今、デジタル革命が起きており、世界は目まぐるしいスピードで動いている。デジタル化を受け入れない企業は、生き残りが難しくなるだろう。

そうした中で重要なことは、デジタル化などの変化を脅威として見るのではなく好意的に見ることだ。方法はいろいろある。ビッグバンのアプローチでもいいし、われわれのようなハイブリッドなアプローチでもいい。さまざまな方法があり、柔軟に進めることができる。自社の状況を踏まえ、適したアプローチを選択していただきたい。