『介護殺人 追いつめられた家族の告白』毎日新聞大阪社会部取材班(著) 新潮社
介護によって精神的・肉体的、あるいは経済的に追い詰められ、要介護者である自分の親を殺すまでに至ってしまう……。『介護殺人 追いつめられた家族の告白』(新潮社刊)では、そうした事例について加害者の証言を交えて考察しています。プレジデントオンラインでは、3人のケアマネージャーに本書を読んでもらい、座談会を行いました。現在、介護の現場で働いている人たちは、こうした事例をどう読み、どう感じるのでしょうか――。

■心優しい人が、なぜ、老親に手をかけるのか?

介護殺人 追いつめられた家族の告白』(新潮社刊)という本を読みました。

毎日新聞大阪社会部の記者たちが、介護の果てに肉親を手にかけてしまった人たちに会い、その告白から、どうして殺人に至ってしまったのかを探る内容。新聞のシリーズ企画「介護家族」に掲載された記事を書籍用に加筆・編集されたものです。

大変な労作です。

取材対象となる加害者たちは、ごく普通の人たち。いや普通以上に心優しく、要介護者である老親に深い愛情を注いで懸命にケアをしています。その一所懸命さゆえに追いつめられていき、限界を迎えて心中を試み、自分だけ生き残ってしまったケースがほとんどです。

登場人物は、言葉では言い表せないような自責の念、深い後悔に苛まれています。罪を償った後は多くが行方知れずとなり、身を隠すように生きている。記者たちは、その行方をなんとか探し出し、話を聞こうとします。

当然、断られます。

最愛の人を殺めた時のことなど、とても言葉にできるものではありません。それでも、心の内を語ってもらうことで介護の現実を知ってもらうきっかけになる、そこには難題を乗り越えるヒントが含まれ同じ過ちを犯す人を少なくすることができるかもしれない、という使命感に駆られた記者は、断られても断られても、彼らのもとを訪ねます。そして少しずつ心を通わせ、数人の重い口を開かせることに成功しています。

これほど困難な取材はありません。

傷ついた人の内面に踏み込むわけです。語られるのも極限に近い重い話であり、耐えられないほどの緊張感があったはずです。告白者は一部を除いて仮名ですが、そのようにつむぎ出された言葉は胸に迫るものがあります。

本書は介護に対する問題意識を喚起するという点で読む価値があるでしょう。殺人にまで至ってしまった極端な例ではありますが、普通に暮らしていた人が介護によって、ここまで追い込まれてしまうことがある。それを知ることで読者は各自そうならないための対処法を考えたり心の準備をしたりできるわけです。

■要介護の老親を「殺す」人に共通するプロセス

ただ、一般の読者にとってそれは難題でもあります。それで、ふと介護の専門家はこの本の内容をどう受け止めるのだろうか、と思い、いつも介護現場のことを聞いているケアマネージャーのIさん、Sさん、Yさんに読んでもらうことにしました。

3人に集まってもらって話を聞いたところ、「一気に読みました」と声を揃えました。3人とも日々、多くの要介護者とその家族と接しており、悲劇的なことが起きないように注意を払って対応していますが、この本の告白事例には思い当たることも多く、改めて気を引き締めたそうです。

ただし、その一方でIさんは次のようなことも思ったといいます。

「私が担当しているご家族には、この本で告白されている方と同等、いやそれ以上の厳しい状況にある方がいます。介護の負担においても、経済状況においても。家族が抱える悩みはそれぞれですから、本の記述だけでは判断できませんが、同様の状況でも挫けることなく介護を続けている家族はたくさんいるんです。読んでいて、この人たちはなぜこの状況で心中を決断するところまで追い詰められてしまったんだろうとも思いました」

Sさんも、それにうなづき、こう語ります。

「この本で告白をしている人は、自分を大切にしていないような印象を持ちました。親御さんへの愛情からかもしれませんが、すべてを介護に捧げて肉体的にも精神的にもボロボロになってしまっている。でも、冷静に考えたらそれはおかしい。介護を続ける、つまり親御さんのことを思うなら介護するほうが健康でいなければなりません。倒れたり絶望したりしたら元も子もないんです。そのためには、時には手を抜くことも必要。自分を大切にすることが重要なんです」

この本の事例にはある共通点があります。

要介護者に付きっ切りでケアをしているため睡眠不足になり、それが原因で肉体や精神に変調をきたす。そして、付きっ切りの介護をするために仕事を辞め、経済的に困窮して追いつめられるというものです。

「ほとんどの介護者が経験するのが睡眠不足ですが、つらくなってきたら我々ケアマネに相談していただければ、睡眠を確保する方法を考えることも可能です。昼間だったらデイサービス、夜眠るためにはショートステイを利用することが考えられますし、認知症で夜中に大声を出して眠れないなら、受け入れてくれる病院を探す手もあります」(Iさん)

要介護者本人がそれらを嫌がることもありますが、自分を守るためには情に流されず、そうした決断も必要だといいます。

■親が“要介護7”の状態でも、介護離職は絶対するな

「介護離職は絶対にしないでほしい」というのはSさんです。

「親への情と経済力をはかりにかけたら、やはり大事なのは経済力。収入がなければ介護は行き詰ってしまいます。私が担当している家族には奥さんが要介護度2、お母さんが同5のダブルケアの状態で仕事を続けている方がいます。その方は自営業で商売を始めた時の借金がまだあって仕事を辞めることができない。借金を抱えながらの仕事と介護は本当に大変そうなんですが、それでもご本人の努力と我々が知恵を出すことで、乗り切っています」

仕事や自分を守るために要介護者に付きっ切りになれないということに不安を感じるのであれば、それを手軽にフォローできる新しい民間のサービスを利用することを考えるべきだといいます。

「以前、象印が無線通信機を内蔵した電気ポットを開発し、お湯の使用状態から高齢者の異変を察知する見守りサービスを始めたことが話題になりましたが(「みまもりほっとライン」)、最近ではさまざまな業種が事業の特性を生かしたサービスを提供するようになっています。たとえば、セキュリティ会社の見守りサービス。トイレなどの生活導線にセンサーを設置し、一定の時間内に動きがないなど異変があった時は、セキュリティ会社に通知され、家族への連絡や担当者の訪問指示を行なうものです。また、家族が見守り環境を作ることもできます。『見守りカメラ』というのがあるんです。このカメラを家内に設置し、留守中に撮影した映像をスマートフォンなどで確認できます。これにより、要介護者の状況をいつでもチェックすることができます」

もちろん、こうしたサービスや環境整備にはお金がかかります(見守りカメラは1万円前後)。しかし、それによって介護のために仕事を辞めずに済んだり、要介護者に付きっ切りで睡眠不足になるのを防げたりするのであれば、その出費は相殺して余りあるのです。要は、Iさんたちケアマネージャーが言いたいことは、介護殺人という悲劇的結末を迎えるくらいなら、あらゆる手段を動員してそれを防ぐべきだということ。

ケアマネージャーなどの専門家の知恵、民間の見守りサービスや見守りカメラなどのテクノロジーなどを利用することで、そんな悲しい事態は防げるというのです。

3人のケアマネージャーからは、それ以外にも、介護殺人という悲劇を招かないための発言を聞きました。次回に紹介したいと思います。

(ライター 相沢 光一 相沢光一=文)