粒ぞろいの役者がそろう、今年の3歳牝馬。まさしくハイレベルな世代のクラシックがいよいよ開幕する。

 第1弾は、GI桜花賞(4月9日/阪神・芝1600m)。3戦3勝のファンディーナこそ、翌週のGI皐月賞(4月16日/中山・芝2000m)へと向かうが、それでも世代を代表する有力馬がズラリと顔をそろえた。

 そんな中でも、下馬評はソウルスターリングの断然ムードとなっている。ここまで4戦4勝の同馬は、昨年のGI阪神ジュベナイルフィリーズ(2016年12月11日/阪神・芝1600m)を快勝した2歳女王。今年初戦のGIIIチューリップ賞(3月4日/阪神・芝1600m)も楽勝し、文句をつけようがない臨戦過程で臨んでくるのだから、それも当然だろう。当日は、単勝1倍台の圧倒的な支持を集めそうだ。

 だが、過去の歴史を忘れてはいけない。桜花賞では、それも近年においては、「断然」と言われた優勝候補が”まさか”の敗戦を立て続けに喫しているのだ。

 昨年は、阪神JFを勝って年明けのクイーンC(東京・芝1600m)も圧勝したメジャーエンブレムが単勝1.5倍という断然人気となったが、4着に完敗。さらに一昨年は、牡馬相手の重賞を制して3戦3勝で臨んだルージュバックが単勝1.6倍という支持を集めたが、9着に沈んだ。いずれも、馬券対象となる3着以内にさえ入れなかったのだ。

 うら若き乙女の戦いだからこそ、今年もそんな波乱が起こる可能性は大いにある。とすれば、桜花賞の歴史を振り返って、大本命ソウルスターリングを打ち負かしてくれそうな”金星”候補を探してみたい。

 ここ10年の桜花賞を見て、明確な傾向として浮かび上がるのは「チューリップ賞組の強さ」である。それはかなり際立ったもので、前走がチューリップ賞だった馬が過去10年で8勝している。しかも多くの年で、前走「チューリップ賞組」が2着、3着にも入っており、この臨戦過程を無視することはできない。

 前述したとおり、今年のチューリップ賞を制したのは、ソウルスターリング。であれば、断然ムードに拍車をかけるだけだが……実は、そんなことはない。

 もう少し詳しくデータを見てみると、8勝を挙げているチューリップ賞組でも、そこを勝って、そのまま桜花賞を連勝した馬は2頭しかいないのだ(2014年=ハープスター、2009年=ブエナビスタ)。それ以外は、チューリップ賞で敗れた馬が本番で逆転を決めている。同じ舞台の前哨戦で「勝負づけが済んだ」と思っていても、実際は結果が変わることが多いのだ。

 そこで、今年面白い存在として挙げられるのは、2着ミスパンテールと3着リスグラシューである。そのうち、特に逆転候補として推したいのは、リスグラシューだ。




ソウルスターリングの逆転候補として期待されるリスグラシュー 阪神JF、チューリップ賞と、ソウルスターリングには2度続けて後塵を拝している。しかも、逆転の期待もあったチューリップ賞では、不利があった阪神JFのときとは違って、スムーズな競馬をしながら、さらに差を広げられて3着敗戦。ライバルに水をあけられて、桜花賞ではもはや逆転を期待する声さえ聞こえてこない。

 だが、チューリップ賞から結果が変わるケースの多さを鑑(かんが)みれば、見限るのは早計。例えば、2007年の桜花賞馬ダイワスカーレットも、前哨戦のチューリップ賞ではウオッカに完敗。「本番でも及ばない」と見られていた。にもかかわらず、本番で見事な逆転劇を演じた。

 また、リスグラシューの強みとなるのは、鞍上が桜花賞5勝という武豊騎手であること。先週のGI大阪杯も勝って波に乗っている。ここ一番における”天才”の手腕を期待してみるのも悪くないのではなかろうか。

 続いて、近年の桜花賞馬を見てみると、善戦しながらも、重賞ではあと一歩及ばなかった馬が、本番で戴冠するケースが相次いでいる。

 昨年の勝ち馬ジュエラーは、デビュー戦を勝ったあと、GIIIシンザン記念(京都・芝1600m)、チューリップ賞と続けて2着に敗れていた。一昨年の覇者レッツゴードンキも、新馬勝ちのあとは、4戦連続で重賞に挑んで、すべて2、3着と好走止まりに終わっていた。さらに、2013年に7番人気で勝ったアユサンも、新馬戦を勝ったあと、重賞では惜敗の連続。勝ち星から遠ざかっていた。

 とはいえ、どの馬も善戦した重賞で能力の高さを示していたのは確か。ジュエラーはシンザン記念で出遅れながら、ただ1頭、後方から追い込んできた。レッツゴードンキは、GIの舞台(阪神JF)で2着。トップレベルの実力があることは早くから証明していた。さらにアユサンも、2戦目のアルテミスS(東京・芝1600m)では、直線一気の追い込みを見せて僅差の2着となった。

 要するに、あと一歩の競馬が続いていても、その中で優れた”資質”を見せてきた馬なら、金星をゲットできる可能性があるということだ。

 そこで浮上するのが、アエロリット。

 同馬はデビュー戦を快勝したあとは、3戦連続で2着に終わっている。しかしながら、敗れたレースの中でも秘めた能力の一端を見せてきた。

 例えば、前々走のGIIIフェアリーS(1月8日/中山・芝1600m)では、前半1000mが58秒0というハイペースの中、2番手で追走。多くの先行馬がバテて失速していくのを尻目に、最後まで粘って2着と踏ん張ったのである。

 前走のGIIIクイーンC(2月11日/東京・芝1600m)でも、勝ち馬アドマイヤミヤビとコンマ1秒差の2着と好走。桜花賞でソウルスターリングの「逆転候補筆頭」と言われる相手と、最後まで競り合った末脚には光るものがあった。

 過去に金星を挙げた面々と共通した部分を持つアエロリット。同馬にもソウルスターリングを逆転するチャンスはあるはずだ。

 最後に、このアエロリットを物差しにして考えると、フェアリーSで同馬を下し、続くトライアルのアネモネS(3月11日/中山・芝1600m)も勝って本番に挑むライジングリーズンも侮れない。

 過去、こういったパターンで桜花賞を制した馬はいないが、重賞、オープン特別と2連勝しながら、その評価は低い。人気の盲点と言え、「穴党」としては気になる1頭だ。

 刻一刻と迫るクラシック開幕戦。はたして、桜舞う阪神競馬場で”勝利”という花を咲かせるのはどの馬だろうか。

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