不安を感じた点を挙げればキリがないほど、ツッコミどころ満載の試合だった。

 W杯アジア最終予選、タイ戦。勝利はもちろん、得失点差での”貯金”も作りたかったこの試合で、日本は注文どおりに4-0と大勝した。

 この結果、日本は前節までグループ首位だったサウジアラビアを得失点差で逆転し(勝ち点はともに16)、今回の最終予選では初めて首位に立った。結果だけを見れば、万々歳の試合である。

 だが、肝心の試合内容はというと、望みどおりの結果からは想像もつかないほど、まるで酷いものに終始した。

 とにかく目についたのが、パスミスだ。

 低い位置でモタモタとパスをつなぐばかりで、なかなかボールが前に進まない。しかも、効果的なパスコースを見つけられず、最終的に安全第一で選択したはずの”逃げのパス”でミスを犯す。最悪の形でボールを失うことの連続だった。

 また、ボールを失ったあとも、相手ボールへの寄せが遅れる。あるいは、相手を囲んでいるのにボールを奪い切れない。そんなシーンが続くなかで、タイにパスをつながれ、何度もきれいな形で崩された。時間帯によっては、防戦一方の表現も決して大袈裟ではなかったほどだ。

 タイ代表のキャティサック・セーナムアン監督が「プレーの質の差」を敗因に挙げたように、両チームの間にある選手個々の実力差は大きかった。その結果、日本は失点することはなかった。だが、日本の4つの得点シーンを除けば、試合内容で上回っていたのは、明らかにタイのほうだ。


日本はミスが目立ち、タイに何度となく決定機を作られた「自分たちで自分たちを苦しめてしまった。4-0で勝ったが、気持ちよく終われた印象はない」

 険しい表情でそう語ったDF森重真人は、「もっと(ボールを)動かしながら前(へのパスコース)を探して、いいタイミングで(縦パスを)入れたいが、探している時間が多かった」と振り返る。

 先制点がそうだったように、1本の長いパスでシンプルに相手の背後を突く攻めは、それなりに形になった。森重も「(相手の背後は)最初に狙うべきところ。ボールを奪ったあと、すぐにそこを狙うことは意思統一できている」と話す。

 しかしその一方で、「90分間、それだけだと体力的にキツい。落ち着く場面も必要」だと森重。にもかかわらず、「自分たちがボールを保持しているときに(攻撃が)スムーズにいっていない」。結局、日本は効率よく得点を重ねていたにもかかわらず、実力上位の余裕は最後まで見られず、まったくと言っていいほど落ち着く時間を作れなかった。

 これだけミスをすれば勝てない。

 普通なら、そんな言葉で振り返らなければいけなかったはずの試合である。幸いにして大事には至らなかったが、昨年10月のイラク戦(試合終了間際のMF山口蛍のゴールにより、2-1で辛勝)に勝るとも劣らないほど内容は酷かった。

 とはいえ、不安を感じた点はそれだけではない。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の選手起用にも、疑問を抱かざるをえないものが多かった。

 まずは、DF酒井高徳のボランチ起用。ビルドアップがノッキングし続けた原因のひとつが、ここにあったことは否定できない。いくら所属クラブでは務めたことのあるポジションだとはいえ、チームが変われば役割も変わる。それをいきなり公式戦で、しかも攻撃的に進めて大量得点がほしい試合で、というのは無理があった。

 昨年9月のUAE戦でMF大島僚太をボランチ起用したときもそうだが、ハリルホジッチ監督は事前に”慣らし運転”する機会を与えず、新しい選手を(酒井高の場合は新しいポジションで)突然先発起用する。もちろん、先日のUAE戦のMF今野泰幸のように望外の成果を生むケースもあるが、一般論で言えば、その確率のほうが低い。

 もっと精神的に楽な状況で、事前に試す機会を作ってもよさそうなものだが、この日の試合を見ていても、3-0になって勝負が決してもなお、例えばMF遠藤航やFW浅野拓磨に経験を積ませることはなかった。それどころか、限られた交代枠をMF本田圭佑やFW宇佐美貴史といった、所属クラブで出場機会が少ない海外組の”リハビリ”に使ってしまっているのが実状だ。

 とりわけ、本田に対する厚遇は著しい。すでに経験も実績もある選手なのだから、無理に今使わなくてもコンディションが上がってきたときに戻せばいいはずだが、先日のUAE戦といい、このタイ戦といい、必ず出場機会を与えている。どちらの試合も展開上、本田が必要だったというより、本田を試合に出すことが目的だったのだろう。

 ハリルホジッチ監督は試合後、「本田にクラブでの状況を改善してほしいと話した」という。だが、所属クラブで試合に出られなくても、当たり前のように日本代表に呼ばれ、試合にも出してもらえる。これではむしろハリルホジッチ監督自身が、本田の決断(指揮官が望んでいるのは移籍だろう)を先延ばしにさせている可能性すらある。

 チグハグな采配に、ギクシャクした攻撃。W杯出場に大きく近づいた大勝も、目立ったのは悩みの種ばかりである。

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