GI大阪杯(4月2日/阪神・芝2000m)において、有力馬の1頭に挙げられているサトノクラウン(牡5歳)。かつて、デビュー3連勝を飾って3歳春のクラシックへ進んだ逸材は、その後の低迷期を乗り越えて今、再び輝きを取り戻し始めている。


昨年末の香港ヴァーズでGI初勝利を飾ったサトノクラウン 昨年、サトノクラウンはGII京都記念(2016年2月14日/京都・芝2200m)を快勝。古馬となってから一層の活躍が期待されたが、その後のGI戦では3戦連続で凡走した。GI天皇賞・秋(2016年10月30日/東京・芝2000m)にいたっては、何ら見せ場を作れずに14着と大敗を喫している。

 結果、巷では「GIでは足りない器」といった評判さえ囁かれ始めていた。ところが、その直後のGI香港ヴァーズ(2016年12月11日/香港・芝2400m)で一変。同年のGI凱旋門賞(2016年10月2日/フランス・芝2400m)2着馬であるハイランドリールを退けての金星を収めた。

 世界トップクラスの名馬を下して、ついにGIのタイトルを手にすると、その勢いのまま年明けのGII京都記念(2月12日)で連覇を達成。そこでは、昨年のダービー馬マカヒキを一蹴し、一度は沈みかけていた国内での”評価”も取り戻した。

 そして迎えた今回の大阪杯。サトノクラウンにとっては、さらなる地位向上への大きなチャンスと言える。

 ただ、この最近の充実ぶりを「復活」と表現するのは、適切ではないかもしれない。むしろ、以前よりも一段上のレベルにパワーアップした、と見るべきだろう。まさに”完成期”に近づいている、と。

 それを物語っているのが、ノーザンファームしがらき(滋賀県)で同馬を担当してきた小出雅之氏の言葉だ。

 短期放牧の際などには、この地を訪れているサトノクラウン。小出氏が初めて間近で見たのは、デビュー2戦目のGIII東京スポーツ杯2歳S(2014年11月24日/東京・芝1800m)を快勝したあとだった。そのとき、小出氏はこんなことを感じたという。

「パッと見た感じは、決して見栄えのする馬ではありませんでした。馬体には弱さのある部分が見られ、そこをカバーするために、周りの筋力を鍛える必要がありました。それによって、どこまで体の弱点を補っていけるか、そういったことを(当時は)考えていましたね」

 さらに、精神面においても課題があった、と小出氏が続ける。

「2戦目のスタート直前で立ち上がるなど、レースを見ているとうるさそうなイメージがありましたが、実際に扱うとそういった面は感じませんでした。それよりも、本気で走らないというか、前向きさに欠けるところがあったんですよね。マイペースで、わがままな印象でした(笑)」

 未完成の馬体、マイペースな精神面。競走馬としては、心身ともに明らかに改善の余地を残していた。だが、それでいてサトノクラウンは3戦目のGII弥生賞(2015年3月8日/中山・芝2000m)もあっさり勝って、3連勝を遂げる。これには、小出氏も驚きを隠せなかった。

「弥生賞での強いレースぶりを見て、この馬の高い能力を感じました。今後、持っている能力に体が追いついていって、さらに精神面の成長が図れれば、かなりいい馬になるのではないか、と思いましたね」

 弥生賞のあと、クラシックに臨むと、GI皐月賞(2015年4月19日/中山・芝2000m)では6着、続くGI日本ダービー(2015年5月31日/東京・芝2400m)では3着と健闘した。休養後、天皇賞・秋(17着。2015年11月1日)では古馬相手に振るわなかったものの、年が明けて4歳になると、冒頭で記したように京都記念を快勝し、古馬になってからの飛躍を予感させた。

 ただ、これらの時期にも、まだまだ馬体、精神の両面で向上する必要性があったという。ノーザンファームしがらきに滞在した際にも、常にその辺りの強化を図ってきた。

 要するに、サトノクラウンは古馬になっても、まだ発展途上の段階にあった。昨年の京都記念を勝ったあと、香港のGIクイーンエリザベスII世C(12着。2016年4月24日/香港・芝2000m)、GI宝塚記念(6着。2016年6月26日/阪神・芝2200m)、そして天皇賞・秋と3連敗を喫したのも、馬自体に陰りが見え始めたのではなく、あくまでも成長過程にあったにすぎないのだ。小出氏が語る。

「(昨春の)香港は初の海外遠征でしたし、宝塚記念は前日に輸送したあと、イレ込んでしまったという話もあります。もともと気持ちにムラのあるタイプですから、その間は成績が出なかったのかもしれません。馬の状態自体は決して悪くはなかったですし、むしろ好調なときのほうが多かったくらいですから。ただ、そういう状況の中でも、(馬体、精神面ともに)徐々に成長しているのは感じられました」

 3連敗の最中にあっても、サトノクラウン自体はレースを重ねるごとに完成期へ向けて着々と前進していた。あとは、馬体面と精神面の成長がぴったりと合致する瞬間を待つだけだった。

 そして、その瞬間こそが香港ヴァーズでの快勝劇だった。このレースを終えてノーザンファームしがらきに戻ってきたとき、小出氏はサトノクラウンが完成に近づいたことを確信したという。

「だいぶ体がしっかりしてきたと感じましたね。以前は、走ったときの左右のバランスの差が気になったのですが、(その差が)かなり少なくなっていました。精神的にも子どもっぽさが抜けて、わがままなところを見せなくなってきたんです。だいぶ人のほうに意識が向いて、(鞍上の)指示を聞くようになりました」

 デビュー以来、浮き沈みの激しい成績ではあったが、成績のいいときも、悪いときも、サトノクラウンは未完成の状態からゆっくりと成長し、心身ともに進化を遂げてきた。ゆえに、「復活」ではなく、「完成期に近づいてきた」という表現が適しているわけだ。

 デビュー直後は能力だけで勝っていたが、「今はすべてがそろってきた」と小出氏。そして、その成長を生んだのは、この馬を管理する堀宣行厩舎の力だという。

「デビューから今までずっと、堀厩舎はあくまでも馬の成長を最優先して、いろいろと考えながら調教をこなし、慎重にレースを選択してきました。デビュー3連勝のときも、成績が出なかったときも、その方針を変えずにじっくりと育てていったんですよね。そういった馬本位の育成が、今につながっていると思います」

 こうして、ひと皮むけたサトノクラウンは、大阪杯で初の国内GIタイトルの獲得に挑む。決戦を前に、小出氏はこんな思いを吐露した。

「サトノクラウンは、自分が厩舎長になって初めて重賞タイトルを獲得した馬。しがらきでもずっと自分が乗ってきましたし、思い出深い存在です。ですから、ここでがんばってくれればうれしいですね。血統的にも日本では珍しい馬なので、大阪杯を勝つことで種牡馬への可能性も広がればいいと思います」

 サトノクラウンは、母親の受胎中に日本へとやってきて誕生した”持ち込み馬”となる。そのため、日本には数少ないマルジュという種牡馬の血を引いている。国内に同じ血を持つ馬が少ないため、自身が種牡馬になったときは、配合の自由度が極めて高い。そういった意味でも、種牡馬入りへ向けて大阪杯の勝利は大きな価値を持つ。 若駒時代にはなかった心身両面の力強さを備え、5歳となって完成期を迎えたサトノクラウン。国内屈指のタレントがそろう大一番で、いよいよその真価を見せつける。

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