伝統の長距離GI天皇賞・春(4月30日/京都・芝3200m)は、昨年の勝ち馬で、今年初戦のGI大阪杯(4月2日/阪神・芝2000m)を勝ってGI4勝目を挙げたキタサンブラック(牡5歳/父ブラックタイド・清水久嗣厩舎)と、菊花賞(京都・芝3000m)、有馬記念(中山・芝2500m)とGIを連勝中のサトノダイヤモンド(牡4歳/父ディープインパクト・池江泰寿厩舎)の2強の様相を呈している。キタサンブラックは強力な先行力を武器に今や目を見張る充実ぶりを見せており、昨年の秋以降で敗れたのは年末の有馬記念のみ。その有馬記念で死力を尽くした攻防の末、勝利を挙げたのがサトノダイヤモンドなのだから、この2頭に人気が集中するのも無理はない話だ。

 しかし、「両雄並び立たず」は、競馬の鉄則である。さらに、近年の天皇賞・春は波乱の傾向が強い。過去20年で17頭を超える出走頭数となったのは13回。そのうち、1番人気が勝ったのは06年のディープインパクトのみで、それ以外の12回は連対すらできていないのだ。実力馬が実力を発揮しやすい長距離戦のはずだが、頭数が多くなると紛れも多くなるようだ。


ここに来て評価が急上昇しているシャケトラ

 では、その紛れが起きるとした場合の一角崩しはどの馬か。すでにGI で勝負付けが済んでいる馬からは考えにくい。となると、浮上するのが遅咲きの大器を予感させるシャケトラ(牡4歳/父マンハッタンカフェ・角居勝彦厩舎)だ。サトノダイヤモンドと同じ”最強世代”とされる4歳馬。しかし、そのサトノダイヤモンドやディーマジェスティー(牡4歳/父ディープインパクト・二ノ宮敬宇厩舎)が皐月賞、日本ダービーと春のクラシックで死闘を繰り広げていた頃、まだデビューすらしていなかった。

 もともとは世代の中でも素質馬と見られており、育成時代もGI級の馬と伍して劣らない動きを見せていたのだという。しかし、体質が弱く、ソエなどに悩まされ、ようやくデビューにこぎつけたのが、すでに下の2歳世代の新馬戦も始まった6月12日の未勝利戦(阪神・芝2000m)。ここを断然人気に応えて、この馬のキャリアがスタート。続く7月の美濃特別(中京・芝2000m)では3着に敗れるも、ここからじっくり間隔を取って使われると、10月の500万下条件(阪神・芝2400m)、12月の境港特別(阪神・芝2200m)と連勝。格上挑戦で出走した年明けのGII日経新春杯(1月17日/京都・芝2400m)では53kgの軽ハンデだったとはいえ、古馬の重賞でいきなり2着と通用するところを見せた。そこから2ヵ月半後に出走して勝利を収めたのが、日経賞(3月25日/中山・芝2500m)だ。

 角居厩舎の辻野泰之助手は、その充実ぶりに厩舎全体が驚いているという。

「ソエが出たり、体質の弱かった3歳時と比べて、見違えるように体質も強くなって、前走後も順調に調整できています。日経賞も前走から斤量が2kg増えても、むしろ強い内容。この内容ならGIも行ける、と実感しました。12月の段階でまだ1000万下条件だったので、年が明けてこんなにスムーズにいくとは全然考えてもいませんでしたから、厩舎でもみんな驚いていますね。

 初めての3200mになりますけど、折り合いはまったく問題のない馬ですし、(天皇賞・春も制している)マンハッタンカフェの仔ですから、むしろ悪くないと思います」

 また、日経賞から手綱を取る田辺裕信騎手はレース前の経緯と感触をこう振り返る。

「それまで乗っていた浜中(俊)騎手が騎乗停止で乗れなくなって、そこで声を掛けてもらいました。関東の先輩騎手などから、『シャケトラに乗るのか。あの馬いいぞ』と言われていたんですが、僕は普段、ほかの馬はあまり気にしていないんで、まだピンときてなかったんですね。それで、同じ週の高松宮記念で乗るソルヴェイグの調教に乗りに栗東に行ったとき、シャケトラにも乗せていただいて、跨ってみると『おっ、この馬走るぞ!』と。言われていたことになるほどと思いましたね」

 日経賞では後方待機から、外めを終始追走。向こう正面から徐々に進出していき、4コーナーで前を射程圏に入れると、ゴール前でひと伸びを見せて勝利。しかし、レースプランは田辺騎手が思い描いていたものとは異なるものだったという。

「スタートでちょっと出負けしてしまって。そうなったら慌てて位置を取りに行くよりも、リズムよく追走して仕掛けていけばいいかな、と思って前半はあのポジションでした。ところが、向こう正面でも2番手のミライヘノツバサが楽に見えて、うわっ、これはまずいぞ、と。スーっと上がっていくように見えたかもしれませんが、正直なところ、向こう正面の手応えはそんなによくなかったです」

 では内を回らず、外を回って行ったのはこの馬に力があると思ったのではなかったのか。

「力があるのはわかっていましたが、それと内外のコース取りは別ですね。実は最近、馬のリズムを崩してまでインにこだわるよりは、馬によっては多少距離ロスがあっても気分よく外を回してもいいのかな、と考えているんです。いい感じで上がっていってもコーナーを回るときに、インを回るとどうしても勢いを削いでしまう。そこからもうひと伸びって、実は簡単じゃないんですよね。レースの終盤ですから、当然馬はバテてるんですから。特に中山ではコーナーが急な分、それが顕著。外を回していったのはそれが理由です」

 それでも最後まで伸びを見せ、粘りこむミライヘノツバサをゴール前で差し切った。ところが、これにも田辺騎手はかぶりを振る。

「あれも伸びているのではなく、実はバテているんです。4コーナー手前なんか特に勢いよく上がっていってるように見えますけど、前の馬の脚色がなくなっているからそう見えているだけで。最後はシャケトラもバテている中で、パッタリと止まるのではなく、バテ合いに勝った、という感じですよ」

 さらにひと言、付け加えた。

「もちろん、そこがシャケトラの強さなんでしょう。それは本番でも武器になると思いますよ」

 スローペースを後方からまくって勝つ、力がなければできない芸当だ。ましてやこのレースのタイムは、昨年の有馬記念とコンマ2秒差。位置取りの違いはあれども、上がりタイムは有馬記念のサトノダイヤモンドやキタサンブラックを上回るものだ。

「当然、2強は強いと思います。キタサンの(武)豊さんは他の馬に気を取られず自分の競馬に徹するでしょうし、サトノのルメール騎手もキタサン以外眼中にないでしょう。その隙を突きたいな、と思います」

 もちろん枠順にもよるだろうが、ここでも馬のリズムを重視した位置取りになるのだろうか。

「課題は2回4コーナーを回ることですよね。京都の4コーナーは特に坂を下ってきたところで、しかもコーナーがキュッとなっている。勢いを殺さずに馬を走らせようとすると、どうしても外に広がっていってしまう。大きく外を回ってからインに切れ込むように曲がれればいいんでしょうけど、1頭で走るわけじゃないですからね。とはいえ、条件は他の馬も同じですから、くよくよ考えても仕方ない」

 田辺騎手がこれまで中央競馬で勝ったGIは16番人気コパノリッキーによるフェブラリーSと8番人気ロゴタイプによる安田記念。ともに断然人気馬を負かしてのものだ。

「人気はともかく、関東の騎手で、関西のこういった馬に続けて乗せてもらえることなんて、そうそうないですから。結果を出せなければ、すぐに替えられてしまいます。相手は強いですが、何とかしてやろうとは考えていますよ」

 目下、関東リーディング1位のジョッキーは不敵な笑みを見せた。

■競馬 記事一覧>>